今回は恋愛も結婚も性も、めでたく二人そろっての門出となったカップルさんたちでも避けては通れぬ(?)、「ケンカ」と「仲直り」についてお話ししてみようかと思います。
恋も愛も100点満点なんて、ない。
でもね、ケンカや仲直りを通して深まる絆もあるんです。
ただ注意したいのが、「精神障害者の離婚率」というちょっと怖い数字も厳然としてあります。
精神障害者カップルに、明るい未来を!
例によって順番に見ていきましょう!
お好きなところからお読みください
犬も食わないハズが……
誰だってケンカもするし仲直りもする。それは当然のことです。
しかし、精神障害者当事者さんのカップルや、片方が精神障害者の当事者さんであったりすると、実はケンカも仲直りもきわめて難しいんです。
「でもふつうそういうのは誰だってあるし乗り越えてきてるんだから……」
その通りです。
ところが「ふつう」の範疇にない、もしくは「ふつう」に夫婦生活を営むだけで、手一杯の精一杯なのが、精神障害者どうしのカップル。
- 「仲直り」に途方もない気力・体力・精神力を費やす
- 話し合いが持てる体力でない。ひどいときには「里帰り」どころか「入院」となる場合もある
本来持ち直せる関係を、再びもとの位置へ戻しにくいことなどで、「一度壊れたらとても直しづらい関係」にあると…言葉はきついですが、事実、精神障害者同士のカップルは非常に繊細で絶妙なバランスに成り立っているのです。
このことで「夫婦喧嘩は犬も食わない」ハズが、「関係修復に向けて、本人さんたちには大変な努力を強いている」といえます。
【夫婦喧嘩は犬も食わない】
何でも食べるはずの犬ですら夫婦喧嘩には見向きもしないところから、夫婦喧嘩はたいがい些細なことが原因で起こり、すぐに仲直りするから放っておきなさいという意味。
ちょっと怖い数字
ここにひとつの論文があります。
タイトルは『精神科作業療法を継続している入院統合失調症患者における社会精神医学的側面一結婚と就労を中心に』。
2006年の論文です。
この論文から一部引用します。※要するに精神障害者は離婚率がほかのひとと比べて高い、という箇所です。
精神障害者の結婚状況 についての過去の報告では,未婚率および離婚率の高さが指摘されている.田中ら10)は,未婚率は男女 ともに55%前後であり,離婚率は約20%であったと報告 している.下山ら11)の調査では,離婚率は34%であった.和田ら1)の調査では,未婚率は74%,離婚率は75%であった.今回の調査結果では,結婚率が26%,未婚率が74%であ り過去の報告 とは同様であるが,離婚率は82%……
『精神科作業療法を継続している入院統合失調症患者における社会精神医学的側面 一結婚 と就労を中心に』加 藤 拓 彦1) 小山内 隆 生1) 和 田 一 丸1)
2023/06/30-08:56 取得(強調は煙亜月による)
より
ただ、数字にブレが大きい論文で、参考にするにはちょっと頼りないです。
でも皆様も『最近の日本の離婚率は35%と、実に3組に1組が離婚している』というのはニュースでご覧になった方も多いと思います。
しかし事実、病気の増悪が原因で正常な判断がしづらい、できない状態で自暴自棄・悲観的になり、自ら離婚を切り出すこともあります。
離婚は最終手段だけど…
離婚は最終手段です。一番よくない結果ともいえます。
でも、自衛手段としていつか使うかもしれないことだけは念頭に置いてください。
もちろん、そこへ帰着しないようわたしたちは頑張っているのです。
嫌なことも悲しいことも寂しいことも腹立たしいことも、ぜんぶ我慢して幸せになるために。
『結婚そのものが失敗だった』という場合もあるにはあるのでしょうが、なににつけ成功・失敗を決めるのはほかでもない、お二人なのです。
ただ、しばしば『第三者に仲介してもらう』ことで、かえってこじらせることもあるので、仲介人の選定には慎重さが求められます。
お二人のいずれかの血縁者でしたり、ご友人であった場合、どうしても肩入れするもの。
