世の中には多くの書籍が発行されていますが、障害の度合いによってはなかなか読書を楽しんだり内容を理解したりといったことが困難な場合があります。
そのような方にとって読書は敷居の高いものなのでしょうか?
今回は、知的障害その他さまざまな理由で読書が困難な方にむけて、簡単な内容でかかれたやさしい「LLブック(エルエルブック)」を発行する社会福祉法人埼玉福祉会の国重様にインタビューを行いました。
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埼玉福祉会の紹介
私どもは元々全国の学校図書館、公共図書館に用品を販売する仕事をしております。
全国の学校図書館、公共図書館にブックコートフィルムという、図書館の本の表面にかかっている本を保護するフィルムや図書館の本のラベル、図書館で使う家具などの販売業です。
また、出版事業もやっておりまして、例えば大活字本という高齢者の方が読みやすいような、活字の大きな本の出版をかなり前からやっております。
図書館には大活字本といえば埼玉福祉会ということで結構覚えていただいている形です。
2016年からは『LLブック』の出版を始めまして、現在7年目となっております。
介護事業でいえば、新座エリアにいちごさんぽ園という名前のいちご園を持っています。
そのいちご園で障害者の方を雇用しておりますし、車いすで訪れても収穫がしやすいようにバリアフリーの農園になっていまして、事業全体で福祉のことを考えながら事業展開をしております。
LLブックについて
LLブックの読みやすい工夫を紹介しますと、まずは理解しやすいような分かりやすい言葉で書いております。漢字もなるべく難しいのを使わずに本の内容によって変わりますが、小学校三年生程度のものにしています。
漢字にはふりがなを振っており、分かち書きと言う言葉のまとまりごとに空白を設けて言葉を捉えやすくするなどの工夫がされております。
特に自閉傾向のある方などはピクトサインがあるほうが理解しやすいと言うお声が現場からもよく出ているので、ピクトサインで内容を補うこともしています。
LLブックの様々な表現方法
例えば『仕事に行ってきます』シリーズという本がありまして、このシリーズは就労できる程度の症状の軽い方向けですね。ですので、内容としてはそれなりに難しいものとなっています。
就労以外では、『ぼくと目の見えない内田さんがであったはなし 』という障害を理解するシリーズを始めてまして、町中で目の見えない方にあったらどうすればいいのかという事を難しくない文章で書いています。
この本にはピクトサインは添えてないですが、図解などを入れて分かりやすくなるような工夫を随所に施しています。
ですので、LLブックだから必ずこうという決まりはないのですが、一般的な分厚い本とか小説や実用書に比べるとかなりやさしいわかりやすい表現で書いてあるものがLLブックの形になりますね。
LLブックの浸透率
そして書籍という形態は一回印刷してしまうとその後文字の大きさを変えたり、図を入れたりすることが容易にできないので、重度の人が本に興味を持ったとしても、内容によってはちょっと難しくて読めないことになりますし、本の種類が少ないと選択してもらうという意味では足りないというのが現状です。
埼玉福祉会としていろいろ出版はしてきているのですが、スウェーデンなどは1つから2つ専用の棚があってそこの本は全てLLブックになっていたりします。
途中から中学生以上の子たちを意識した『美術館にいってみた』という本や、先ほど紹介いたしました仕事シリーズといった通常の本の形で理解が難しい特に中学生以上の方を意識して出しています。
児童書のジャンルでは、やさしく書かれたものが多く出回っていますが、やはりある程度大人向けにやさしく伝える本は出回っていない状況です。
LLブックの活用現場
仕事シリーズですと、本によって自分のなりたい職業のことが、仕事のある丸一日。その方が朝起きるところから夜寝るところまで紹介しています。
仕事に関しては、仕事をしている時間だけが全てではなく、朝起きて仕事場に通勤するという行動も知的障害の方にとっては一つハードルがあるので、こんな風に通勤して仕事が終わったら帰宅し、余暇を過ごしてちゃんと寝て疲れを取る。
そこまで含めて知らないと仕事が継続しないので、丸一日を意識的に紹介しています。
いろいろ職業をなるべくご紹介したいなと思っていまして、性別もなるべく男女比同じぐらいにして、さまざまな暮らし方に合わせてますね。
仕事の中で周りの人に合わせる必要がある場面がありますが、そこをイメージできない方もいらっしゃいますので、本を使っていただいて見通しを立てていただけています。
休憩をとらずに働き続けちゃう方がいたり、あるいは気分転換で別のことしようって言って戻ってこなかったりなどといった休憩のトラブルが多かったので、『仕事に行ってきます プラス ① 休けい上手になろう』いう本を出しました。
出来ている先輩方はどんな風に休憩時間を過ごしてるのかというのを紹介しています。休憩時間に本読んでる人もいますし、おしゃべりしてる人もいるなど、いろいろな休憩のパターンをご紹介しています。
職場の方での工夫も紹介していまして、グリーンルームという休憩の場やリラクッスできるような工夫を紹介したりしていますし、休憩の制度の説明もしています。
休むこともよく仕事のうちと言われますからね。
仕事をするからには、やはりお昼ご飯を何かしらの方法で用意しなければならないので、自分で作っていらっしゃる方のお弁当を紹介しています。
