【ご注意】
現在連載しておりますこれらの記事は、自ら重症熱傷を図ったわたしの体験談がメインとしています。
できるだけ直接的な表現は避け、ソフトにお伝えしますが、一部刺激的なお話もあります。これによりあなたのトラウマを掘り返し、フラッシュバック等を引き起こすことも考えられますので、ご閲読の際には十分にご注意ください。
▼参考▼
今回は火傷に限らず色んな『傷』について探ってゆきます。特に自傷行為による傷への言及が目立ちます。読むのが辛くなりそうだな、と思われる方はどうぞお戻りを。ペナルティなんて一切ありません。
◆ご注意◆
ここでお話しするのは煙亜月個人の体験に基づく経験則です。
ご自身の傷やご病気、障害などに対する専門的なアドバイスは、必ず、絶対に、医師や看護師、薬剤師などへご相談してください。当たり前ですけどね、一応。
あくまでひとりの傷を負ったひとが話している、そんなエッセイのようなものです。
前回はお話しませんでしたが、精神科の病気・障害って本当に様々な診療科目を縦横無尽に駆け巡るんですね。皮膚科や形成外科、消化器内科、循環器、整形、小児科、耳鼻咽喉科、もちろん心療内科や精神科も。
今回の記事では『傷で隠れるあなたの魅力』と題しまして『傷』について幅広くお話をしてみたいと思います。
例によってわたくし、煙亜月の独壇場となろうかと存じますが、どうぞお付き合いくださいませ!
それでは! 行ってみましょう!
お好きなところからお読みください
傷口はどう治る?
例に取るのも心苦しいのですが、リストカット・アームカットの傷痕は思っていたよりも長い年月の間、残ります。傷口は比較的すぐに塞がっても、傷痕や縫った痕が年齢を経るごとにだんだんと面積が広がってゆきます。嫌ですよね……
まずは軽く『傷ってなんやねん』からお話します。お急ぎの方は目次をご活用ください。
最初の傷は真っ赤ですよね。その身体の中身が出てる状態からふつうの皮膚に戻ります(上皮化)。それも、縮みながら塞がります。傷口の治り方など、わたしの経験談を元にお話してみます。
傷口は縮みながら治ります。面積をそのままにして治癒するのはとても効率も悪く、細菌などの外敵により多く暴露されることになります。
この章ではさまざまな傷、その治り方を紹介してゆきます。
傷はどこから治る?
基本的に傷口は酸素を敵とします。よって閉鎖療法を行ないます。さらに、傷口は縮みながら治り、傷口の面積を減らそうと治ります。
順を追ってかんたんに説明します。
好気性と嫌気性について
細菌や真菌、ミトコンドリアなどは好気性で、酸素を栄養分としています。対してわたしたちの体の細胞は嫌気性、酸素に弱いです。
細菌などが大好きな酸素、わたしたちの体の細胞が大嫌いな酸素、これをどうするかというと、遮断します。医療用フィルムを用いた閉鎖療法ですね。
※感染創、動物の咬傷などはこの限りではありません。
最近では縫った直後の傷に紙テープを数か月から一年くらい貼付します。これは『肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)』という、傷痕の腫脹を防ぐ手立てなんです。よく似たものに「ケロイド」がありますが、まったくの別物です。「ケロイド」についても近くご説明します。
塞がった後でも傷口はたたかっています。
塞がりたての傷口
塞がりたてで開きそうな傷に引っ張る方向のテンションがかかると、コラーゲン(=膠原線維「こうげんせんい」。人体の代表的な結合組織で傷口を強力に補強します)とかのゴツい細胞が一気呵成(いっきかせい)に肥厚性瘢痕を組織し、ちょうどひどいやけどを負ったあとのような見た目となります。
程度の軽いものや、割と初期のものでしたら見た目はいわゆる「ああ、縫ったあとやな」。
この「縫ったあと」を延ばすように引っ張ると、さらに補強しようと闘っちゃうんです。それで周辺の皮膚が引っ張られて傷口が拡がろうとすることのないように紙テープとかのテープで固定するんですね。
さらに、傷は小さい方が治りやすいです。そのため傷口自体も小さくなりながら(外縁部から)治ってゆきます。
この時、「外縁部から」といいましたが、これが重要なんです。傷は、傷口のど真ん中からは治りません。少しでも正常な(傷ついていない)組織からじわじわと治ります。