もちろん、割って入るより先に、「二人のことなんだから、周りがとやかくいうより二人で決めた方が……」と、かえって気を遣われることだってあるでしょう。
しかしお二人には、二人の危機を回避するなり立ち向かうなり、ただでさえ病気や障害などで疲れやすいのに関係修復を当事者間だけで行なうには、体力面・メンタル面ともにハードルが高いです。
周囲の人間もどこまで支援したらいいのか分かりません。
五里霧中です。
Dr.や看護師さん、MSW(社会福祉士)やPSW(精神保健福祉士)などの専門職しか頼れないことだってあります。
そんな中、結婚生活を優先するか、ご自身たちの体調を優先するか。
この二択を迫られる可能性だって少なくありません。
喧嘩をしたら
ケンカの原因——つまりその発端や、どちらに非があるかとか、ああいったこういった私は悪くないそろそろ潮時云々かんぬん……
もし今『罪のなすり付け合い』をしているのなら、積極的に頭を冷やしてみるのは有効でしょう。
なぜなら、
もしくは5:5を理想とします。なぜって、二人とも生きていますし喋ったりもします。
泣いたり笑ったり、生き生きとした人生を送る権利があって、そしてそれに向かうための努力は、皆さん一様に負っているはずだからです。
さらに、過失割合が5:5の方がいい理由の一つが、二人とも同じだけ努力して関係回復に努める方がフェアであり、それが夫婦の姿だと思うからです。
『相手に頼まれて夫婦をしているのではないからです』
喧嘩をしたら2:自分は悪くない!と思った時
頑としてそうおっしゃる方もいます。
理由はどうあれ、怒り心頭に発し、ケンカが勝負ごとになって、相手から謝罪の言葉を引き出したい、と。
この場合は積極的に話をしたり、無理に距離を詰めるべきではありません。火に油を注ぐようなものです。
どうか注意してください。
少し冷却期間を置いて、激しい怒りが収まると『あるとき急に我に返る』瞬間が訪れます。
それが『冷める』となる場合もあり、『怒りとともにパートナーへの興味関心が薄れる』ことがあります。
そこで別な手法で頭を冷やすことが必要となります。
ちょっと冷却期間を持ちました。
少しずつですが冷静さも取り戻しつつあります。
やがて聞く耳を持ち始めました。
そんなタイミングが来たら、真正面から話し合うのではない、冷静さを保ちつつ再燃を防ぐ手法の一つ『背中合わせ法』という小技を試してみましょう。
喧嘩をしたら3:背中合わせ法を試そう
実際の内容としては、
- 騒音のない環境(夜間など)で背中合わせに体育座り(三角座り)をし、
- 相手の心音を聞くようと意識を集中させ、
- 手をつなごうとしたらなるべく拒否しない。
- 話をしようとされたら、拒否せず冷静に話す。
- 暇だな、とか寝る時間が惜しいな、と思ったら、
- いちばん最初の出会いから今日までを振り返って、この時はああだった、あの時はこうだった、と想起して、(もし今この人が突然いなくなったら、自分は嬉しいだろうか? 自分の勝ちになるのだろうか? と自らに問いかけてみてください。
この『背中合わせ』が通用する範囲は広いです。
ただし、むずかしいのは「背中合わせをしよう、といい出しにくいこと」
「自分からいい出したら『折れた』と取られるのでは?」と思うかもしれません。
別に勝敗なんて関係ありません。過失割合5:5を目指し、恐れず提案してみましょう。
「ねえ、今日寝る前〇〇(呼び方は何でもOK)やらない?」
そのひと言をパートナーさんは待っていたのかもしれませんし、「背中合わせ法」を通じて何らかの発見があるかもしれません。
「なんか、背中瘦せてない?」
「あなたの背中、あったかいね」
「付き合い初めだったら、これ、心拍数ぜったい上がるね」
「……そっち向いていい?」
「まだダメでしょ」
「なんだよその謎ルール」
なんて、活発に会話が進むのはまれでしょう。
この時間のほとんどを占める沈黙を無為とするか、相手を想う時間とするかはお二人次第です。
お互いがお互いのためになるように用意した時間。ぜひ有効活用してみてください。
