NPO法人 日本障害者アイデア協会の本郷です。当協会は、バリアフリーアイデアの研究および情報発信を行っている団体です。
今回は、前回に引き続き当協会が都内各所で実施している東京オリンピック・パラリンピック教育支援プログラムにも採用された「バリアフリー授業」の様子をレポートします。
バリアフリー授業は、「座学」と「実践」とで構成されますが、今回は「座学」の内容を紹介します。
この座学では、「障害」や「バリアフリー」を知る上で大切な
- 障害の種類
- みんな同じということ
- バリアフリーは他人事ではない
- 諦めない心とアイデアの大切さ
の4つことを伝えます。
具体例や多くの絵や写真を多用して、バリアフリーの大切さを学べるよう配慮した授業になっていますので、参考にして頂ければ幸いです。
前回のバリアフリー授業でアイデアを考える概要をまだ見ていないという方は、こちらからご覧いただけます。
※記事の下にバリアフリー授業の解説動画もございます。
お好きなところからお読みください
バリアフリー授業では障害の種類を知るところから
バリアフリー授業の座学でまず最初にお伝えすることは、「障害の種類」についてです。
最近では「バリアフリー」や「障害」等に対する社会的関心が高まり、子供たちも、それらについての知識をある程度持っています。
しかし、その知識は、「車椅子を使っている人」や「視覚に障害がある人」など、障害を外見で判断できる場合に偏っているようです。
なお、これは子供たちに限らず、私たち大人にも言えることで、スロープと点字があればバリアフリーは充分と考えている大人が相当数います。
特に、内臓障害・知的障害・発達障害など「外見だけでは判断がつかない障害」もあることを伝えます。
障害者は特別な存在ではない
バリアフリー授業で2つ目に教えることは、障害者と健常者とを特別に区別する必要はない。「みんな同じなのだ」という大切なことを伝えます。
障害者の定義には様々ありますが、授業では子供たちに分かりやすくするため、
〇〇ができない人、または、〇〇が苦手な人
と定義します。
例えば、車椅子ユーザーは「歩くことができない人、或いは、歩くことが苦手な人」、聴覚障害の人は「聞くことができない人、或いは、聞くことが苦手な人」のように紹介します。
誰だって得意なこと・苦手なことがある
そして、子供たちに下の絵をみせます。
これは牛の絵なのですが、左は「絵が苦手な人」が描いたもの、右が「絵が上手な人」が描いたものです。
更に、運動会の徒競走で速く走ることが出来る人、走ることが苦手な人の例なども紹介します。
このような具体例を幾つか示した上で、以下を伝えます。
誰にだって出来ないことがある。
誰にだって苦手なことがある。
つまり、障害者には「できないこと」「苦手なこと」があるけど、健常者にも同じように「できないこと」「苦手なこと」がたくさんある。
誰にだって「できないこと」や「苦手なこと」がある。
だから、
そのことを子供たちに話し、「できないこと」「苦手なこと」があれば、皆で助け合うべきことを伝えます。
牛の絵を紹介する場面では、子供たちからドッと笑い声が上がりますが、「みんな同じ」というメッセージは、子供たちにしっかり伝わっていると感じます。
バリアフリーは他人事ではない
バリアフリー授業で3つ目に教えることは、バリアフリーは決して他人事ではないということ。
ここではバリアフリーの役割、つまり
ということを伝え、バリアフリーが決して他人事ではないことを子供たちに理解してもらいます。
授業では、これを伝えるために「ライターの開発秘話」を話します。
ライター開発の秘話
- 昔はライターなど無く、火をおこすにはマッチが必要だった。
- しかし、マッチを擦るには両手が必要で、片手が不自由な人はマッチを擦ることが難しかった。
- そこで、片手で火をおこすことができるライターが開発され、片手が不自由な人の不便は解消された。
- しかし、片手で火をおこすことができるライターは、両手を自由に使える健常者にも便利だったので、ライターは全世界に広がった。
- 当初、ライターは障害者の暮らしを支えるバリアフリーグッズだったが、皆の暮らしも便利にした。
この話をすると、子供たちだけでなく、先生方も「なるほど」という表情をして下さいます。
このライターの話は当協会の鉄板ネタで、バリアフリーの役割や大切さを端的に伝えることができる重要なコンテンツになっています。
バリアフリーには諦めない心とアイデアが重要
バリアフリー授業で最後にお伝えしていることは、「諦めない心とアイデアの大切さ」を理解してもらうため「自ら様々なアイデアを考えて困難を克服した”凄い人”」の話をします。
下の写真(右)は、「日に日に筋力が衰えていく病(SMAという難病)」を抱える大山さんです(左は筆者)。
大山さんはコンピュータを使い、データ入力の仕事をしていました。
しかし、ある日、大山さんにピンチが訪れます。大山さんの筋力は日に日に衰え、ついにキーボードを押すチカラも無くなってしまったのです。
しかし、そんなことでは諦めない大山さん。
試行錯誤しながら「なんとかキーボードを押すことはできないか?」と考えます。
そして、ヒラメキました。
「そうだ!棒を使おう!」
大山さんは、細い棒(角材)の一端を右の肩に乗せ、更に角材のもう一方の端をキーボードの上に乗せ、手で棒の中心を引き下げることによりキーボードを押すことに成功しました。
これでデータ入力の仕事を続けることができるようになりました。
新たなピンチがやってくる
しかし、大山さんに2つ目のピンチが訪れます。大山さんの筋力は更に衰えてしまい、棒を引き下げるチカラも無くなってしまったのです。
絶望した大山さんでしたが、それでも大山さんは諦めません。
「なんとかならないか?」と考えます。そして、またヒラメキました。
そうだ!スマートフォンを使おう!