これは余談ですが、生命の危機に瀕すような広範囲熱傷では自分の皮膚を移植して火傷した部位を覆いますが、それでも自分の皮膚が不足しそうな場合、特殊な器械で採皮した自分の皮膚をメッシュ状にします。
メッシュ状にした自分の皮膚を患部に貼り付けると、先ほどのように正常な、傷ついていない植え付けた皮膚からじわじわと傷口がふさがってゆきます。
それで生命の危機“だけ”は脱するんです。
- 外縁部から(正常部位から)傷は治ってゆく。
- 治療終了の傷痕は、テープで固定すれば将来的に少しでも目立たなくなるようになるかもしれない。
これがこの章のまとめです。
完治したのちの傷痕
以下、ところどころ傷痕、傷を作ることについて肯定的ともとれる文言があります。ご注意ください。
傷はなければない方がいいもの。
しかし、本当にどうしても仕方がなくそうしてしまった方も少なからずいらっしゃいます。その方々へ対し、『異常行動!カッター隠して!傷痕隠して!』とは絶対にいいません。
その方々が『傷』を強制的に我慢したら、カッターの代わりになるものは何なのか、皮膚、体表の代わりになるものは何なのか、そういった選択で悩むことになりかねないからです。
刃物を没収しても歯がある。
歯がなくたって壁にぶつける。
壁がなければ索状物(さくじょうぶつ)、異食、高所——こうなれば抑制帯(よくせいたい)が選択されるでしょう。間に合えば、の話ですが。
「バカだった、仕方なかった。傷が、嫌だ」
傷つけた手首ないし上腕の切り傷は何年も残ります。これが『肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)』と呼ばれるものです。
『肥厚性瘢痕』は治癒につれ傷口の補強を担い、傷痕として残ります。ざっくりと説明するとこのような短文ですが、問題となるのが切創、つまり切り傷ですね。
さて、血も止まったし病院へ行き、少しばかり縫いました(「何針(はり)縫った」とよく言いますが、救命医が縫ったか外科医が縫ったか形成外科医が縫ったかで倍くらい差が出ます。形成外科医の先生のおっそろしく細い糸で「何針(しん)縫った」を、救命医の先生のそれと同じにしないでください……)。
縫ったところへ紙テープを貼り、掻かないでねといわれました。
何コレどうなってんのむっちゃくちゃ痒いしマジ赤くなってるし、ヤバいんとちゃうん?
それはただのマスト細胞のせいかもしれませんし、糸の異物感のせいかもしれません。マスト細胞は、例のヒスタミンを放出する厄介なやつです。傷が癒える過程で、さらに治った後もかなりの期間、むずがゆ感を強いてきます(※他因子の場合あり)
縫合ののち、さらに病院への診察から抜糸、抜糸後も半年のあいだじゅう患部に紙テープを貼るよう指導されたかもしれません。が、とにかくかゆい。縫合したところのむずがゆさといったら尋常じゃありません。テープをはがし掻きむしって血が出てまた怒られる。
あーあ……。
手首なり腕なり首なり、切ったところ塗ったところの傷痕が——大きくなってるじゃありませんか!
それもそうです。人体は伸びて動いて膨らんで、皮はそれに応じて広くなるんです……。
あーあ……。
傷癒えたあとも
今までで、人生のピークっていつだったかなぁ。切るのもプチODも、何だったんだろうわたしの人生……とはいえ、一人だけ、必ず、味方がいます。
学校が嫌で学校休みたいってほんとはいいたかった。でもお腹が痛いっていったら年頃だからってすんなり通った。
初めて静脈切ってしまって出血の多さで本当に怖くなって、でも結局自分で止血した。三枚重ねのスーパーの袋にめっちゃ布入れて腕入れてタクシー呼んだ。
そしたら救命医?に頭ごなしに怒られて、「ああ、自分には逃げ場はないんだ」って悟った。数週間後、誰ひとり反対せずに決まった入院は病棟に中学で仲良かった子がいてなんか泣けた。
世界は孤独で冷酷で、諦めるに値する。なのに踏ん張ってる。
就職してからも陰口と幻聴のMIXで人生終わるかと思った。いや終わらせたかった。何もかも捨てて帰った実家暮らしが一番つらかった。
でも、地域の施設で「ピアサポーターやってみない?」との誘いはちょっと嬉しかった。生まれて初めて自分が必要とされた。
あの人は率先してサボらせてくれて、率先して励ましてくれて、生まれてからこの時までわたしを支えてくれた、
ありがとう、“わたし”。
わたしよ、わたしを誇れ
この傷痕にしても、もちろん褒められたものじゃないけど、仕方のない犠牲というか、必要悪として在るんです。
つまり、