病気・障害に原因? 防ぎにくいケンカについて
躁うつ症(双極性感情障害)の方で躁相(躁状態)の方、物質(アルコールなど)やプロセス(ギャンブルなど)への依存のある方、対人関係・または日常生活を送る上で極端に不都合を感じていらっしゃる方、その他家族やご身内と衝突しやすい状態にある方は、本人さんにその意思がなくとも病気によってケンカとなることもあります。
その時はぜひ『通院・服薬がきちんとできているか確認し、そのことを褒めましょう』
なにより、『あなた自身を最大限、大切にしましょう』
引きずり込まれないようにして、その方が入院されたり、あなたがご実家などへ避難したりすることも視野に入れましょう。
もちろん、あなたも人間です。
聖母マリアでもナイチンゲールでもマザー・テレサでもありません。
傷ついて裏切られて期待しては肩透かし。これで根気強く頑張れという方が酷なもの。
最終手段が脳裏をよぎる局面だってあるでしょう。
しかし義務的に考えず、たとえ縋り付いてきても——いちばん最悪な言葉なので使うにためらいがありますが——一緒に天国へ行こうなどとは絶対に考えてもいけません。
とはいえ人のさが、おいそれと放っておくこともできないですよね。
ではどうすれば?
自分ひとりの力
諦めるとは何を? 支える側として、何をどう諦めたらよいのでしょうか?
- 『自分はまだまだできるはずだ』
- 『みんなで頑張って支えたら大丈夫』
- 『もっとうまく接したら変化があるはず』
という誤解を捨てることです。
あなたはもう十分頑張りました。
ご自身のご病気もありながら、パートナーに全力で奉仕しました。でも、もうお分かりでしょう。しかし、認めたくない。
でも事実あなたでは力不足なんです。
誰もあなたを責めない。責めようがない。
120%、いや200%の力でサポートし献身と自己犠牲を示してきたあなたへは労りの言葉はあっても、この上さらになじったり、鞭打つようなことは断じてあってはならない。
- 『こんなに頑張ったのにまだ症状が重い』
- 『きっとわたしの力不足のせいだ』
- 『なぜこうなったのか見当もつかない』
すべて『その通り』です。
あなたの力でどうこうなるものでもないのに、あなたへばかり負担がかかり、挙句、責任をかぶせようとする。
あきらめるべきは『あなた自身の力』です。自分一人で戦うという行為です。
- 『もうだめだ』無理がたたったんです。
- 『もう疲れた』本当にお疲れ様です。
- 『もう万策尽きた』あなたが孤軍奮闘しているところへ誰かもう一人加われば万策は2万策、さらにもう一人で3万策です。
ひとりで戦うには分が悪い。
一人ではない。決して一人ではない。
人海戦術と表現しました。
外部の相談機関、利用できるサービスはさまざまです。
- 診察で家族面談をしてDr.に要望やお悩みを伝える
- 地域医療連携室(おおむね200床以上で、紹介・逆紹介の多い比較的大きな病院に設置される)
- 訪問ヘルパー
- 訪問看護
- 行動援護
- 移動支援
- 福祉有償運送
- デイケア、ショートケア、ナイトケア、デイナイトケア
- ショートステイ
- 自治体の保健福祉会館などの相談機関
- 夜間休日の緊急時には都道府県の精神科救急情報センター
今まで孤立した戦闘だったあなたの『努力』は、いとも呆気なく報われることだってあるんです。
以下、簡単に説明していきます。
各種公的サービス類の説明
移動系
「行動支援」は、国が対象者(精神・知的)を定めた、重度の知的・精神障害(自閉スペクトラム症など)を持つ方への外出中の介護、危険回避などを行なう事業。着衣脱着・排泄・食事介助を含む。
「移動支援」は、市町村が対象者(精神・知的・視覚・肢体)を定めた、単独では移動が難しい方への社会生活上(選挙、冠婚葬祭、買い物含む)の支援。
※なお、似たような名前の「同行援護」についてですが、これは視覚障害者に限定したものです。
輸送系
