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介護現場を支える人材確保や人づくりの最前線|栃木県保健福祉部が語る現状と課題〜前編〜

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格子状の背景に、中央上部に「介護現場を支える人づくりの最前線」と小さく書かれ、その下に青い帯で「栃木県高齢対策課が語る現状と課題 前編」というタイトルが配置されている。中央には車いすの高齢者とそれを支える介護職員のイラストが並んでいる。

介護人材の確保と定着が深刻な課題となっています。

 

地方自治体でもさまざまな取り組みが行われる中、今回は栃木県保健福祉部高齢対策課の関口様に取材しました。

 

県が力を入れる人材確保策や、現場の声に基づいた支援体制、そしてテクノロジー活用による業務改善の現状について伺いました。多様な働き方や情報発信の工夫など、これからの介護業界に必要な視点が詰まった内容です。ぜひ最後までお読みください。

人材確保に挑む栃木県高齢対策課の取り組み

「栃木県高齢対策課による介護人材確保・育成の全体モデル図。未経験者支援、育成・資質向上、労働環境改善の3本柱を中心に、相談窓口や協議会が連携し、持続可能な介護体制を目指す構成。」

引用:栃木県の介護人材確保対策事業

 

ジュン
最初に、栃木県の保健福祉部高齢対策課ではどのような業務を担当されていますか

 

関口さん
私たちが担当しているのは、高齢者福祉が主な業務です。仕事内容は幅広く、認知症対策、介護施設等への各種指導業務、介護人材確保対策などを担当しています。

 

私が担当しておりますのが介護人材の確保対策です。国の補助を活用しながら様々な取り組みを実施しています。

 

こうした取組は3つの軸で構成されています。まず人材の裾野を広げる取り組みで、介護福祉士の資格取得のための修学資金貸与制度や、各種イベントの開催、マッチング支援、市町が行う初任者研修の実施を支援するなど、対外的な活動も行っています。

 

2つ目は、実際に働く人材の能力向上です。現職者のサービススキルアップ研修や外国人介護職員に対する日本語教育なども行っています。

 

最後に環境改善の観点から、3つ星認証制度による法人認定、外国人関係の支援として家賃等補助、介護テクノロジーの分野では昨年度3億円超、今年度は1.6億円規模で介護ロボットやICT機器などの補助事業を実施しています。

 

さらに7月には、介護生産性向上総合相談センターを立ち上げる予定です。

 

ジュン
介護分野に限りませんが、人の確保という面は大切ですね。

 

関口さん
介護の現場では、ハローワークへの依頼や人づてでのお願いといった形で人材を確保していることが多いと聞いています。一方で、大手の介護事業所などでは、専門の有料サービスを活用したり、充実したホームページを利用したりしている状況です。

 

現在、人材確保の手法については、事業所の規模によって二極化しており、そこが課題だと考えています。

 

ジュン
その辺り、大手がやはり強い印象ですね。

 

関口さん
専門の有料サービスを使う際、1人を雇用するために100万円、150万円といった費用をかけて人材を集めているところもあります。しかし、そういったパワープレイができるのは限られた事業所だけでしょう。

 

また、ホームページがあっても、見て貰えなければ効果は期待できません。ハローワークに求人を出しても、自分の会社がどのような事業所で、どのような人が働いているかは、なかなか伝わらないものです。


現在、この二極化が採用活動において大きな課題になっていると思います。

 

ジュン
ホームページや情報サイト、ハローワークなどでもいろいろ情報を出していると思いますが、どうしても介護福祉業界には「つらい」というイメージがあり、そこでためらう方もいらっしゃるのでは。

 

テクノロジーの力で介護業界のイメージ改善

関口さん
どうしても「つらい」「きつい」といったイメージが先行してしまうため、そのイメージを払拭するために、私たちも非常に力を入れているのが、テクノロジーの力を活用した働く方の負担軽減と、それにより限られた人員でサービスの質を上げようという試みです。

 

