2020年11月28日(土)に行われた『第2回 重度障がい者社会支援フォーラム〜障がいと教育〜』。今回は、コロナ渦ということもあり、オンラインの配信での開催となりました。
有名な専門家の方々をお呼びして、とても濃密な講演とパネルディスカッションが繰り広げられました。
障害者も健常者も当たり前の生活ができるようになるための土台として重要なキーとなってくる「教育」。
専門家の方々から一体どのような話があがってきたのでしょうか?
幼少期の障害者から大人の障害者まで、一生涯に渡って影響を及ぼす支援のヒントがたくさん知れますので、参考にしていただければ幸いです。(もちろん健常者のお子さんの育児にも、とても役に立ちます)
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重度障がい者社会支援フォーラムとは
誰もが当たり前に働き、その人らしく生きていくために、障害者健常者と区別することなく暮らしていく社会を実現していきたい。
そういった想いで「重度障がい者社会支援フォーラム」は、開催されております。
と代表の北澤裕美子さんは語ります。
2021年春から法定雇用率も2.3%に上がることになっている中で、就職をしても1年で半数近くの人が辞めてしまう現状。
つまり、継続した就労が難しい問題を抱えているのです。
その現状を変えていくためには、もっと前段階となる「教育」が重要。そういった背景があり、第2回目は「障がいと教育」に関わる専門家の方々をお呼びして、講演とパネルディスカッションの形式のイベントとなっております。
埼玉県知事からのメッセージ
埼玉県知事の大野元裕知事からも、この重度障がい者社会支援フォーラムへメッセージをいただいていおりますので、ご紹介いたします。
※クリックで拡大
では、今回のフォーラムは、どのようなフォーラムだったのでしょうか?
第2回 重度障がい者社会支援フォーラムの内容
第2回 重度障がい者社会支援フォーラムは、コロナ渦ということもあり、オンラインをメインで開催されました。
第1部:遠藤利彦先生による基調講演
第1部は、東京大学大学院教授の遠藤利彦先生による『生涯発達の礎をなすアタッチメント』。
一生涯に渡る心と身体の健康・幸せの形成において、大切となる幼児期のアタッチメント(愛着)について、基本的なことから詳しく
東京大学大学院教育学研究科教授
遠藤利彦 先生
プロフィール東京大学教育学部卒業、東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学、博士(心理学)。東京大学教育学部助手、聖心女子大学文学部講師、九州大学大学院人間環境学研究院助教授、京都大学大学院教育学研究科准教授、東京大学大学院教育学研究科准教授などを経て、現在 東京大学大学院教育学研究科教授、同附属発達保育実践政策学センター(Cedep)センター長。日本学術会議会員。
専門は発達心理学・感情心理学。特に親子・家族の関係性(アタッチメント)と子どもの社会情緒的発達との関連性について。これまで関東・関西地区の保育所の巡回相談活動、全国の保育士・幼稚園教諭および家裁調査官や児童相談所・乳児院・児童福祉施設職員等の研修などにも携わっている。
アタッチメントとは
アタッチメントとは日本語で「愛着」と表現されるけれども、愛情とはニュアンスが異なります。
とおっしゃっております。
このごく当たり前のような安心感が、心と身体の健康に大きく関わってくるのが、多くの研究で明らかになってきております。
幼児期に、欲求をことごとく無視されて、この「安心感」が満たされていないと、自己と社会性の発達に長期的なダメージが与えられてしまう。
自己と社会性の力とは
まず「自己」とは、
つまり、「自分はちゃんと愛してもらえているんだ」という感覚。
とおっしゃっております。
具体的には、
- 自尊心
- 自己肯定感
- 自己理解
- 自制心
- 自立心
などを指します。
次に、「社会性」とは、
つまり、「人って信じていいんだな」という感覚。
とおっしゃっております。
具体的には、
- 心の理解能力
- 共感性
- 協調性
- 道徳性
- 規範意識
などを指します。
これらの「自己と社会性の力」=非認知(IQなどでは測れないもの)が、家庭外の安定した大人との関係性に大いに関わってくるのです。
つまり、心の土台形成が上記で作られるということになります。
安心感に浸ることが一生涯に関わる
上記の「自己と社会性の発達」に大きく関わってくる安心感。
この安心感の輪を作っていき、輪を広げていくことが成長にとても大切な要素となってきます。
安心感の輪特定他者への近接を通した「安心感」の回復・維持
※誰かれ構わずではなく、特定の人
↓
保護してもらえることへの「見通し」
↓
「見通し」に支えられての自発的「探索」
↓
「1人でいられる能力」=自律性の獲得・拡張
1人でいられる力が長くなるので、これが成長に繋がるという訳です。
この輪を広げていくためには、「大人が避難所と基地の役割をしてあげること」がポイントとおっしゃっておりました。
避難所:怖くて不安なとき、しっかりと受け止めて立て直してあげること
基地:安心感を得たら自分のところにとどめておくのではなく、子どもの背中を押してあげること
以上、第1部の遠藤先生による講演のレポートでした!