「福祉有償運送」は単独でタクシーなどを使うことが困難な障害者の方や要介護(支援)認定者の方などへ、病院の行き来や移動などに通常のタクシーの二分の一程度の負担で利用可能なサービスです。
自治体・NPOなどが提供するサービスですが、参入・撤退が頻繁なのもこのサービスの特徴。
車両数も都道府県でかなりの差異があり、もし利用してみたい、と思われた方はワーカーさんなどにご相談してみてもいいでしょう。
滞在系
「デイケア」は認知度の高いサービスでしょう。基本的に日中の6時間のなかで、リラックス、リフレッシュの時間を提供します。
- 「ショートケア」はそれよりも短い3時間。
- 「ナイトケア」夕方4時以降の4時間。
- 「デイナイトケア」は、多くは9時から夜8時までで、朝昼晩の食事3食を提供するところが多いです。
- 「ショートステイ」はおおむね数日間、施設や病院に入所し気分のリセットを行なうサービスです。プログラムが組み込まれていたり、自由に時間を過ごしたりします。すでに単身生活をしていて、少しの間の安らぎを得たり、レスパイトケア(同居人の方への息抜きの提供)目的での利用も多いです。
このように様々なサービスもありながら、それぞれの申請や窓口がどこになるのか分からない、誰にどう相談したらいいのか分からない、といったことで利用しきれていないサービスもあるかと思います。
まず一番の窓口は医師です。
医師が地域医療連携室なり、ワーカーさんが詰めていて病床数もそこそこある提携病院なりにお話を持って行くかと思います。
おおむね市区町村役場で障害支援区分認定調査を依頼し、そののち調査員(主に業務委託された民間の調査員)による調査を経、医師の意見書とともに審査にかけ……
と、七面倒くさいのですが、ここでは「ケンカと仲直り」にフォーカスするため、障害支援区分認定調査絡みのお話はいったん終わります
『そもそも論』を展開しましょう
『わたし、なんでこの人のこと好きになっちゃったんだっけ?』
という問いへ。
——好きか嫌いかっていうと、まあ、好きだけど。
——でもどうしても「この人じゃなきゃダメ!」ってのは薄れてきた。
——だからってケンカ別れするのはもったいない気がする……。
葛藤もあるかと思います。
「本当にこの人が大好きでこの人じゃなきゃダメで少しくらい我慢してでも一緒にいたい」か?
——そう訊かれると「うーん……」となるかもしれません。
だって、お二人、ケンカ中ですから。
ちょっと先の未来を考えましょうか。
ケンカも仲直りもひと通り終わって、元の鞘に収まり、パートナーさんが「あー、その……ゴメンね」と切り出して、もしくはあなたがご自分でそう切り出して、それでパートナーさんが「いや、自分の方こそ……」ともじもじと話し出して、そうすれば残るのは禍根ではなく照れくささと『なんでああなっちゃったんだろ?』という素朴な疑問です。
ケンカするの、もったいないですよね。
できればずっと仲良くしてにこにこしていたいですよね。
最初の質問。
『わたし、なんでこの人のこと好きになっちゃったんだっけ?』
次の質問。
「本当にこの人が大好きでこの人じゃなきゃダメで少しくらい我慢してでも一緒にいたい」か?
それらへの答え。
「そんなの、答えられなくてもこれだけ夫婦やってるから大丈夫だよ!」
理屈じゃないんですよね。
大丈夫。
誰もあなたたちを咎めないし、責めたりしない。掴んだ幸せをどうか大事にしてください。
応援しております。
結びに
いかがでしたでしょうか。
今回は精神障害者のケンカと仲直りについてお話してみました。
一部表現の強い箇所もありましたが、平にご容赦いただけると幸いです。
ケンカをするにも仲直りをするにも一筋縄ではいかない精神障害者カップル。
そのいずれにもたいへんな体力、精神力を消耗します。
その過程を経て、夫婦は夫婦となってゆくものだとわたしは思います。
皆さんに幸あれと願うばかりです。
それまでお元気で。
▼参考▼
煙亜月
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