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自閉症児の親に聞く|カナダの療育やインクルーシブ教育について

  • 最終更新日:
カナダの療育とインクルーシブ教育

今回は障害児を持つ親御さんの無料コミュニティ・ほっとサロンの勉強会で、カナダ在住自閉症児のママ【マーセラス朱美さん】をゲストとしてお呼びさせていただきました。

 

海外の障害者教育に対する考え方とは?子供の平等とは?

 

朱美さんには、カナダの療育とインクルーシブ教育について語っていただきましたので、ぜひ最後までご覧ください。ぜひ「行動」の後押しができると幸いです。

マーセラス朱美さんプロフィール

 

マーセラス朱美

マーセラス朱美さん

プロフィール
昭和46年生まれ、岩手県大船渡市出身、岩手県立大学宮古短期大学部卒業。短大在籍中一年間休学、イギリスのロンドンへ語学留学、留学をきっかけに海外生活に可能性を見出し短大卒業後そのままカナダへ移住。2児の母、長男自閉症。障害児の子育てを通してカナダの多様性社会での気づき、そしてインクルーシブ社会の素晴らしさを改めて学ぶ。現在は、インクルーシブ環境で得た自分の体験、事例等、様々なSNSで発信。

 

この記事の内容は動画でも視聴できますので、お好きな方でご覧ください。

カナダのインクルーシブ教育を発信するキッカケ

朱美
こんにちは。マーセラス朱美です。12歳と10歳の2人の男の子の母親で12歳の長男が自閉症です。息子は3歳の時に自閉症と診断されました。

 

日野
カナダのインクルーシブ教育について発信しようと思ったキッカケの主な理由はなんでしょうか?

 

朱美
理由としては、日本でも興味を持っている方がたくさんいること。

 

インクルーシブ教育にたくさんの可能性を見出している一方で大きな違和感というか懸念を抱いている方々がたくさんいらっしゃったこと。

 

日野
海外の事例を知りたい人は、本当に多いと思います。

 

朱美
日本で育った私が障害児の子育てを通してカナダのインクルーシブ教育で感じたことや体験したこと、学んだことを共有出来たら良いなと思って発信を始めました。

 

日野
なるほど。

 

朱美
療育、福祉、障害者の生活について皆さんの参考にして頂ければ幸いだと思っています。

 

お辞儀をする猫

 

カナダのインクルーシブ教育とは

日野
実際日本でも今インクルーシブについて、色々な方々が話題にしていることが多いですが、カナダでは実際どんなことをしていますか?

 

朱美
ネット検索をすると障害がある方とない方が共に学ぶことを通して共生社会の実現に貢献しようとすることと出てますが、実際カナダの方は「インクルーシブ」という言葉をあまり使ってらっしゃらないんですよ。

 

日野
そうなんですね!では、どういった風に?

 

朱美
インクルーシブという言葉自体はあるのですが、みんな一緒に学ぶ教育というものが当たり前になってるんですね。

 

障害があるないに執着せず、すべての子供たちが同じ環境で同じ学びを得れることが前提とされているんです。

 

子供が平等に学ぶ権利を尊重している教育システムだと思います。

 

健常者も恩恵を得られることも

日野
障害のある方が学びやすくなるだけでなく、いわゆる健常者と言われる人たちも恩恵を受けているという内容の記事がありましたね。

 

『【海外のインクルーシブ教育】カナダのインクルーシブ教育を自閉症児の親が解説』

 

朱美
私が常々思うことなんですけど。カナダというのは、英語だけでなく他国の言葉も聞こえてくる。

 

多文化主義なんですよね。だからか多様性のある教育が一般的なんです。

 

日野
へえ!なるほど。

 

朱美
インクルーシブ教育を考えた時に、ヒューマンセンタードデザインという言葉を耳にして。

 

最初から組み込んだプログラムを教えるのではなく、個人のニーズをとらえ、そこからプログラムを生み出していく。

この言葉を聞いたときに私が思ったことが、カナダのインクルーシブ教育はこれだと!

 

日野
ビビッと来たわけですね!