スマートフォンなら触れるだけで情報を入力できる。キーボードを押す必要はない。だからスマートフォンを使おうとヒラメイタのです。
大山さんの肘や手は、筋肉の萎縮により鈎上に曲がっているため指でスマートフォンに直接タッチすることができません。そこで、大山さんはタッチペンを入手して、そのタッチペンでデータを入力しようとしました。
障害がさらに重くなり、再びピンチに
ところが、大山さんに3つ目のピンチが訪れます。
市販のタッチペンは重たくて持てない!
キーボードを押すことができないほど筋力が衰えた大山さんにとって、市販のタッチペンは重すぎたのです。これでデータ入力は無理です。
しかし、それでも諦めない大山さん。
「それなら自分でタッチペンを作ってしまおう!」とまたまた試行錯誤します。
そして、完成したのがこの「超軽量タッチペン」です。
ストローに特殊フィルムを貼り合わせただけなので非常に軽量。構造はシンプルですが、大山さんがアレコレと試行錯誤した汗と努力の結晶です!
大山さんはこのタッチペンを使って今でもデータ入力の仕事を続けています。
バリアフリーのエピソードを聞いた子供たちの反応
子供たちはこの話を意外なくらいしっかりと聞いて受け止めてくれます。
大山さんの諦めない心が、子供たちの気持ちを強く惹き付けていると感じます。
そして、次に下の動画を観てもらいます。
この動画に映っている人は、両手が使えず寝たきりの女性です。
両手が使えないので、スマートフォンを1人で操作することができなかったのですが、大山さんのタッチペンを口に咥えることにより操作が可能になり、ツムツムというゲームを楽しむまでになりました。
この動画を児童に観せると「オオォォォーー!」と教室が沸きます。
子供達は興奮しながら「すごい!」と感心してくれます。
そこで私がひと言。
どうか簡単に諦めないでたくさんのアイデアを考えてください。
と伝えてこの話を終えます。
バリアフリー授業〜座学編まとめ
このような感じで、座学では4つのことを子供たちに学んでもらい、「実践」の授業に移ります。
最後にこの4つをまとめましょう。
座学のバリアフリー授業
- 障害の種類
- みんな同じということ
- バリアフリーは他人事ではない
- 諦めない心とアイデアの大切さ
実践の授業は2種類あります。
1つ目が、このタッチペンを実際に子供たちに作ってもらう「バリアフリーグッズを作ってみよう!」です。
2つ目は、子供たちにバリアフリーアイデアを考えてもらう「バリアフリーアイデアを皆で考えよう!」です。
これら「実践」の授業については次回の記事で紹介します。(つづく)
バリアフリー授業シリーズ
1:学校教育でバリアフリー授業!アイデアを考えてグッズを作ってみよう!
2:バリアフリーがなぜ必要なのか?授業で学ぶ「当事者意識」とは!
3:障害者の気持ちになって考えることの大切さをバリアフリー授業で学ぶ
◆参考リンク
詳細は、NPO法人 日本障害者アイデア協会HP「バリアフリー授業紹介ページ」をご覧ください。
・バリアフリー授業の様子を私が動画でも解説していますので、以下も参考にして下さい。
バリアフリー授業動画解説(前編)
バリアフリー授業動画解説(後編)
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