NPO法人 日本障害者アイデア協会の本郷です。当協会は、バリアフリーアイデアの研究および情報発信を行っている団体です。
今回は、前回に引き続き、当協会が実施している「バリアフリー授業」の様子をレポートします。この授業は、東京都教育委員会が実施している東京オリンピック・パラリンピック教育支援プログラムにも採用されているものです。
バリアフリー授業は、「座学編」と「実践編」とで構成されますが、今回は「実践編」の内容を紹介します。
実践編は、2つの実践授業からなります。
1.バリアフリーグッズを作ってみよう!(工作授業)
2.バリアフリーアイデアを皆で考えよう!(アイデア考案授業)
「バリアフリーの必要性を体験する」「障害者や高齢者の気持ちになって考える。」など、バリアフリー授業において最も重要なところなので、参考にしていただければ幸いです。
※記事の下にバリアフリー授業の解説動画もございます。
お好きなところからお読みください
バリアフリーグッズを作ってみよう!
まずはバリアフリーグッズを実際に作っていく、『工作授業』の風景をお伝えします。
工作開始前
バリアフリーグッズである「タッチペンを工作する」という授業内容に興味津々の子ども達。
早く作りたい!
タッチペンを使ってみたい!
と、授業開始前から私のもとへ集まってきてくれます。
タッチペンの作り方を説明
「大山さんが考案した超軽量タッチペンの話(※)」を子どもたちに紹介した後、タッチペンの作り方を子どもたちに説明します。
ここで障害者の気持ちまで理解できるようにお伝えしていきます。
※このタッチペンのことをご存知ない方は、前回の記事ご参照ください。
子ども達が楽しそうなので、私まで楽しくなります。
タッチペン工作スタート!
ここからは、実際にタッチペンの工作がスタートしていきます。
行程1:シールに絵を描こう
このタッチペンは、ストローに特殊フィルムとシールを貼り付けることで完成します。
折角の工作なので、子ども達には色鉛筆を持参してもらい、シールに絵を描いてもらいます。
このシールをタッチペンの側面に貼るので、世界に一つだけのオリジナルタッチペンになります。
絵を描くだけでも各々の個性がでます。
- すぐに絵を描き終える児童
- なかなか図案が決まらない児童
- 「絵ではなく文字でもいいですか?」「アニメのキャラクターでもいいですか?」などと質問してくる児童
行程2:ストローや特殊フィルムをカットしてシールを貼る
シール・フィルム・ストローの長さを定規で測り、ハサミでカットする。
手際よくカットできる児童がいる一方で、工作に戸惑う児童もいます。
もちろん戸惑う子には、先生方や私がフォローします。
この授業は原則として1クラス単位で行いますが、1学年全員を対象にする場合もあります。
大人数の場合は、体育館や集会室で授業を行います。
これ、すごい熱気なんです!
ついにタッチペン完成!
行程1と行程2を経て、オリジナルのタッチペンが完成します。
すぐに完成させてしまい余った材料で2個目を作る児童、慎重に作業を行い最後になって完成させる児童、ここでも個性が出ます。
教員の方々に向けたバリアフリー研修をすることもあり、ここでもレクリエーション的にタッチペンを工作してもらいます。大人でもけっこう楽しく工作して下さいます(笑)
工作したタッチペンを使ってみる!
いよいよ工作したタッチペンでスマートフォンやタブレットを操作します。
みんな嬉しそうにキャッ!キャッ!いいながら操作します。
すげぇー!
ホントに動いた〜!
なんて声も頻繁に聞こえます。
工作授業の必要性
工作を開始する前に私は、
その時、大山さんはどんな気持ちでこのタッチペンを作ったのか。
それを考えながら工作してください。
と伝えます。
バリアフリーの授業で大事なのは、障害者や高齢者が日常生活で感じている困り事や不便を子どもたちの伝えることです。
しかし、その困り事や不便を、ただ列挙して訴えるだけでは、子どもたちには充分伝わりません。そこには体験や経験が必要です。
この授業は、工作という「楽しい体験」を通して、障害のある人が感じている困り事や不便を知ってもらうことを狙いとしています。
特に、小学校低学年の子どもたちに必要な授業と位置づけています。
バリアフリーアイデアを皆で考えよう!