 

朱美
ふふふ。そうですね。

 

与えられたものをそのまま教え込むのではなく、個人個人の生徒の個性を見て、そこから教育を進めていく。先生たちが試行錯誤して。

 

外国の先生と生徒

カナダの学校では療育が当たり前

朱美
カナダの学校では、日本で言われている、障害児のためのABA。

 

応用行動分析学なんですけど、普通のクラスの中でも使われているんです。それが療育とは思っていない。

 

日野
普通のクラスで扱われているからですか?

 

朱美
そうですね。療育の例としても視覚的にも分かりやすい教材になっていて、それがたくさん使われていたりします。

 

ABAについては、過去の動画で黒氏さんが子育てに絡めて語っていただきました。

 

少し変わった面白い教育

朱美
あとよく使われているのが、自分の感情をうまく言葉で表現できない時に色で感情を表すとか。

 

普通の感情の時は緑色グリーンゾーンですけど、怒りが沸き上がって仕方ない時は赤のレッドゾーン。

 

ちょっとおかしな気持ちは黄色を使う。

 

日野
へえ、おもしろい!

 

朱美
発達障害児の子だけじゃなくて、普通の子供もレッドゾーンなんだ、今怒ってるんだ!

 

僕は今ブルーゾーンだから落ち付いているんだとかね。

 

日野
そういうのが当たり前に使われているんですか?

 

朱美
そうなんです!

 

後は一日のスケジュールが黒板に貼られていたりとか、教室の中に授業で疲れたときとか、ストレスを感じたときとか隠れ家を置いている先生とかも居るんですよ。

 

日野
へぇ~!

 

朱美
うちの長男だけじゃなくて、他の生徒もこもれるようになっていて、それもいいなと思います。

 

日野
それはいいですね。

 

 

年齢がバラバラで学べるカナダ教育

朱美
あとカナダにはコンバインクラスというものもあります。

 

2学年ずつ、3年生4年生、4年生と5年生が一緒に学べるクラスが当たり前に存在しているんですね。

 

日野
それは通常のカリキュラムに入っているんですか?

 

朱美
そうですね、クラス全体が一年間一緒のクラスで学ぶという感じですね。理由としては、クラスの人数を調整すること。

 

カナダの小学生は1クラス大体22~28人くらいで回しています。

 

日野
日本より少ないですね。日本は今一クラス35人にしようという動きですから、対照的な感じがします。

 

カナダの校長先生から聞いた【生徒中心】の教育

朱美
もう一つの理由としては、実際の社会は様々な年齢の人が一緒に働いている社会じゃないですか。

 

だから教育も同じように、違う年代の子が一緒に学べる環境を作って進めていくのがいいんじゃないかって考え方なんですね。

 

日野
確かに!

 

朱美
頭がいい、勉強が遅れている。そういう理由でコンバインクラスをするというよりは、この子はリーダーシップがあるから下の学年の子たちに混ぜてリーダー力を育てようとか、得意な部分を先生たちが発掘して、それを伸ばすことに集中する。

 

校長先生のお話を聞いたときに、これが多様性教育だと思いました。

 

日野
まさしくそうかもしれないですね。

 

朱美
そう。生徒中心の教育なんじゃないかって思いました。

 

でも、これは先生に対しても逆に当てはまるところがあって、カナダの学校には教科書がないんですよ

 

日野
え?教科書がないんですか?

 

教科書がないカナダの教育

日野
教科書がなくて、どういう風に勉強を教えているんですか?

 

朱美
先生方がネットから教材を取り寄せてプリントアウトして配ったりとか、自分たちで教材を作ってクラスを進めていくという感じで教えています。

 

だからもう持って帰ってくるとしたら、うちの小学校の場合なんですけど、学校で習ったプリントとか図書館で借りてきた本とかそれぐらいですね。

 

日野
へえ……。先生方は大変でしょうけど、やりがいはありそうですね。

 

本の上に芽生える新芽

 

 

タスク制ではないカナダの教育

朱美
カナダの学校ってコンバインクラスが存在するせいかはわからないんですけど、毎年学年ごとにタスクを終わらせなければいけないというタスク制ではないんですよ。

 

日野
そうなんですか?

 

朱美
昔はあったみたいなんですけど、今はスパイラル方式といって年ごとにタスクがあるのではなく、1年ごとにこれをしなくてはいけないという考えではないんですよ。

 

日野
となると、お休みも変わってくるんでしょうか?

