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『点字×名刺』強み生かして繋がる世界|ココロスキップインタビュー前編

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白い背景のスライド。左側に『点字×名刺 強み生かして繋がる世界 ココロスキップ インタビュー 前編』と黒文字で書かれている。右側には、水色の帯がある点字付きの名刺の写真が配置されている

ビジネスの場で自己紹介のツールとして力を発揮する「名刺」。小さなカード一枚にさまざまな情報が詰め込まれていますが、そこに「点字」が刻まれているとしたらどうでしょうか。

 

視覚に障害がある方にとって大切な点字が名刺に刻印されることで、福祉という絆で繋がりが広がります。

 

今回は、点字名刺の活動を展開しているB型就労継続支援事業所「ココロスキップ」の大政様に、点字名刺とはどのようなものか、強みを活かす福祉事業とは何かなどを伺いました。

 

前編ではココロスキップ様の活動内容や、マイナスをプラスに返る理念などを伺っています。

 

最後までどうぞお付き合いください。

ココロスキップの活動内容

「『ココロスキップ』という看板が掲げられた建物の外観。入口前に植物が並べられている。

 

ジュン
ココロスキップ様の施設概要についてお願いします。

 

ココロスキップは就労継続支援B型事業所という福祉施設です。2016年から現在の埼玉県越谷市大沢の場所に移転し、就労継続支援B型事業所として点字名刺プロジェクトに取り組んでいます。

 

点字名刺プロジェクト自体は2007年のスタートです。最初は株式会社として運営しており、地域の視覚障害者の方にマンションの一室へお越しいただき、点字を確認してお返しするサービスを提供していました。

 

ジュン
もう20年近くにもなるのですね。どのような理念で運営されてるのでしょうか?

 

運営にあたっては明確な理念があります。障害を持った方でも働いて収入を得て、税金を納める立場になることで、社会にある偏見のようなものが少しずつなくなっていけばという理想を込めて、あえて株式会社という形でずっと続けてきました。 

 

しかし、事業として継続するのはなかなか困難で、点字名刺プロジェクトをやめるか続けるかの決断を迫られた際、就労継続支援B型事業所という施設があることを知り、形態を変えてでも続けてみようと決意します。そして2016年に現在の形でスタートを切りました。

 

ジュン
点字名刺とはどのようなものなのでしょうか?

 

 点字名刺サービスはお客様からお預かりした名刺に点字を刻印し、お戻しするサービスとなります。

 

点字名刺は主に視覚障害の方が専用の機械を使って1枚1枚点字を刻印します。

隣には検品業務でチェックを担当する方もおり、梱包業務を行う方、メール対応をする方など、精神障害や知的障害の方々とも力を合わせてプロジェクトに取り組んでいます。

 

点字名刺以外の仕事

ジュン
点字名刺以外の業務などはなされているのでしょうか?

 

点字名刺以外では、内職業務やハンドメイド作品の販売も行っています。利用者さんの工賃については、点字名刺をはじめとした各種業務の売り上げから必要経費を除いた金額が全て利用者さんに還元される仕組みです。

 

売り上げが高ければ高いほど皆さんの時給が上がるため、点字名刺だけでなく内職やハンドメイドでも積極的に売り上げ向上を目指しています。

 

ジュン
明確な数字で見える分、作業される方のやる気にもつながりますね。

 

障害者の収入とやりがい

ストライプのTシャツを着た人物が、テーブルで紙の仕分け作業をしている様子。事務機器が置かれている。

 

ジュン
利用者さんの日々の活動の様子はどのような感じなのでしょうか?

