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難民障がい者〜施設から出させてもらえない障がい者とどの施設にもいられない障がい者〜

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うつむく人影

利用者が施設を変えるにはいろいろな原因があります。

 

利用者の暴力行為も原因のひとつですが、それはあまりありません。

 

利用者にとって施設が合わなかったり、他にいい施設があるので変えたかったり、人間関係で施設の利用を辞めたり、スタッフとの関係性や作業が負担になることが主な理由といえるでしょう。

 

利用者が減ることで、施設側も財務状況がマイナスになることから利用者を外に出させないようにする動機ができあがります。

 

特に施設を変えてステップアップすると、施設は減収となってしまいます。

 

そのうえ、施設が負担する仕事量には境界が引かれ、そもそも施設が仕事として認めない仕事も存在することが分かりました。

 

そのため、事業所が仕事を無限大に抱えることを避けようと、役割分担につながり、それが結果的に誰も利用者の支援にあたれなかったという時間がうまれることも。

 

夏目
今回はそんな「施設」と「利用者」について書いていきたいと思います。

施設における利用者の問題行動

夏目
当事者でもあり、支援員として活動している中で感じた問題行動の中から考えていきます。

他の利用者への暴力、又は脅し

夏目
実際に暴力を使ったという事例はごく稀ですね。

 

実際は、コミュニケーションによるいさかいや、やや暴力的な言葉によるものです。

 

コミュニケーションの困難さにより施設にいることを継続することが難しくなります。精神病や発達障がいや知的障がいなとの障がい特性により発生しやすいといえます。また、恋愛関係などが、複雑に関係してくる場合もあります。

 

スタッフの生命、安全が脅かされる行動

利用者間での暴力と同じく、実際に暴力が行われることは、ほとんどないと言っていいと思います。

 

夏目
ただ、障がい特性により、傷付ける意図がなくても、スタッフがびっくりするような表現をすることは日常的だといえます。

 

そのため、利用者が実際に退所しなくてはならない時は、身体的・物理的な暴力が実際に行われた場合や、支援が難しくなるほど信頼関係が損なわれる言葉を言われた場合に限られます。また、スタッフの安全は考慮されなければなりません。

 

施設の財産の破壊

障がい者の方が、意図的に施設の財産を壊すことは、ほとんどなく、暴力的なイメージとはかけ離れています。反社会的というよりは、おとなしく、内向的で、社会に参加するのが苦手といった方が実像に合っていると思います。ただ、不注意や乱暴な使い方などで壊してしまうことは想定しておかないといけないと思います。

 

夏目
一度、壊してしまった時は、再発防止のためにルールを作るなどが必要でしょう。そのルールが守られない、意図的に破壊した時には、段階的に対処していきましょう。

支援が継続できないほど信頼関係が損なわれたこと

本来、支援はスタッフの業務であり、利用者の逸脱した行動はある程度想定内です。

 

ただし、そこにもある程度の範囲があり、支援が継続できないほどの問題行動が続いた場合は、退所の原因になることもありえます。仕事内容がこなせないことが問題になることはあまりなく、むしろ、信頼関係が崩れるといった関係性の問題がほとんどです。

 

ベンチに座り込む人(人形)

 

 

利用者がその施設に適しているかという基準

夏目
次に、利用者がその施設に適しているかどうかは、どうやって判断すればいいのでしょうか?