 

朱美
そうですね。学校のクラスメイトが旅行とか2週間休みをとって海外に行くとか、長い時だと1ヶ月くらいお休みとることもあります。

 

日野
ええ~!うらやましいですね!

 

でも進級とかは大丈夫なんですか?

 

朱美
そういう数か月お休みした子でも、次の学年に進級するのは全然大丈夫ですよと聞きました。

 

見聞を広げる可能性

朱美
長男のクラスメイトに家族でアフリカにボランティア活動で数週間出かけた子がいます。

 

行く前にみんなでアフリカの子供たちを救おうという感じでファンドレイジングもして、アフリカ頑張ってね!とみんなで送り出しました。

 

日野
その頃からいろいろな経験ができるのは素敵ですね。

 

朱美
帰ってきたときも、アフリカでの生活や自分たちで集めたファンドがどのように使われたのかを授業で発表していました。

 

学校で授業を詰め込むよりも、本当に学校側も先生も自由でリラックスして授業が受けられるんですよね。

 

日野
それは、子供のためにも先生方のためにも良いことですね

 

日本にもある!学生のボランティア↓

 

教育の中に競争がないということ

朱美
あと、もう一つ思ったのが、テストはあるけども学年テストで順番を競うというのがないんですよね。

 

日野
そうなんですか?

 

朱美
ええ。子供が通う学校を見ていても、テストで順番を競うのもほとんどなくて。

 

勉強ができるから目立つとか、勉強ができないから目立つとかがそうゆうことが全くない。

 

子供たちの中にも比べて競うっていう名がないので、自分基準のペースで勉強ができる環境かなと思います。

 

日野
自分も以前デンマークに行ったことがあるんですけど、デンマークも学年順位がないんです。

 

朱美
へえ~!

 

日野
視察メンバーの一人が校長先生に「学年順位とかはないんですか?」って聞いたら、校長先生が「はて?」みたいな感じで(笑)

 

「なんでそんなことする必要あるの?」みたいな。

 

朱美
うん、うん。

 

日野
カナダのインクルーシブ教育についてお話しいただいていましたが、デンマークに似ているなと思いました。

 

それぞれそのお子さんの特性に沿って進めるのが、教師としてのプロフェッショナルだと仰っていました。インクルーシブ教育とはそれだと思います。

 

黒板に何か書いて微笑む少年

 

トライ&エラーの大切さ

朱美
インクルーシブ教育だと、先生もリラックスして授業を進めていけます。

 

先生も人なので育った環境の強みもありますし、弱みもあります。

 

日野
そうですね。

 

朱美
でもだからこそ、様々な教え方で進めていけるし、そういう環境だと思う。

 

もちろんそれはリスクもあると思うし、例えば先生によっては、新米の先生で全然教えることが出来なくて、子供たちが学びたくても学べない環境が生じてしまう事があると思います。

 

日野
はい。

 

朱美
でも、逆に子供たちはその一年間勉強漬けから解放されて、学校がもう楽しくて楽しくて仕方がない、そんな一年を過ごせるのも悪くはないかなと私は思いますね(笑)

 

日野
子供時代はあっという間で、大人になったらそんな日々は難しいですもんね(笑)

 

朱美
先生が教えてくれないってなれば、親御さんたちも気が付きますし、それはトライ&エラーな感じで挑戦してみて、そこで遅れが生じたりする場合は相談して改善していけばいいかなって思いますね。

 

そういうトライ&エラーを重ねていくことで先生も勉強して成長していくのができると思うし、やる気も出ると思います。

 

 

日本とは違う!カナダの福祉制度

日野
特にカナダの社会福祉制度の部分に日本とは違う印象を受けますので、その部分のお話を聞いてもよろしいでしょうか?