 

皆さん、働くということに対して非常にやりがいを持ってお仕事に取り組んでくださっています。全国にあるB型事業所の多くは、おそらく内職をメインにしているところが多いのではないでしょうか。内職の場合、単価が非常に安いお仕事になるため、どうしても売り上げが上がりません。

 

一方、点字名刺はお客様からお預かりした名刺に点字を刻印してお戻しするサービスですから、それほど経費もかからず、ほとんどが利用者さんへの還元に回せる売り上げとなるわけです。

 

ジュン
B型事業者の収入問題はよく聞きますね。

 

 点字名刺は単価も高いため、時給をある程度高く設定できるという点も、収入面でのやりがいに繋がっていると思っています。それだけでなく、お客様に喜んでいただけるお仕事をするということも、もちろんやりがいの一つです。

 

ジュン
仕事をする上で収入も大切ですが、やりがいも大切だと思います。

 

点字名刺プロジェクトのきっかけ

茶色い机の上に、点字を打刻するための金属製の機械が置かれている。装置には赤いレバーとカードを差し込むための台があり、細かい穴の開いた金属板が取り付けられている。正面には『ポインターMT型』と書かれた表示がある。

 

ジュン
点字名刺プロジェクトを始められたきっかけはどのようなものだったのでしょうか?

 

兄と一緒にこの仕事を立ち上げているのですが、兄は今でいう発達障害があり、なかなか一般の仕事に馴染むことができませんでした。コミュニケーションを取ることも難しく、就職できても続けることができないということが繰り返しあって、障害に対しての生きにくさを感じていたのです。

 

そこで障害者雇用を増やしていきたいという思いが生まれ、その時に点字名刺というものがあることを知りました。

 

障害があるからこそ価値のあるサービス

障害はどうしてもマイナスのイメージを持たれがちですが、視覚障害の方が自分たちの使う点字を自分の仕事として手がけることは、マイナスではなくプラスになるのではないかと考えました。これは仕事に繋がると思ったのがきっかけです。

 

私も点字名刺を作ることはできますが、私が作った点字名刺と当事者の方が仕事として作った点字名刺では、明らかに付加価値が異なると思います。

 

障害があるからこそ価値のあるサービスが点字名刺で実現できるのではないかと考え、プロジェクトを進めていこうと決めました。

 

ジュン
障害があるからこそできるサービス。付加価値は大きいですね。

 

当事者の方が作るからこそ意味があり、お客様もその仕事に繋がるという応援の気持ちを持ってくださっていると思います。

 

そういった意味で仕事を生み出しているということが一つの価値でもあります。また、元々の点字名刺のメリットとして、ビジネスツールとしても名刺交換した際に非常に話題になり、会話のきっかけになるとおっしゃっていただけるので、その相乗効果で継続的なご注文に繋がっているのではないかと考えています。

 

ジュン
障害があるから何もできないのではなく、当事者だからこその価値ですね。

 

仕事に関しては、得意なところを生かせばよいと考えています。苦手なことを一生懸命頑張るよりも、得意な部分やできることを仕事に繋げていくことを大切にしており、現在は仕事の割り振りや仕事の創出という観点からそのように取り組んでいます。

 

印象に残ったエピソード

青い服を着た人が机に向かい、両手の指で点字が刻まれた本をなぞって読んでいる。机の上には白いカップとノートが置かれている。

ジュン
長く続く点字名刺プロジェクトですが、最初の頃にあったエピソードなどお聞かせください。

 

最初は本当に全く初めてのことに取り組むということで、点字自体もよく理解していなかったため、勉強するところから始めました。

 

点字を作る機械についても、どのような仕組みで作れるのかを調べることから開始し、視覚障害についての勉強やボランティア活動もさせていただきながら学んでいきます。

 

その中で、視覚障害のある方は仕事が本当に少ないということを知り、そもそも会社に行く、つまり移動すること自体が困難だということも理解できました。

 

ジュン
手探り状態からのスタートですね。

 

最初はまったく注文をいただけない状況が続きます。実績もありませんでしたし、当然といえば当然でした。

 

大手企業様からの点字名刺の受注

ところが、ある日大手企業様からご注文をいただいたのです。その時、理解してくださる方がいたのだと実感し、本当に嬉しかったことを覚えています。そしてそこから少しずつ注文が増えてきました。

 

点字名刺の良いところは、使い終わったら再度ご注文くださるお客様が多いということです。リピーターが増えていくと同時に、ご紹介もしてくださいます。名刺交換の際に話題になった時、「これはココロスキップというところで作っているんですよ」と宣伝してくださるので、そのおかげで現在も新規のお客様がいらっしゃり、年々注文が増加しています。

 

点字名刺を始められたきっかけ

ジュン
点字名刺を始められたきっかけなどはありますか?

