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介護現場を支える人材確保や人づくりの最前線|栃木県保健福祉部が語る現状と課題〜後編〜

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格子状の背景に、中央上部に「介護現場を支える人づくりの最前線」と小さく書かれ、その下に青い帯で「栃木県高齢対策課が語る現状と課題 後編」というタイトルが配置されている。中央には車いすの高齢者とそれを支える介護職員のイラストが並んでいる。

介護現場の人材不足や地域格差といった課題に対し、行政はどのように寄り添い、支援の仕組みを整えているのでしょうか。

 

地方自治体でもさまざまな取り組みが行われる中、今回は栃木県保健福祉部高齢対策課の関口様に取材しました。

 

前編は下記からご覧いただけます。

介護現場を支える人材確保や人づくりの最前線|栃木県保健福祉部が語る現状と課題〜前編〜

 

後編では、栃木県が設置を進める「介護生産性向上総合相談センター」の役割や、テクノロジー導入時の支援、地域ごとの人材難への対策、そして県全体としての今後のビジョンまで、具体的にご紹介します。

介護現場に寄り添う栃木県の役割

「車いすの高齢者を介護リフトで車に乗せる介助の様子。」

ジュン
事業者の努力もいろいろありますが、栃木県としてはどのような指導や補助をしていますか?

 

関口さん
今回設置される介護生産性向上総合相談センターは、テクノロジーという観点から、相談を受けて正しく施設が求める機器を導入するよう促すという意味合いもありますが、もう一つ、業務改善や人材確保と言った視点でも相談に応じる予定です。

 

既存の人数だけでは回らないといった状況や、「では、どうすればよいか」といった相談が出てきた場合、こちらでそうした事業者をサポートする手法を提案し、このような取り組みがありますといったことを紹介したり、専門的な機関につなぐ拠点として、2025年7月に設置する予定です。

 

これからの取り組みとして、この機能を活用して事業者の不安解消の拠点にしたいと考えています。

 

ジュン
事業者単体では限界がありますから、例えば成功事例のとりまとめや周知なども必要ですね。

 

関口さん
自分のところだけでは他からの情報が来づらいという状況があります。確かにそれは課題になっているのかもしれません。

 

不安に思っていたり、どうすれば良いかと考えているものの、なかなか他の事業所に聞きづらいということがあるのではないかと思います。ノウハウや解決策については、セミナーなどを通じて広く横展開することも想定しています。

 

ジュン
県がとりまとめて、各事業所に流すと。

 

関口さん
一度ここで受け止めさえすれば、もちろんここで対応できる情報もありますし、対応が難しいものについては、まさに餅は餅屋で専門のところに話をつなぐこともできます。

 

経産省の補助金が活用できるのではないかとか、IT補助金や中小企業庁の支援、融資などといった相談についても、そうした話が出た場合はそちらにつなぐことも可能な仕組みにしているので、まずはここを入り口として活用していただき、一元的に対応しようという考えで取り組んでいるところです。

 

介護業界における専門家を充実させる

ジュン
いろいろ相談が来るかと思いますが、関口さんはどんなことに気をつけて相談を受けるべきと思いますか。

 

関口さん
厚労省が委託した福祉機器のモデルルーム事業を行っている団体の理事長がおっしゃっていたのですが、椅子に座ってお風呂に入る介護リフトがありますが、あれも、ただ導入すればいいというわけではないのです。

 

介護事業所によっては、「こういうのは人間らしくない。やっぱり人間の手で入れてあげたい」と思うかもしれません。その場合は、このリフトを導入することがその事業所にとって正解ではなく、腰痛予防のための基本動作について講習した方が、その事業所が本当に望んでいることに応えられます。

 

それぐらい個別性があることだから、何を入れれば正解という世界ではありません。慎重に考えなければいけないと思います。

 

ジュン
便利な機械も、使い方を間違えたら意味が有りませんからね。

 

関口さん
リフトのようなもので利用者を移動させる際に間違えると大変なことになりますから、そうしたリスクは避けなければなりません。事故なく安全に使用する訓練や体制作りが必要です。

 

見守り機器などの活用についても、結構繊細な部分があります。ベッドの位置のズレがセンサーの検知精度に大きく影響するなどよく聞く話ですので、適切な運用に配慮しなければなりません。