おにぎりだけ作っている方や、グループホームで包丁を使うのを禁止されているので包丁を使わないお弁当を作っている方。料理上手な方のお弁当といった3パターンを紹介しています。
どんな風にお弁当を用意してるのかなというエピソードや、お弁当を作る際に押さえておきたい大事な項目。食中毒にならないように火を通したり道具を清潔にするといった事柄や、簡単な料理のレシピも紹介しています。
当たり前を当たり前と考えないというのが大事というか。
障害をお持ちの方の状態によって何が分かるかという部分で違うんですよね。
最初こうすれば知的障害の人が分かりやすいだろうという何か一つのパターンがあるのかと思ってたんですけど、実際制作してみるとそういうこともなく、文字が大きい方が読みやすい方もいれば小さくても平気な方もいらっしゃる。
拡大でスクリーンに映さないと見えないので、文字の大きさは関係ないという方までいらっしゃいますので、文字の大きさ一つとっても伝え方が難しい部分があります。
LLブックを開始した経緯
あとはスウェーデンがLLブックの本場ということで、スウェーデンに実際行きましてLLブックが浸透している国の様子も見ました。
そのうちに福祉系の出版を手がけている埼玉福祉会がやるのが筋ではないかという風に考えまして、LLブックの出版に至っています。
現状発行部数を少なく、書店にも並ばないのでまだまだ認知されていないので紹介していただくのはありがたいですね。
特に埼玉県は県立の図書館とかでりんごの棚という名前でバリアフリーの本を集めるという試みをしています。
その中にLLブックが入っていたりするのですが、なかなかまだ一般の方にはなかなか知られていない状況です。
本自体はAmazonで出していますし、書店でも取り寄せ可能なのですが、存在自体を知らないと取り寄せてもらうこともしてもらえません。
LLブックを読んだ方からの反響
今まで読書をしても全部挫折していたけれど、初めて読み通せた本なのですごく本人が気に入ってくれましたという声もありますし、仕事に行ってきますシリーズを気に入って、図書館で同じ本を何度も借りるのでついに買いましたという反響もありましたね。
図書館に行って本を読むっていうことができるようになると、趣味の時間を一人で過ごせるようになるので本人とでも気が楽ですし、周りの支援者も自分の時間ができるので、支援学校の校長先生はそういったことを目指して、学生のうちから公共図書館の使い方などもレクチャーしてたりするようです。
読書を趣味にしていただけるようになると、本人の人生にとってもいいかなという風に思いますので、その入り口として役立ててくださればと思います。
何か一つでも読み通せると、自信が付くのかなと思うんですよね。
注釈だらけになってしまうので。
当事者の方に伝えるには、それぐらい噛み砕かないとわからなかったりするので、やさしい言い換えるのが難しいのか課題として残っています。
障害がある方達と接して
あとは、たくさんの方が重複して障害を持ってますよね。
知的障害の方は知的障害だけ持ってるっていうことはむしろ稀で、身体障害も持っていてする。そういう人への配慮を考えた時に、見た目も見やすいようにしなければならない。
手に力が入らない方もいらっしゃる、逆に力を入れすぎて本を破損させてしまう方もいらっしゃるので、本の材質をハードカバーにするのかソフトカバーにするのが凄く悩ましく思っています。
そして、今までは知的障害の方というと重度の方のイメージをしていたんですけど、軽度の方も結構いらっしゃって、少し接しただけでは障害があることわからなかったりします。
かと言って書店にずらっと並んでいる大人向きの本は読めないだろうなという感じがするので、その方たちの存在も忘れないで考えないといけないと思っています。
障害のない人と同じように色々こなすように見えても、ちょっとしたところで他の人に利用されてたりとか、逆に相手を利用しちゃったりとかそういうこともあったりするので、障害のない方と同じようにはいかない。
普通学校を出て、職場に入っていってもどっかでやっぱり躓いてしまい、何か普通と違うなと思われんですよね。
今後の目標
書籍に限らず、説明書や施設案内などはそういう傾向にはなっていて、空港とかでもやさしいわかりやすい利用の仕方とか出てたりするんですけど、その情報が当事者まで届かない。
インフォメーションカウンターまで行って探してきてもらえば必要な情報はでてくるのですが、障害当事者の方がふらっと来てチェックインカウンターに行き、必要な情報を手に入れるのは難しいと思います。
バリアフリーと言われると、段差をなくすみたいな印象を持ってる方が多いのですが、情報のバリアフリーも必要ですので、それを進めていければと思っています。
インタビューを終えて
LLブックを発行する埼玉福祉会様のインタビューでした。
世の中を生きていく上では、多くの知っておきたい知識があります。本によって得られる知識によって少しでも障害者の生きづらさが解消され、LLブックを通じて読書に親しむ習慣がついてほしいですね。
最後までお読みいただきありがとうございました。
社会福祉法人埼玉福祉会について
HP | https://www.saifuku.or.jp/ |
LLブックについて | https://www.saifuku.com/shop/llbook/index.html |
住所 | 〒352-0023 埼玉県新座市堀ノ内3-7-31 |
電話番号 | 048-481-2181 |
メールアドレス | shohin@saifuku.com |
久田 淳吾
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