また遠藤先生の書籍でもアタッチメントについて、知ることができますので、参考にしてみてください。
第2部:パネルディスカッション
第2部のパネルディスカッションのテーマは、『アタッチメントから生まれる「かべ」がない社会』。
第2部のパネルディスカッションは、第1部で講演していただいた遠藤先生に加え、
- グリーンノート代表:北澤裕美子さん
- 東洋大学ライフデザイン学部生活支援学科教授:是枝喜代治 先生
- 東洋大学総合情報学部教授:石原次郎 先生
- 国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構理事:木村直人さん
のメンバーで進めていきました。
パネリスト紹介
パネリストの方々のプロフィールをご紹介いたします。
東洋大学ライフデザイン学部生活支援学科教授
是枝喜代治 先生
プロフィール東洋大学ライフデザイン学部生活支援学科教授。博士(教育学)。神奈川県内の特別支援学校(知的障害、病弱・虚弱等)の教員経験の後、国立特別支援教育総合研究所等の勤務を経て、現職。現大学では「障害者福祉論」「特別支援教育基礎論」等の科目を担当。
また、インクルーシブ教育に関連する論文として「イギリスにおけるインクルーシブ教育の実際-Education Villageの視察から-」、「オーストラリア(ニューサウスウェルズ州)における乳幼児の支援と特別支援教育の現状」、「デンマークにおけるインクルーシブ教育の実際」などがある。東京都板橋区・中央区等の障害者地域自立支援協議会等の各種委員などを兼務。
東洋大学総合情報学部教授
石原次郎 先生
プロフィール東洋大学総合情報学部教授。修士(文学)。東北大学大学院文学研究科博士後期課程中退。東北大学文学部助手、北海道大学文学研究科教授、東洋大学工学部教授を経て、現職。現大学では、感性をキーワードにして全生物を包括する学術研究を試みて、「感性学」「芸術学」「美術史」「メディア表現論」などの科目を担当。
感覚の特質に関する研究のほか、舞台演出、造形活動なども行う。教育の現場では北海道大学着任以来、学生との双方向授業、出欠を問わない、試験や課題レポートを行わない、成績評価を行わない、学生の制作物に対する評価を一切行わないなど、個の成熟と自主性を伸ばすことを目的とした自由教育の徹底した実践を試み続けている。
ファシリテーター
国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構理事
木村直人さん
プロフィール東京大学理学部卒業、米国コロンビア大学国際関係・行政管理大学院修了。1992年科学技術庁(現文部科学省)入省後、英国での日本大使館勤務、産業連携・地域支援課長、内閣参事官、初等中等教育局参事官などを歴任し、現職。
課外活動として、「子供たちの希望あふれる未来を考える研究会(みら研)」を主宰。子供たちのために大人たちが何ができるかをフリーにディスカッション中。最近では、障がい者も含め、だれもが幸せに生きていく社会を作るには自分たちが何をしたらいいかを考える「ともにいきる(ともいき)」シリーズを開催中。現在は千葉にある量子科学技術研究開発機構(りょうけん)に勤務。未来の健康社会を作る研究活動をサポートしている。
パネルディスカッション
パネルディスカッションの様子の概要をまとめていきます。(詳細すべてを知りたい方は、動画をご覧ください)
アタッチメントができているお子さんの長所
言葉がなかなか出てこない知的障害のAさんのケースです。
調理実習の際に、食材をある子が落としてしまい、先生が高圧的に怒ってしまった。
その時に、先生と注意されているお子さんの間に入って、止めようとした。
Aさんのことを小さい頃から温かい愛情を持って、送り出すときは送り出すという育て方をしていた親御さん。
幼少期からちゃんとしたアタッチメントが形成されており、情緒が安定していたのが実感的にありますね。
子どもとの信頼関係を築くには?
