コロナのため2022年3月12日にライブ配信で行われた第3回重度障がい者社会支援フォーラム。
そこで株式会社障がい者つくし更生会の専務取締役をされている那波和夫さんのお話を伺いました。
このつくし更生会は障がい者雇用義務のない会社であるにもかかわらず、障がい者の雇用率は8割!(法定雇用率は100%)
しかも、その定着率が100%という功績を長年続けておられる会社です。
- 障がい者雇用を考えているんだけど、どうしたら良いか分からない。
- 障がい者の方にどう接すればいいんだろう?
- どういう仕組みを作れば、長年働いてもらえるだろう?
そんな疑問や不安を解消して頂くべく、実際の取り組み、ここまでの道のりを含めて那波専務からご紹介をいただきました。
この記事が様々な企業様、障がい者の方をサポートしている皆様のお役に立つことを願って、レポートをさせていただきます。
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重度障がい者社会支援フォーラムとは
誰もが当たり前に働き、その人らしく生きていくために、障害者健常者と区別することなく暮らしていく社会を実現していきたい。
そういった想いで「重度障がい者社会支援フォーラム」は、開催されております。
と代表の北澤裕美子さんは語ります。
2021年春から法定雇用率も2.3%に上がることになっている中で、就職をしても1年で半数近くの人が辞めてしまう現状。
つまり、継続した就労が難しい問題を抱えているのです。
その現状を変えていくためには、もっと前段階となる「教育」が重要。そういった背景があり、第2回目は「障がいと教育」に関わる専門家の方々をお呼びして、講演とパネルディスカッションの形式のイベントとなっております。
埼玉県知事からのメッセージ
埼玉県知事の大野元裕知事からも、この重度障がい者社会支援フォーラムへメッセージをいただいていおりますので、ご紹介いたします。
※クリックで拡大
では、今回のフォーラムは、どのようなフォーラムだったのでしょうか?
第3回 重度障がい者社会支援フォーラムの内容
第3回 重度障がい者社会支援フォーラムの講演テーマは「障がい者と共に働いて学べたこと」。
障がい者雇用率86.5%、法定雇用率は100%を達成されている障がい者つくし更生会の那波専務が話してくださりました。
講師プロフィール
那波和夫
プロフィール
- 株式会社障がい者つくし更生会の専務取締役
- 平成7年に故郷である福岡の会社「障がい者つくし更生会」に転職。
- 会社の先代たちの理念を継ぎ、日々邁進している。
- 那波和夫氏自身は障がい者ではないものの、自らを変わり者と言い、障がいがあってもなくても皆どこか変わったところを持ち、同じなのだとしている。
※那波さんの講演は、再生時間31:50〜2:36:15になります。
高い定着率にするためには
- 社員が活き活きと働いていて、やらされているようにはみえない
- 自分の意志で働いているように見える
- うちの社員は目が死んでいるように見えるのに…
障がい者雇用のポイント
「障害を持つ方もチームリーダーになれます」と那波さんは仰っていました。
つくし更生会では、障がい者だけのチームがいくつもあるとのこと。
障がい特性がバラバラなところもあれば、偶然同じ特性で固まるチームもあります。
でもそれはあくまでも偶然。それは、なぜでしょう?