 

ジュン
きちんと使える専門家の育成が必要ですね。

 

関口さん
そういう意味では、きちんと使える人、リテラシーがある人を増やしていかないと、結局物があっても使えないという状況になってしまいます。

 

今度開設する介護生産性向上総合相談センターでは、セミナーを開催したり、専門家を実際に事業所に派遣したり、現場で指導するといった機能を持たせようとしており、このような課題に対応していきたいと考えています。

 

ジュン
機械に対して拒否感を持つ方もいらっしゃいますしね。

 

関口さん
そうしたことを嫌がる人もいるのが現実です。タブレットより手書きの方が楽だという方もいますし、そこは否定できない部分ですね。

 

ジュン
慣れればタブレットなども便利ですが、それを使いこなすまで時間がかかるのは想像できます。

 

関口さん
  ですので、そうした方々に一緒に教えたり、寄り添うような対応ができればよいと思います。最近聞いた話ですが、介護記録をつける際も、自分で考えたり記録したりするのは非常に大変だということから、chatGPTを活用してスムーズに作成できるようなサポートを受けながら記録を作成すると言った取り組みを始めた事業所もあるといいます。

 

時代は確実に進展してきているものの、どのように楽に使いこなせるようになるかという点については、県がしっかりと手を入れていかないといけない部分だと感じています。

 

ジュン
事業所も時代にあわせないといけませんね。

 

関口さん
そうですね。まさしくモデルケースとして、業界を引っ張っていけるような方の成功事例を、どのように他の同じ地域や同じような立場の方にきちんと見てもらい、「これを真似すればよいのだ」と思ってもらえるかという点が、おそらく鍵になる気がします。

 

栃木県内における地域格差

ジュン
先ほど少しお話させていただきましたが、栃木県内での地域格差などはどのような状況でしょうか

 

関口さん
例えば、一部の地域では訪問介護事業所がなくなってしまうという懸念があります。

 

地域で必要なサービスが提供できなくなると、その分遠くの事業所の力を借りなくてはならなくなってしまいます。そういう地域がある一方で、都市部を中心に事業所が集まる傾向があり、まさに地域格差があるのが現状です。

 

ジュン
栃木県内だけでも、やはり地域差は感じますね。

 

関口さん
そうした格差は現実問題として存在しています。

 

現在どのように対応しているかというと、ケアマネージャーが「この方だったら、ここからなら行ってもらえそう」といった形でつないでくださり、なんとか今その地域のサービス断絶が起こらないようにしているという状況だと思います。

 

そうした地域でも、せっかく来てくださる訪問介護事業者で人が足りなくなってしまったら、そういった対応もできなくなってしまうため、行き着くところは、きちんと人材が確保できるようにしておかないと、今よりもさらに後退してしまうということになります。

 

最終的には人材確保対策に行き着くのだなと思います。

 

ジュン
特に訪問介護の人材確保は急務ですね。

 

関口さん
ですから、そこに対して、現在県では訪問介護の人材確保支援を行っています。

 

これは、新人の訪問介護員が一人前になるまでの間は先輩をつけて2人体制で対応するのですが、現在の介護保険制度では1人分しか報酬が出ません。

 

これまでは、事業所がいわゆる投資として持ち出しでやっていた部分だったので、そこに補助をするという仕組みを作りました。そうすれば、事業所も負担が重くならずにすむため、安心して新しい人を呼び込めるという仕組みにしたいと考えています。

 

そうした一つ一つの事業で、どれぐらい現在の地域格差の拡大を食い止められるかということを考えながら取り組んでいます。

 

ジュン
現実問題、お金の支援も大切ですからね。

 

関口さん
限られた介護保険制度の枠組みの中で、県としてサポートをかけて、報酬をもらう場所は違うけれども、しっかりとその費用をもらえるという安心感があれば、人を雇うという方向に切り替える事業所が出てくると思います。

 

栃木県の介護業界における横のつながり

ジュン
事業者と県なども、含めて横の繋がり、連携はどのようになっているでしょうか。

 

関口さん
その連携の場として、今年作った県の介護現場革新会議がありますね。

 

県だけ、あるいは市町村だけ、事業所だけという単独での対応では限界があると思います。県も市町村も事業所も業界側も、みんなで知恵を出し合って、まずこれをやっていこうという方向性を決めることです。