 

きっかけは、兄がもらった名刺の中に点字名刺があったことです。誰がどのように作っているのかよくわからなかったのですが、自分で打ってあるような印象でした。そこから、これが障害者雇用を増やす仕事になるのではないかと考えて始めたものの、最初はわからないことだらけです。

 

ですので、近くのNPO法人で、当時地域活動支援センターという視覚障害者の方が通う施設があり、そちらを紹介していただいて歩行訓練のボランティアで初めてお邪魔させてもらいました。そこから視覚障害の方との実際の接点が生まれます。

 

それまで視覚障害者の方を知っていたかというと、そうではありませんでした。ただ、障害者雇用を増やそうと考えた時、いろんな障害があるので一概には言えませんが、目が不自由で生活への対応も大変なのに、さらに仕事となった場合を想像すると、視覚障害の方の仕事を増やすことができれば、他の障害についても自然とその道筋が見えてくるのではないかと。

 

そのため、まずは視覚障害者の方の仕事を増やしたいという思いが強くなり、探し始めました。仕事が増えていく過程で、視覚障害の方以外の障害者の仕事も増えて来た感じですね。

 

スタートはマンションの一室から

2016年より前は株式会社として、本当にマンションの一室で私と兄の2人でやっており、地域の視覚障害者の方に来ていただいて一緒に仕事をして帰るという形でした。

 

しかし2016年からこのB型事業所にしてからは、いろんな障害の方を受け入れる施設となったため、視覚障害の方だけでなく精神障害の方、知的障害の方、難病の方も受け入れることになりました。

 

点字名刺プロジェクトは、視覚障害の方だけでなくいろんな障害の方の仕事にも繋がっているので、当初の思いは間違っていなかったと感じています。現在は様々な障害がある中で、みんながそれぞれできることや得意なことを補い合いながら一つのプロジェクトを進めています。

 

当初、点字名刺で視覚障害の方の仕事を増やしたいと考えて始めましたが、一番困難だと思われる視覚障害者の方の仕事を増やすことができれば、自然と他の障害の方の仕事も増えていくのではないかという気持ちがありました。その考えは間違っておらず、現在は皆さんの仕事が実際に増えているので、良い結果に繋がったと思っています。

 

障害がある方と交流をして

ジュン
障害のある方達と交流してどのような印象を受けましたか?

 

一番印象的だったのは、食事の時でした。私たちは目で見て食事をし、食べたいものを選んで食べますが、視覚障害の方にはまずその選択肢がありません。

 

全て言葉で伝える必要があり、その場所の位置もクロックポジション、つまり時計の位置で「2時の方向にお茶を置きます」といった具合に説明します。当たり前のことではありますが、実際に接してみて初めてこういう大変さがあるのだということを、食事の時に最も強く感じました。

 

しかし、普段の生活の中で障害者の方との接点が、誰もが持っているわけではないと思います。これは仕方のないことというか、環境がそうなっているのでしょう。

 

点字名刺を通じて視覚障害者への理解促進も

ただ、点字名刺もそうですが、普段使っている名刺に点字が入っていることで、点字がより身近なものになれば、そこから視覚障害者の方への理解にも繋がっていくのではないでしょうか。そんな期待も込めて、この点字名刺の普及と同時に点字の普及もしていきたいと考えています。

 

例えば道路に黄色い点字ブロックがあります。そこに自転車が止まっていたり、障害物があったりするということがよく指摘されますが、皆さんが悪気があってやっているというよりも、身近な生活の中に点字ブロックを使っている方がいないため、意識していないだけであって、意地悪をしようという気持ちは全くないでしょう。

 

ただ、点字が身近なものになることで、視覚障害の方が点字ブロックを使うものなのだ、点字ブロックは視覚障害者の方が歩く時に使うものなのだという意識を少しでも持ってもらえたら、社会にも見守る目ができて、優しい社会になるのではないでしょうか。そういった意味でも、点字や点字名刺がもっと普及して、優しい社会に繋がればよいと思っています。