あくまでも温かく見守り、自由に仕事をしてもらい、ちょっと注意しなきゃなと言うときに口を挟む。
マネジメント「管理」をするというよりは、この仕事は必要で責任を果たすためにやるという姿勢になるように環境を作ることが那波さんたちの仕事だと仰っていました。
立場上の責任は重いけれど、偉いわけではない。そういう想いを持ちながら仕事をしているとのことでした。
障害当事者と関わる人たちとの関係性
理解してもらえないことがとても多いです。と、那波さんは仰いました。
保護者の方、企業の方、働く方のお話をお聞きする機会が多いという那波さん。
でも、言われた方の立場の方も言った立場の人たちを否定的に言います。
那波さんはあくまで自分個人の意見と言いつつ話してくださいました。
障がいがあっても出来ているという現実を見せる
企業の方が見学に来た際、よく言われるという言葉が「障がい者でも出来るんだ…」です。言葉にとげがあるかもしれませんが、そういうことをよく言われるようです。
でも、「障がい者だって出来るんです」という現実を見せることで価値観を変えることが出来ます。
例えば、つくし更生会では以下の現実をお見せしています。
- 事業はニッチな業界でトップレベル。競争相手は一般企業という現実。
- 補助金はもらっていないという現実。補助金がなくても事業は成立します。
現実を見せた後の変化
障がい者にもできるという現実を見せた後、何故自分たちは今までできないと思っていたんだという変化が起こります。
固定概念が崩れるその時こそ、学びのチャンスがやってきます。
あなたには出来ないでしょと思っている人が教えるより、あなたには可能性があると思っている人が教えた方が、その人の成長につながる。しかし、個人個人キャパが違うので、その人のレベルに合わせたものから教え、それがクリア出来たらもう一段階上げて、クリアして…その繰り返しが人を成長させます。
分割したうえで解りやすく教えていく。それは障がい者に限ってのことではありません。と、那波さんは仰いました。
ここで那波さんが言っていた事例をどうぞ。
人を育てるということ
那波さんがある福祉施設に見学に行った際にあったことです。そこでは利用者に丁寧に作業を教えていました。
しかし、この教え方には要らないものがあります。
複数の情報はいらない
複数の情報を与えてしまうと混乱が生じてしまう人がいます。この場合「上がつるつる」だけで良いのです。「下はザラザラ」は要らない。
2つの情報を与えた場合
2つの情報を与える
↓
混乱する
↓
失敗する
↓
できないのレッテルを張られる
といったスパイラルができてしまいます。
1つの情報だけを渡した場合
1つだけ情報を与える
↓
シンプルなので混乱しない
↓
成功する
↓
出来るんだと周りに認めてもらえる。
周りもこの人は出来るんだと認識する。
結果
任せられるものが出来(増えていき)、企業の生産性が上がり、コストも削減できる。
具体的なコミュニケーション方法
でも、それはその人にちゃんと合っていますか?と那波さんは問いかけました。
自分たちはがんばってます。一生懸命教えています。だからこの人が理解できないだけです――そういう風に会社の中でもなっていないでしょうか?
提案
- 自分が教えても理解されないなら、他の人に任せてみる。その人が教えた方がすんなり理解してもらえたのなら、その人を担当にしてみる。担当者を限定しなくていい。
- 説明する側はいつの間にか自分が説明しやすいように説明してしまっていませんか? 結果的に同じになるのならやり方はどんなやり方でも良いのです。
- アイディアを出し合おう。働く人たちがアイディアを出し合えれば、働きやすさ+発展性にも繋がります。
障がい者雇用でトラブルが発生した場合の対処法
例えばAとBの間にトラブルがあり喧嘩になっていた場合、どうすればベストか?