『傷ついたら、治ろう。だって傷つかないよう生きるのは困難だから。傷ついても大丈夫なようにバックアップしてね。だから行ってこい、わたし』。
――命ある限り傷つきます。傷の治癒は『完治』ではなく『区間完走』であるとわたしは考えます。
人体は傷つきます。でも傷は治るようにできています。
傷が治らないなら傷薬を、気分がすぐれないなら安定剤を、眠れなければ睡眠剤、痛みに耐えかねたら鎮痛剤もある。難しいのは傷を治すことよりも、一切の傷がつかないこと。あなたが思うより、みんな傷ついてる。
恥に思わなくていいし、あなたが一番、特別に奇妙なわけではない。
思うより、味方はいるもんです。
それでもこんな傷、嫌だ
手術痕やタトゥーを恥じてしまったり、カッティングを隠したくなっていたり。とかく傷というものは目立つものです。
形成外科や美容外科でけっこうな額を積めば薄くなることは知ってします。リハビリメイクという、傷やあざ、しみやそばかすが驚くほど目立たなくなる特殊なメイクの技法にも少し興味があります。ちょっと高いです(保険が使えるかは調査中)。
でも、どうしても隠せない傷が目につかないか学校や職場、地域でもびくびくしながら過ごしています。
時に、誰のために傷を隠すのかを明確にしましょう。
隠す目的が『恥ずかしいから・みっともないから』であれば、思ったより『思ったよりあなたのことは見られていない』として解決できます。
ご存じの通りわたしは自分自身によって70%熱傷を負いました。
たしかに受傷後しばらくは黒変という、受傷組織のよくない変化(発がんリスクが高い変化。具体的には有棘細胞層の皮膚がんが好発しやすくなると目される)が起こり得るので紫外線は避けなければならなかったのですが、人目を避ける理由は特にありませんでした。
そもそも誰のために、何のために隠すのか。
もちろんわたしがとやかくいうことではありません。
ただ、恥に思うばかりにあなたご自身が委縮し、普段のあなたより存在が小っちゃくなるのはもったいないと思うんです。
煙 亜月の大学時代の経験から
もう笑っちゃうくらい誰一人、わたしのことなんて見ちゃいませんでしたね、ええ。
夏は半袖です。暑いから。
なぜそんなに暑がるかというと汗が出ないから。汗がないと気化熱も奪われません。それに、体表近くの血管叢がことごとく焼けてしまっています。この血管叢もラジエータの働きをします。これらが機能しないため、(今年はもしかすると、とんでもなく暑いのでは——?)と天気予報を気にしたりします。
——などとして、長袖なんてもってのほか、脱げるだけ脱ぎたいと常日頃から考えていました。
『傷痕? ああ、コレ? うん、今は痛くないけど、これがどうかしたの?』
というスタンスを貫き、傷痕は気にせずキャンパスライフを謳歌するという、えもいわれぬ肝の座りようでした(無神経なだけかもしれませんが)。
でももしあなたがわたしと反対に傷痕を恥じているのなら、それは社会的な傷、もしくは広義でのセルフスティグマ(自分自身による)です。
あなたを傷つけているのは、悲しいことにあなたご自身です。
この記事、つまりわたしのお話ししていることがあなたのすべてを解決することは、できません。しかし、あなたの“すべて”に対抗している可能性はあります。あなたの怒り、悲しみを増長させることもあり得ます。むしろ、そうでないことの方が珍しいです。
ひとりの人間がもうひとりの人間に対し、
『違う、あなたは悪くない。傷痕だって悪くない。わたしがいいたいのは、すでに治った傷を見たあなたが自身をおとしめることだ』と、主張した場合、そりゃうっとうしいと感じてしまうでしょう。
それでもわたしはあなたの傷は『十二分に誇っていいほどの剛い盾だった』といいます。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
今回はフィジカル、物理的な方面からとメンタル、心理的な方面からの両面から“傷”についてお話してみました。
やや深いところまで掘り下げて論述してみましたが、多少「しんどさ」のある記事となったと思いますが、今後はこのようなキツい記事はなかなかないかと思われますので、それほど構えずにお読みいただけると思います。
それでは、またどうぞお越しくださいませ!
▼参考▼
煙亜月
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