 

ジュン
知らない人が多いからこそ、情報発信の重要さを感じますね。

 

どんな障害についても、まずはそこから理解や共感というものが生まれ、支え合い、補い合うことができると思います。健常者と言われている人も、障害の部分がないわけではないでしょう。みんな何かしらの生きにくさを抱えて生きており、それが障害者手帳を持っているかどうかで線引きをする必要もないのではないかと考えています。

 

マイナスをプラスに変える福祉資本主義

灰色の四角いビルの模型の周りに、複数のスーツ姿の人形が立っている。人形は黒や茶色、灰色のスーツを着ており、ビルを取り囲むように配置されている

ジュン
マイナスをプラスに変える理念について、詳しくお聞かせください。

 

大きな理念の一つとして、「福祉資本主義」というものを掲げています。一般企業には法定雇用率として障害者の方を何%雇用しなさいという法律があり、一般企業で障害者の方を受け入れるという流れがありました。

 

それはもちろん良いことですし、そこで活躍できる障害者の方がいれば素晴らしいことだと思います。しかし、その枠に収まらない方は家に引きこもっているだけで良いのかというと、そうではないでしょう。

 

そこで逆の発想として、点字名刺やこのB型事業所のように、障害者の方が活躍できる場所、仕事をする場所に健常者と呼ばれる人が関わることによって雇用を生み出していこうというのが福祉資本主義です。

 

一般的な資本主義とは少し異なり、福祉の中で障害者の方が活躍できる場所を作り、そこに健常者の方が関わることで雇用をどんどん増やそうという考え方です。これまでの健常者の中に障害者の方が入っていく仕組みでは、どうしても能力や作業効率、スピードが求められてしまい、なかなか活躍できない方もいらっしゃいます。

 

障害があるからこそ強みになる仕事

そうではなく、障害者の方に合わせた仕事、まさに点字名刺などは障害者の方がやる仕事だからこそ価値があります。もちろんできない部分もあるので健常者と言われる人がそこに携わると、健常者の雇用も増えますし、障害者の方の雇用も増えていきます。

 

一般的な資本主義と福祉資本主義が並行していくことで、もっといろいろな活躍の場が生まれるのではないでしょうか。そういった意味では、障害はマイナスではなく、そうした枠組みの中で活躍できる健常者の方もいると思います。つまり、障害がマイナスではなくプラスになるということも考えているのです。

 

一般的な資本主義だけでも、福祉資本主義だけでもなく、両方があることが理想的だと考えています。

 

インタビュー前半を終えて

インタビュー前半では、ココロスキップ様の活動や理念などを中心に伺いました。障害というマイナスに注目をするのではなく、障害があってもできるプラス面に注目するというのは、多くの障害者と関わる人、障害当事者の方にとって大切な考え方だと思いました。

 

後編でも引き続き、ココロスキップ様の活動やこれからなどについて伺っていきます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

後編は、下記からご覧ください。

『点字×名刺』強み生かして繋がる世界|ココロスキップインタビュー

 

就労継続支援B型事業所 ココロスキップ詳細

ホームページ:

就労継続支援B型事業所 ココロスキップ

ココロスキップの点字名刺プロジェクト

 

住所:

〒343-0025 埼玉県越谷市大沢3-10-28 ピアザクラウン1F

 

メール:

info@tenji-meishi.net

電話番号:

048-978-9198

 

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久田 淳吾

発達障害(ADHD・ASD)と吃音を抱える40代男性。今まで発達障害の事は知らずに生きてきたが、友人の話を聞いて自分にも当てはまる事が多すぎる事を実感し、病院にて診断を受けると見事に発達障害との認定を受ける。自分に何ができるかと考えた時、趣味の写真でプロの先生に話を聞く機会があり、吃音が強く出ていたことに気がついた先生が『君は吃音持ちだね。だったら吃音の方の気持ちがわかるはず。それを活かして吃音の方の気持ちがわかるカメラマンになったらどうか』という言葉を思い出し、発達障害者として同じ気持ち、舞台に立てる人間として趣味のカメラ、動画編集技術を活かして情報発信をする事を決意。


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