アイデア考案授業では、子どもたちにテーマを与え、テーマに沿ったアイデアを考えてもらいます。
バリアフリーアイデアのテーマを発表
毎回、8つくらいのテーマを用意します。なので、予め先生方にお願いして児童を8つくらいのグループに分けておいていただきます。
テーマの例や伝え方としては、
・第1グループは「片手が不自由な人が文房具を使う際に困ることを洗い出し、その困り事を解決するアイデアを考えて下さい。」と、
・第2グループは「目が不自由な人が着替えをする際に困ることを洗い出し、その困り事を解決するアイデアを考えて下さい。」などと伝えます。
(この他にも多数のテーマがあります。詳細は当協会のHPをご覧ください。)
いきなりアイデアを考えるのは難しいので、まずは「困り事」を洗い出し、その「困り事」を解決するアイデアを考えてもらいます。
皆でアイデアを考案する(グループ討論の開始)
各々アイデア討論を開始します。
和気あいあいと楽しそうに話し合いを進めるグループ、言い争いをしながら討論をするグループ。
ここにも個性が出ます。
- 目が不自由な人の身になって文房具を使ってみる児童
- 片手が不自由な人の身になって着替えをしてみる児童
「こんなアイデアなんだよ。」
友達にアイデアの内容が伝わるよう、アイデアの実演をしています。
この授業も原則として1クラス単位で行いますが、大人数のときは、体育館などで授業を実施することもあります。
各グループに各1枚、アイデアシートを配布し、ここに思いついたアイデアを書き出していきます。
アイデアが溢れ、すぐにシートが一杯になり、次々に追加のシートを取りに来るグループもあります。
それとは逆に、なかなかアイデアが出ず苦戦して、1枚のシートに書くのがやっとのグループもあります。
バリアフリーのアイデア発表
アイデアが出揃ったら、グループ毎に全員に前に出てきてもらい、考えたアイデアを発表してもらいます。
堂々と大きな声でアイデアをプレゼンするグループもあれば、小さな声でボソボソと発表するグループもあります。
講師によるフォローとコメント
アイデアを発表するのは意外と難しいものです。
子どもたちが考えたアイデアの内容がよく分からないことも沢山あります。
講師である私は、子ども達が考えたアイデアが「どのようなアイデアなのか」を1つ1つ拾い上げるような感覚で聞くよう心がけています。
各グループが発表したアイデアに対し、私がその都度コメントします。
ここが講師の腕の見せどころ。子ども達が考えたアイデアに関するバリアフリー事情や改良アイデアの提案などを行います。
アイデア考案授業の必要性
「障害者の身になって考える。」
子どもの頃から健常者と障害者は、別々の場所・環境で学び育つからです。
そして、そのような環境が、社会問題に対して無関心な大人を作ります。
一方、一度でもこれを経験した人は、
- この商品やサービスは障害者や高齢者にとって不便ではないか?
- もっと使いやすく便利に出来るのではないか?
そう考えるようになり、その経験が助け合いの精神や社会に対する関心を育みます。
健常者と障害者とが別々に学び育つ現在の教育制度において、子ども達には「障害者の身になって考える体験」が必要と考え、この授業を実施しています。
バリアフリー授業を受けた子どもたちの感想
最後に、バリアフリー授業を受けた子どもたちから貰った感想文の一部を掲載します。
障害者のリアルな体験談をお伝えし、障害者の気持ちを理解してもらう。
そして、どのようなバリアフリーアイデアがあったら便利になるのかを考えて、実際に作ってもらうことをしております。
バリアフリー授業のリポートは以上です。
★バリアフリー授業シリーズ
1:学校教育でバリアフリー授業!アイデアを考えてグッズを作ってみよう!
2:バリアフリーがなぜ必要なのか?授業で学ぶ「当事者意識」とは!
3:障害者の身になって考えことの大切さをバリアフリー授業で学ぶ
◆参考リンク
・詳細は、NPO法人 日本障害者アイデア協会HP「バリアフリー授業紹介ページ」をご覧ください。
・バリアフリー授業の様子を私が動画でも解説していますので、以下も参考にして下さい。
バリアフリー授業動画解説(前編)
バリアフリー授業動画解説(後編)
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