例えば、夜勤がきついという問題については、今まではずっと夜中に見回りを続けなければならず、休む暇もありませんでした。しかし、見守り機器を活用することで実際に起きている方や起き上がっている方を把握でき、適切なタイミングで効率的に見回りを行うなどの負担軽減を実現するとともに、異常にも迅速に対応できるようになります。

 

また、利用者の入浴支援においても、リフトなどの機器を積極的に導入する事業所が増えており、腰痛対策などの職員の身体的負担を減らしてサービスの質を向上しようという取り組みが、この数年間で大きく進歩しています。。

 

ジュン
福祉の世界でも、テクノロジーの進歩でだいぶ業務改善が進んでいます。そこはしっかりアピールしていきたいですね。

 

関口さん
テクノロジーを活用したり、従業員への手厚い配慮を実際に行っている素晴らしい事業所があります。しかし、そうした取り組みを外に向けてどれくらいアピールできているかは、また別の課題です。

 

良い事業所であっても、そのことが十分に周知されていない状況があります。

 

ジュン
最近ですとインターネットなどで多くの情報が集まりますが、一昔前ですと媒体がテレビや新聞くらいと限られていましたからね。インターネットにしても、今度は情報が多すぎて混乱する部分もありますし。

 

介護業界の情報発信

関口さん
情報の伝え方が難しいところです。実際に求職者が「栃木県 介護 転職」などと検索したときに、どのようなものが表示されるかを見てみると、様々な転職サイトが上位に出てきます。

 

一方で、実際に自分たちが行っている介護がどのようなものかといった肝心な部分については、現在最も伝わりにくい状況にあり、そこが情報発信の課題として表れているのでしょう。

 

ジュン
伝える側も工夫が必要ですね。

 

関口さん
情報発信が進んでいる事業所や3つ星認証法人の中には、働く人の姿をアピールする動画を作成しています。かなり本格的に取り組んでいる印象です。例えば、宇都宮のとある事業者では、事業所の情報も整備されており、こうした内容がしっかり見えるようになっています。

 

採用情報の部分を見ると、実際に働くスタッフの情報や入職のきっかけなど、こうした内容がきちんと伝わっていますので、「この年齢の人でもOKなら私もできるかな」とか「女性だけでなく、男性も働いているようだ」といったことがわかります。

 

こうした情報発信を事業所がみんな実施できれば、もう少し状況が変わってくるのではないでしょうか。

 

ジュン
大きな都市の施設であれば色々充実していますが、栃木の中でも地方の小規模なところは苦しい部分もありますか。

 

関口さん
介護労働安定センターの統計を見ても、半数近くは近所の人に声をかけたり、友達を連れてきてもらったりといった紹介採用でなんとかつないでいる状況のようです。それは実感としてもあります。

 

見ていると非常に大変で、事業所も苦労していますし、頑張っていてもうまく伝わらないという問題があります。実は求職者が近くにいるかもしれないのに、そこがうまくつながらない。情報が伝わらない部分があるように感じています。

 

ジュン
小規模なところだからこそ、人材を集めることを考えないといけないですね。

 

関口さん
人材を集めるためには、どのようにしたら集まるかということについて、ハローワークや労働局とも協力して取り組んでいかなければなりません。求職者はそこに集まるからです。

 

先日開催した介護現場革新会議では、各業界団体の代表だけでなく、労働局にも参加していただきました。会議の委員からも、外に向けてきちんと情報を発信することの重要性が示されました。

介護業界の就職者は、実はハローワークの就職者の約10分の1を占めており、非常に大きな割合です。求職者は確実に存在するのです。

 

あとはそこに自分の会社や事業所の情報がきちんと伝われば、「どこにしようかな」と選択肢に入れてもらうことができます。情報が伝わる仕組みづくりに、現在課題意識を持っています。

 

働き方の多様化と、求められる対応力

「車椅子の高齢者と介助者のミニチュア人形が並ぶ、介護を象徴するイメージ写真。」

 

ジュン
人材確保の面も大切ですが、人材の「定着率」という面はいかがでしょうか。

 