 

いくつか例をあげてみます。

求めるレベルの仕事ができるか

支援が適切に届くうえで、その利用者が適切な支援内容を受けているかは大切です。

 

例えば、デイケアに通う段階の人が就労継続支援に通っている場合、自立訓練の生活訓練を受けているが、実は生活リズムはさほど乱れていない、など、適切に支援が届かない場合があります。その場合は、施設を変える必要が出てきます。

 

就労継続支援なら仕事をするだけの基礎的な健康状態などがあるか

例えば、就労継続支援の場合、デイケアや作業療法室などとは違い仕事の練習をします。

 

そのため、前段階の健康状態が、「福祉」ではなく「医療」を受けるのに相当する場合は、支援することが困難になり、不適応になります。

 

仕事の練習をするレベルか、居場所を提供する段階か

また、健康以外でも、人と会話をしたり、レクリエーションをする居場所を求めているか、経済的な自立に向け仕事の練習をしたいのかによって適切な施設が変わります。

 

不適応な場所へ入所してしまうと、支援のくいちがいを生みます。それは、利用者にとっても施設側にとってもプラスになるとはお世辞にも言い難い。

 

また、施設側にとっては利用者が減ることで、加算などが減り、経営的に苦しくなる仕組みであります。

 

 

悩む家

 

利用者が自主的に退所する場合

夏目
次に、利用者が自主的に対処する場合はどんなものがあるでしょうか。

 

利用者が作業を苦にし、退所する場合

就労継続支援などは仕事の仕方を覚えるためにあるので、仕事ができないこと自体はサポートされますが、注意が増えることも確かです。そのなかで苦しくなって、退所したり、別の施設に変わったりすることがあります。

 

また、スタッフや他の利用者とうまく関係が築けないことも退所の原因になります。

 

昨今、SNSがらみのことも多く、また利用者間での恋愛や失恋、精神的な不調やコミュニケーションへの苦手を抱える利用者間で仲違いすることが多いです。

 

前向きな施設変更のケース

しかし、前向きな施設変更もあります

 

別の施設に興味を持ったり、魅力を感じて施設を変えることがあります。色々な施設がありますからね。合わないところにじっといるよりは、合うところ、楽しそうだなと思う施設を探すのも一興だと思います。マイナス感情からの退所が大半になりますが、こういう前向きな施設の変更があるのも事実です。

 

チェンジという文字と矢印と方向を示す指の写真

 

利用者を施設に残すインセンティブとは?

夏目
次に利用者を施設に残すインセンティブを見てみましょう。もちろん、利用者の権利を考え、施設に残すという本来あるべき動機もあります。

 

しかし、スタッフ間で、その問題などを抱える利用者を退所するかで、意見の違いが生まれることもあります。

 

本人の意思の尊重

本人がその施設を望む場合は、基本的にその意志を尊重しなくてはなりません。その意志と施設側が「他の人に与える危害」のバランスによって、その利用者は残されるか決まるのです。

 

退所による経済的負担

また、さらに付け加えると、施設側は加算などが減ることから、利用者が施設を離れると財政的に厳しくなります。それは制度上の欠陥があると言わざるをえません。

 

たしかに、問題を抱える利用者も施設に受け入れるインセンティブが働く一方で、例えば、次のステップに利用者が移りたい時、泣く泣く、善意で移動するという構造になっているのです。

 

たまごに泣いている顔を描いてある写真

 

退所による経済的負担の功罪

前述したように、利用者の退所は施設にとって財政負担です。このため、問題行動の多い利用者、特にどの施設でも受け入れられなかったような利用者を受け入れるインセンティブに繋がります

 

私はこの加算制度の狙いはそれなのではないか、と思っています。

 

その制度にはいろいろな悪影響があります。

 

夏目
例えば、利用者が適切な施設に移りたい。仕事の練習ではなく居場所を求めている。

 

福祉ではなく、医療的な場がふさわしいなどの時に、財政的な負担が重くのしかかる施設に残そうというインセンティブが働いてしまうような制度なのです。

 

そして、最悪なことは、制度上、利用者が次のステップアップに向かうと財政的にマイナスなことです。

 

これは本来あるべき姿ではないことは言うまでもありません。

 

そして、施設側をそんな心理状態に置かせる制度上の欠陥は明らかです。

 

こちらを指さす目力の強い男性

 

施設が業務外とするもの

夏目
では次に、施設が業務外とするものはどんなものがあるのでしょうか。

 