これは、子どもにとって大人はどんな存在であったらよいか?それは、「子どもが必要なときに情緒的に利用できる大人であればいい。」ということです。
情緒的な利用可能性
- 敏感性(シグナルを的確に捉え、素早く行動する)
- 侵害しない(踏み込まない・見守る)
- 黒子として支える(直接的な支援ではなく、環境・雰囲気を整える)
- 応援団として離れたところからエールを送ること
情緒的利用可能性のエピソード
その中でまさしく「情緒的利用可能性」の実体験のエピソードがありました。
行動をしていると目の見えない中でトラブルが起きるんです。
そこで互助団体の方から言われたのは、「次郎ちゃん!私が1人で乗れるようにしなきゃダメなのよ!あなたがいなきゃエレベーターに乗れない状況を作ってどうするのよ!」と笑いながら言われました。
敏感であることは大事だけど、やたらに踏み込む必要はない。ということをたった一言で納得させられたエピソードでした。
今どのような援助が必要かを聞く。
この聞く行為がどのような年齢層でも一緒だと思いますね。これが最も基本的で大切なのだと実感しました。
子どもが伸び伸びと成長するには?
その中で伸ばしていくために参考になったエピソードなどありますか?
子どもが最初からフラフープをすごく遠くに置いたんです。
そこで親御さんが「そんな遠くに置いたら入らないでしょ!」と言って、先に子どもの可能性を否定してしまう。
つまり、挑戦を侵害してしまうケースってけっこうあるんです。
だから、子どもが「やってみたい」と言っているものを信じて、できてもできなくても見守ってあげることができると、子どもは伸び伸びと生きていくんじゃないかなと思います。
以上が第2部のパネルディスカッションでした。
これで第2回目の重度障がい者社会支援フォーラムの内容は終了となります。
重度障がい者社会支援フォーラムを終えて
第2回目の重度障がい者社会支援フォーラムは、いかがでしたでしょうか?
誰もが当たり前の生活をする上で、「障がいと教育」がとても大切で、この土台が今の日本に必要となってくるのかを理解できたかと思います。
その中で、乳幼児期から一生涯に渡る心と身体の健康、そして幸せを作っていくために必要となってくる「アタッチメント」
障害児への教育・支援の中で、今回のフォーラムで先生方が教えていただいたことは、とても役に立つことが多かったかと思います。
ぜひ実行していただき、活かしていただければ幸いです。
次回も開催を予定しております
今回のテーマである「障がいと教育」の第2段も開催を予定しております。その前にも事前に学習会などを開催していきます。
こちらに関しても詳細など決まりましたら、「あいつなぐ」のHPにて、報告させていただきますので、お楽しみにしていてください。
あいつなぐHPはこちら。
ちなみに、第1回の重度障がい者社会支援フォーラムのテーマは、「働くって罪?」でした。重度障がい者の就労について、様々な企業ブースが出展され、200名以上の方がご参加されました。
主催:「重度障がい者社会支援フォーラム」実行委員会
共催:一般社団法人グリーンノート、立教大学教育学科科研費研究、学術新領域「トランスカルチャー状況下における顔身体学の構築」
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