その点も那波さんは仰っていました。まずは――。
話し合いを提案する
「話し合いをする」のではなく「本人たちが話し合いを望むかどうか」を聞きます。
「立会人に自分がいても良いか」を聞き「話し合いをして解決したいか・改善したいか」を聞くこと。
話を聞くことで「相手の文句」しか言わないのだったら話し合いはしないと伝える。
時系列で事実を教えてもらう
言われてむかついたなどの感情はいらないからと言われたこと・行動を時系列で教えて貰うここと。
そしてAとBの証言にズレがないか、勘違いがないかを比べてみましょう。そのうえでどこに問題があったのかを確認していきましょう。
行動をした理由を聞く
まずは何故そうしたのか・何故そうしたかったのかを聞くこと。
行動を起こした理由が「〇さんがそう言ったから」だった場合
「そうか。じゃあどうしてそう言ったんだろうね?」と言葉の意味を理解できているかを確認する。(ストレートに受け取ってしまう場合も多いため)
「言葉の意味はどうだったんだろうね?」と投げかけてみてください。
理由が「他に方法を知らなかったから」の場合
「では、他に方法があることを知りたいですか?」と尋ねてください。
知的好奇心と成長を促せるはずです。
理由が「めんどくさかった」という場合
「それはあなたの個人的な理由ですか?仕事上の理由ですか?あなたには十分に出来るはずだったのに面倒くさいからやらなかったのですか?あなたはここに何をしに来ているのですか?」と冷静に穏やかに聞いてみてください。
理由がなかった場合
理由がないのにその行動をとったという事実を本人に自覚してもらいましょう。
そのうえで「その理由を知りたいと思わない?」という風に持って行きましょう。
理由はあるけど説明が難しい場合
それを本人に自覚してもらったうえで「説明できるようになりたい?」と本人の意思の確認を取りましょう。
本人のやる気と意思を確保したうえで指導を行うと後々の成長に繋がりますし、こういう確認行動をしていれば障がいのある方は自然と人に聞くことを覚え、こちら側も一緒に考えていくことができるようになります。
現状を良くしようという話し合いなので怒鳴る必要はないし、怒鳴ってしまった時点で指導に向いてないということになると仰っていました。
上手く仲直りさせ、成長を促すには
- AとBに良くするためにはどんな方法があるのかを聞き、方法が思いつかなかった場合は「つぎ同じことをしたらどうなると思う?」と聞いてみることで想像力の度合いや仕事の認知度などを測る。
- 上手くいく方法を考える。
- 意見を出し合ってやってみる。複数意見が出たらどっちをやりたいかを聞き、それをやった場合どうなるか尋ねてみよう。そして、もう一つのアイディアだったらどうだろう?と想像力を次々に促してみよう。そして実際に行動に移してみてください。
- 次に「あの時はどうだった?」かを聞く。そうすると大体「あの時は悪かった」と反省する方が多いそうです。
反対もまた同じです。Bにも同じことをすることでAはBへの理解を深めることが出来ます。
「上司に言われたから、上司にとって良い」にならないために本人が「自分のため」に話し合って良かったと思えるようにしましょう。
自己理解→自分の言動を理解し納得できるようになる。
他者理解→この時この人はこう感じていたんだと気づくことで他者を思いやることが出来る。
失敗→悩み→衝突→工夫→改善→成長→納得→喜びを実感し共有することで
↓
人間関係の構築(信用、信頼、承認)となる。
このようなトラブルを解決する際に「障がい名」は関係がなく、それを出した途端「今起きた問題」ではなく「過去」の問題を思い起こさせてしまうので障がいはあくまで関係がなく、障がい名を持ち出さなくても事実を整理していけば解決できるのだと仰っていました。
注意点
CさんがDさんに話しかけたが反応がなかったので、那波さんに「あいつはつまらん」と言ったそうです。そこで那波さんは反応が返ってくる前に次の別の話をしませんでしたか?と返しました。
それはどうやらあまり良くないことみたいです。
Cさんはまず話しかけた際にDさんの反応を観察してください。なぜなら、Dさんからしてみれば、
- 言動の意味が良く理解できなかった。どうすれば良いか分からないからフリーズしてしまった。
- 意味は理解できたが表現方法が解らなかった。
- 考えている最中に違う話になってしまい混乱してしまった。
- 反応を返すと怒られたことがあり怖かった。
- そもそもCさんのことが嫌いである。などなどの理由があるかも知れない。
なので、そういう場合はDさんの様子を観察し、考えを汲み取ってみたり、今困っているの? 一緒に考えようか?など聞いてみることが良いそうです。
那波専務が実践していること
那波さんは、面接でも社員と話すときでも実践していることがあるそうです。それは何でしょうか?