関口さん
実際に入職してからつらい思いをして辞めてしまうケースについては、どのような仕事をするかという部分で、イメージと違ってしまったというミスマッチが多いようです。定着については、きちんと情報が分かった上で応募してもらえているのかという問題があります。

 

介護という仕事にどのような負担があるのか、入ってからいきなり夜勤をやると言われれば、つらくなるでしょう。そうした点が重要だと思います。

 

ジュン
新卒の方ですと、特に経験がない分ミスマッチはおきそうですね。

 

関口さん
分かっている人だったら大丈夫かもしれませんが、事前の情報提供が重要でしょう。

また、同じ介護でも例えば訪問介護と特別養護老人ホームなどの施設では、働き方が大きく違います。

 

訪問介護では日中の訪問が中心となり、1対1で行う仕事になるため、1人あたりの負担が大きくなります。みんなで協力して行う仕事ではありません。

 

逆に施設では複数のスタッフで協力して行う仕事となり、雇用形態によっては夜勤もあるかもしれません。

 

このように、働き方だけでも同じ介護の中で大きく異なっています。自分がどちらに向いているか、介護という仕事の中でもどのような業務が自分に合っているのか、そうした情報が伝われば、後になってびっくりするということも減らせるのではないかと思います。

 

ジュン
そこをしっかり伝えるのは急務ですね。

 

介護業務を伝える工夫

関口さん
伝える方法で今効果的なのは、動画で伝えるということです。

 

介護の世界以外に目を向けてみると、工場や他の業界では現在どのような取り組みをしているでしょうか。そうした手法が介護の世界でも活用できるのではないでしょうか。

 

自分たちの会社がどのようなところかをきちんとアピールしているところは、チャンスがあります。情報を見て入職するのとそうでないのとでは、大きく違ってくると思います。

 

ジュン
働きたい方はたくさんいらっしゃいますし、そのような体制作りが必要ですね。

 

関口さん
また、現在、世の中の動きとして、タイミーなどのスポットワークと呼ばれる働き方がかなり進んできており、介護の世界でも注目されています。子どもの世話や親御さんの介護などで一度退職された介護福祉士の方がスポットワークで働いているケースが多いということです。

 

資格はあって働きたいが、「この時間帯なら働ける」といった条件で働かれている方が存在します。そうしたニーズが確実に存在しているのです。

 

ジュン
土日だけ働きたい方や、平日のこの時間だけでもという方もいらっしゃいますからね。

 

関口さん
時代の流れとともに色々な働き方ができるようになってきました。そのため、事業者がその時代の流れにいかに対応し、様々なサービスを活用して人材を確保していくかが重要になっています。

 

現在、そうした対応力も求められているのではないかと思います。

 

次回に続く:県の支援と現場のこれから

介護人材の確保と職場環境の改善に向けて、現場と行政が一体となった取り組みを進める栃木県高齢対策課。前編では、人材確保の現状や情報発信の工夫、働き方の多様化への対応といった課題について伺いました。

 

後編では、県が設置を進める「介護生産性向上総合相談センター」の役割や、現場へのきめ細かな支援のあり方、さらには地域格差とその対応策、そして栃木県としての今後のビジョンについてさらに深く掘り下げていきます。

 

後編もぜひお読みください。

 

介護現場を支える人材確保や人づくりの最前線|栃木県保健福祉部が語る現状と課題〜後編〜

 

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久田 淳吾

発達障害(ADHD・ASD)と吃音を抱える40代男性。今まで発達障害の事は知らずに生きてきたが、友人の話を聞いて自分にも当てはまる事が多すぎる事を実感し、病院にて診断を受けると見事に発達障害との認定を受ける。自分に何ができるかと考えた時、趣味の写真でプロの先生に話を聞く機会があり、吃音が強く出ていたことに気がついた先生が『君は吃音持ちだね。だったら吃音の方の気持ちがわかるはず。それを活かして吃音の方の気持ちがわかるカメラマンになったらどうか』という言葉を思い出し、発達障害者として同じ気持ち、舞台に立てる人間として趣味のカメラ、動画編集技術を活かして情報発信をする事を決意。


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