家族への支援

家族への支援は、もともと施設の業務とみなされません。

 

施設の支援対象者はあくまで利用者であり、その家族の支援には明確に線が引かれます。家族の問題に関わる際も、あくまで利用者の立場で関わります。

 

利用者の一方的なお願い

利用者の一方的なお願いは施設の業務とみなされません。

 

利用者が自分でするべきことを支援とするのは共依存にも繋がりかねず、あくまで利用者さん本人がすることが大切になってきます。

 

お金を預かることになること

特に、お金を一時的にでも預かることなどは施設側は嫌がります。

 

施設が受け取るのは、その施設に対してのお金であり、他の施設との関係でお金を預かるケースはないと言っていいと思います。

 

また、社会協議会などが金銭管理をする場合もありますが、基本的に仕事の役割分担をし、福祉施設が家計管理をすることはまれだと言えると思います。

 

ブロックでNGをつくっている写真

 

施設が業務外にするものがあるために起こること

夏目
では、何故、施設が自らの業務としない仕事があるのでしょうか?

 

施設が業務外にすることで、起こることとは何があるのでしょう?考えてみたいと思います。

 

施設の仕事の無限大の拡大の回避

最も大きな理由は、福祉施設は支援など、主たる業務があり、それに集中するために無限大に仕事を増やすことは無理だからです。

 

限られた予算や時間やスタッフ配置で行えることは、限界があるのです。

 

施設間の役割分担

また、福祉施設にはさまざまな種類があるため、役割分担ができています。

 

自らの役割はなにか、という施設の使命があり、それを逸脱することは避けるべきだとすら言えるでしょう。専門性があるため、自らの役割を果たし、役割分担する必要があるのです。

 

誰も支援しない空間ができること

しかし、それによって誰にも支援されない人が現れてしまうことがあります

 

自ら支援をお願いすることもできず、かといってどの施設にも責任があるわけでもなく、認知はされているのに、なんら支援されない人が出てくることがあります。

 

多くの場合、これらは問題行動や逸脱行動が多く、どの機関とも繋がれていない人です。そんな場合、どうすればいいのか、がこれからの課題だと考えます。

 

空に向かって差し出した手

 

利用者と福祉施設の関係性から考えること

利用者は一つの施設に強い想い入れがある場合もあれば、ない場合もあります。

 

施設は、利用者をなるべく受け入れようというインセンティブがある一方、暴力行為などによりそれが叶わなくなります。しかし、意図的に暴力を振るうことは少ないといえます。

 

利用者が辞める大きな理由は、人間関係や施設が適当でないなどによるマイナス要因が増えることによるものが多いです。

 

夏目
しかし、福祉施設は福祉的配慮をする一方、利用者の人数で決まる基本報酬や加算が減ることも利用者を施設に残させる要因になることが分かりました。

 

また、そもそも施設の業務外とする業務があり、施設の専門性などによる役割分担ができあがる一方、そこからこぼれ落ち、誰も支援しない空間ができあがることが分かりました。

 

今後の課題は、施設からの移転を自由なものにすることと、どの施設の管轄でもない人をどう包摂していくか、だと考えます。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

では、また次回!

 

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夏目作弥

精神疾病の当事者であり、ピアスタッフをしています。資格取得のため勉強中。精神疾病の日々の人気エッセイを作業療法室に連載しています。精神保健福祉ライターの他、離島の生徒とのオンライン家庭教師、戦争体験の聞き書き、小説、エッセイ、短歌、詩の創作をしています。支援者と当事者の両方の立場から見えてくるものを、客観的な視点と体験談から綴らせて頂きます。自身の経験から精神疾病者の新しい働き方をご提案します。雑誌『シナプスの笑い』にて夏目作弥としてエッセイや小説を掲載しています。こちらもぜひご覧ください。詳しいプロフィールはこちら→夏目作弥


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