その人が「先日のあのお仕事の話ですが」と言ったとして、それを「ああ、あの先日の案件ですね」と言い換えてしまうとスムーズに受け取れない可能性があるとのこと。
同じように「先日話したお仕事について」と言った方がスムーズに受け取ってもらえるんだとか。同じ言葉を使いながらも「こういう言い方の方がより良いかもね」と提案をしていけるとのことでした。
困っていること・不満・ストレスの対応策
那波さんが社員のストレス対策などで実施していること。
- ホワイトボードなどにあえてバラバラになるようにその人の思っていることを聞き出してを書きます。
- それを色分けしていきます。例えば青なら会社で思ったこと。紫なら家庭やプライベート、黒なら昔の記憶(嫌なことがあってずっと引きずっているなど)
- それを仕分けていきます。
こうして整理することで落ち着きを取り戻せるそうです。
※なぜバラバラなのかというと、思っていることは整然としているわけではなく頭のあっちこっちで思っているようなイメージだからだそうです。
これは考えていることを伝えたいけど上手くできない人へも使えます。同じように書き出し、言葉・文章になるように組み替えていくことで整理できますし、考えてることを文章で上手く伝えられないお子様にも早いうちからこういうことを行えば可能性は広がります。
特別支援学校・職場実習
それはなぜでしょうか?
- 口に出して言ってもらうのは、自分の意見を言えるための練習です。
普段無口な人がいざとなった時に言えるでしょうか?
何かを聞きたいと思って、一言いうだけでもとても勇気がいることですが声に出していることでスムーズに言葉が出てきやすくなるとのことです。
そうすることで生徒は自分を認められたという想いを持ち、向上心やコミュニケーション能力が上がり、社員ともとても仲良くなるそうです。でも、それだけが理由ではないそうです。
障がいがある社員の教育にも
このことは社員教育にもなります。
障がいを持つ社員が午前、午後に分かれて交互に生徒の指導につき、この生徒はどうだったかということを評価表にします。
そうすることで人様を見る(後輩の指導)練習になり、また交代で見ることにより良い意味で競争心を上げることができるそうです。
障がい者への学び
- 例えば聴覚障がいの場合。赤ちゃんは生まれた時に自分の名前を呼ばれ、そのうち自分の名前だと気づく。
- 「ミルク飲むの?」と聞かれ、それがミルクという名前だと知る。
しかし、生まれた時に耳が聞こえなかったら、自分の名前も物の名前も分からない。 - そこで圧倒的に学習の差が広がる。
また、空気を読めない・他人の気持ちを汲み取るのが苦手な人に相手の感情を理解してもらうには、その人に似たような状況になった時のことを尋ねるのが良いそうです。
相手「あの時は、〇〇(哀しい・大変だった・楽しかったなどの感情)でした」
自分「今、私(もしくは別の第三者(トラブルの仲裁などの場合))はそういう気持ちです」
と伝えると、納得してもらえる場合が多いそうです。
時間をかけて社員教育をする理由
今までお読みいただいてきたように、なぜじっくりと時間をかけ一人ひとりに合うように仕事を教えていくのか。それはコストを下げ利益につなげられるからだそうです。
- 時間をかけ社員を育てることでミスが減り事故もめったに起きないようになった。トラブルも減った。
- 小さなトラブルは起きるが、最初にしっかり教育することで大きなトラブルは起きなくなる。
- 自分が出来た時の喜びが自信につながる。
- 役に立つことをした実感を得た時の喜びが社会貢献につながる。
それを意図的にすることで、成長を促し他人(お客様)に喜んでもらえることが出来るようになるそうです。
重度障がい者社会支援フォーラムを終えて
障がい者と健常者は一体になれると那波さんは仰っておられましたが、第3回目のこのお話を終えて思うことは、健常者の教育にも同じことが当てはまるなということでした。
新人研修でこのように教えて貰えれば、途中で辞めて転職しようとは考えないはずです。
障がい者だからではなく、一人の人間、個人として向き合うことで法定雇用率と定着率100%になったのだと思います。
障がい者、健常者に関係なく出来ることは出来るし、出来ないことは工夫をしてみんなで乗り越える。そんなことを教えて頂いた気がします。
過去の重度障がい者社会支援フォーラム
記念すべき第一回目の記事はこちらになります。
第二回目の記事「障害と教育」はこちらになります。
ぜひご一読ください。
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