 

今の時期だと、介護現場の生産性向上の取り組みを推進しなければならないという認識で、介護テクノロジーを活用した業務改善などの様々な施策を用意していますが、こうした取り組みについてもしっかりと意見を聞いて、「まずこれをやっていきましょう」という方向性をみんなで決めていく必要があると思います。

 

もちろん、予算も確保しなければならないため、ある意味、施策の意見や具体的な取り組み、どういうことをやればよいかということを検討する場として、こういう方向でやっていきましょうという方針をみんなで決めるということを現在心がけています。

 

その第一弾の成果が、この介護生産性向上総合相談センターにつながってくるという形になります。

 

ジュン
1つの事業所だけ、県単独ではどうしても限界がありますからね。

 

関口さん
 介護分野が抱える様々な問題、人材不足や人材確保といった課題については、誰かが頑張るという個別対応ではなく、みんなで協力して取り組むという世界観にしないと、これから先は大きな成果を上げることはできないと思います。

 

そういう意味でも、私たちはこの革新会議で現場の声を頂きながら業務を進めようとしている状況です。栃木県のこうした姿勢が伝わっていけばいいなと思っています。

 

地域格差と人材不足に挑む栃木県のこれから

栃木県の県章。緑地に白の図案で、自然と成長を象徴する抽象的なデザイン。

 

ジュン
最後に、県としての今後のビジョンはどのようなものがあるでしょうか。

 

関口さん
栃木県では、人づくり、人材確保が知事の公約にもあり、非常に重要な課題だと考えています。

 

ですから、現在行っている事業はもちろんしっかりと継続し、必要な人に必要な支援を届けていきながら、栃木県で働き、そのまま介護人材として定着していただけるような仕掛けを、県としてもどんどん積極的な姿勢で取り組んでいきたいと思っています。

 

まず当面は、このリアルな拠点である介護生産性向上総合相談センターが事業所のサポート拠点としてできますので、ここを発射台としながら、様々なセミナーや現場支援を発信していきたいと思います。引き続き県として一生懸命頑張って参ります。

 

ジュン
この記事をよんでくださる読者にメッセージをお願いいたします。

 

関口さん
多くの介護事業所においては、財政的な部分の不安から、新しく人を入れようというところになかなか踏み切れない現状があります。

 

私たちが支援しているのは、まずその下支えをするという目的でありますが、今後は、これだけではなく、これから介護業界に期待を持っていらっしゃる求職者の方々に対して、これだけの様々な支援を行っているとか、介護の世界では国家資格を取得し、働くスキルを身につけることができるといった、きちんとしたメッセージを伝えていかなければならないことが、非常に大きな課題意識となっています。

 

ですから、事業者にはもちろんのこと、県内外の求職者の皆様についても、しっかりとアピールしていくという所を大きな意識として、これから事業展開を進めていきたいと考えています。

 

ジュン
  ありがとうございました。

 

栃木県保健福祉部とのインタビューを終えて

介護の現場で今、求められているのは単なる人材の確保だけでなく、「定着」と「納得」を生む仕組みづくりです。

 

栃木県では現場の声を丁寧に拾い上げ、補助制度や相談支援、テクノロジー導入のサポートを通じて、多様な事業所に寄り添う体制を整えています。

 

今回のインタビューからは、現場と行政が共に手を取り合って課題解決に向かう姿勢、そして「地域を支える力は人である」という確かな思いが伝わってきました。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

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久田 淳吾

発達障害(ADHD・ASD)と吃音を抱える40代男性。今まで発達障害の事は知らずに生きてきたが、友人の話を聞いて自分にも当てはまる事が多すぎる事を実感し、病院にて診断を受けると見事に発達障害との認定を受ける。自分に何ができるかと考えた時、趣味の写真でプロの先生に話を聞く機会があり、吃音が強く出ていたことに気がついた先生が『君は吃音持ちだね。だったら吃音の方の気持ちがわかるはず。それを活かして吃音の方の気持ちがわかるカメラマンになったらどうか』という言葉を思い出し、発達障害者として同じ気持ち、舞台に立てる人間として趣味のカメラ、動画編集技術を活かして情報発信をする事を決意。


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