 

朱美
自閉症児サポートの場合になりますが、現在6歳以下で診断が下りた場合、国から年間で2万2千ドルの助成金が支給されるんです。大体2百20万ぐらいですね。

 

子供の名前でアカウントが作られて、アカウントは親が管理するんですが、お金は子供のために使って下さいと振り分けられるんです。

 

自閉症児の子育てをして10年くらいになるんですけど、この助成金のおかげで療育で、自分でお金を払ったことは実はないです。

 

『カナダの障害児サポート事情を自閉症児の親が解説します!』

 

日野
そうなんですね。

 

朱美
勿論ほかの親御さんで他の療育を受けさせるために追加のお金を払っているかもしれないけど、私たちの場合は一銭も払ったことが無くて、却って1年の終りに余らせてしまって。

 

余ったお金は返して、次の年間また2万2千ドルが渡されるという感じですね。

 

日野
なるほど。

 

朱美
ですので、使い切れるのなら使い切った方がよくて。

 

療育のために自分に本を買ったり、療育で使えるおもちゃを買いました。この福祉制度は障害児を持つ親としては凄く有り難い制度です。

 

日野
確かに。

 

親御さんの声で変わったカナダの福祉制度

朱美
ここで皆さんにシェアしたいのが、このシステムは本当に新しいもので2000年代になってから導入された制度なんです。

 

このシステムが導入される前は、本当に自閉症児を持つ親御さん達っていうのがもう少ない助成金の中で限られた療育しか子供に受けさせれなくて、残りの療育費は自分たちで払っていたんですね。

 

日野
はい。

 

朱美
ですが、親御さんたちが声を出して訴訟を起こしたんですよ。

 

国が子供たちを平等に守られる権利というのを怠っているんじゃないか!と訴訟を起こして、勝利しました。

 

そして、このシステムが導入されたんです。

 

日野
親御さんの声からできたんですね!

 

朱美
親御さんたちが自閉症児を守りましょうと声を上げて、この助成金が導入されました。

 

これを聞いたときに、声を上げてくださった親御さん達にすごく感謝をしました。

 

日野
現場の声から政治が変わるのは素敵ですね。

 

朱美
自分もこれからより良い社会に成長していけるように貢献していきたいし声を上げるところは声を上げようと思いました。

 

青空を指さす家族

 

経済効果も期待できる福祉制度

日野
この社会福祉制度の聞いてて良いなと思ったところが民間も競争しあうというところですね。

 

朱美
親が2万2千ドルの助成金を持つことで、親がマーケットの顧客になるんですよ。

 

日野
企業側からしたらそういうことですよね。

 

朱美
ですから、私が療育をリサーチした時も3社くらいの民間の業者さんがうちに来てくれて、各それぞれの療育の方針や内容を教えてくれたんですけど、親も選択肢ができるし、民間もそうやって競争してくれるんで療育のレベルが高いんですよね。

 

だからそれがいいなと思いました。

 

日野
日本だと国から施設側に直接お金が振り込まれるので、個人の助成ではないんですよね。

 

だからカナダみたいに国が直接障害当事者にお金を払うことで、そこで選択肢が生まれので、いろんな企業が自分を選んでくれということで企業努力をたくさんしてくれる。

 

朱美
はい。

 

日野
いろんな療育が切磋琢磨して、療育の質も上がるし、利用者も嬉しいという良い循環が生まれている事ですよね。

 

素晴らしい仕組みだと聞いてて思いました。

 

最後に

肩を組む子供たち

 

朱美
私もそう思います。療育もいろいろあるんですよ。

 

ABAが主な療育というお話をしたんですけど、私たちが実際に受けた療育っていうのがABAの他にR&Rというのがありまして、リファレンス&リギュレットという療育で、それも出来たら後日シェアさせていただけたらと思います。

 

日野
はい。機会があればよろしくお願いします。

 

朱美
本当に様々な療育があるので、私もたくさん学ばせていただいて、社会に育ててもらって成長もできたし、障害児の子育ても極端な話、幸せな子育てができる環境だと思うんですね。

 

日野
はい。

 

朱美
カナダの社会は、子供たちを社会全体で育てているところがあるなと思っていて。

 

子供たちが守られる権利を持っていて、子供たちが親の物ではないというか……

 

子供は社会で育てるものというバランスが取れていて、カナダ社会からサポートを受けながら、子供たちはいろいろな人に育み育ててもらうのが大事だと、カナダ社会から教えてもらいました。

 

日野
貴重なお話、ありがとうございました。

 

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日野信輔

日野信輔

株式会社Nextwel代表取締役。Welsearch編集長。ソーシャルビジネスに特化したWebマーケター。障害者プロデュース・福祉事業所やNPOの伴奏支援などしております。得意分野:工賃アップ/障害者の仕事づくり/集客。詳しいプロフィールはこちら→日野信輔


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