そう話すと、元気いっぱいの高校生たちは驚きの反応を示してくれました。
出前授業で学校を訪れ、講話させていただいたときのことです。
出前授業。これは今私が力を入れて取り組んでいることの1つです。
生まれたときから目が見えないというのはどんな感じなのか。
その状態で普段どんなふうに生活しているのか。
これまでどんな経験をしてきたのか。
いつも使っている便利グッズなどをお見せしながら、そういったお話をしています。
「なるほど、聞いてよかった!」と感激してもらえるかどうかはわからない。
それでも生徒さんにとって少しでも新鮮な経験になれば有意義と言えるはず。
そんな思いから、長年この活動を続けています。
ということでこの記事では、障害に関する出前授業の意義、それを行ってきて感じることなどをお伝えします。
お好きなところからお読みください
私が出前授業に関わり始めたきっかけ
学校などで自分の生活についてお伝えする。そういった活動に初めて関わったのは、10年ほど前のこと。
知人に頼まれたのがきっかけでした。
そう思っていた私にとって、この依頼はとても嬉しいものでした。
とはいえ最初は引き受けるのをためらいました。自分に務まるのか、それが大きな心配の種だったからです。
私は極度の人見知り。人前でうまく話せる自信など全くありません。
せっかく声をかけてもらったのだし、ぜひお受けしたいけれど、本当に大丈夫なのか。迷惑かけないだろうかと悩みました。
それでも結局、「しっかり準備をすれば何とかなるはず」と考え、やってみることにしたのでした。
あのときは若かったですし、とにかくやってみよう精神で動いていたところもあったんですね、きっと。
訪問した先の小学校で私を待っていたもの
初めて訪問したのは小学校。
事前に学校から質問を送っていただいていて、それにお答えする形でお話をしました。
私の仕事はそれだけだったのですが、もちろん緊張感は相当なもの。
始まってみると何とか話せましたが、こんな感じで本当にいいのかと不安になるばかりでした。
生徒さんたちと自由に触れ合える機会もあり、そのときは数人が「もし見えるようになったら何が見たい?」「プールではどうやって泳いでるの?」などと質問を投げかけてくれ、とても和やかな雰囲気になりました。
愛用している点字タイプライターを披露したときなどはみんなに取り囲まれ、アイドルにでもなったような気分。
やりがいと緊張
こんなに興味を持ってもらえるのかと感激し、やりがいを感じました。
その後何度か経験を積んで、ある程度余裕が出てきてからは、積極的にこの活動に取り組むようになりました。
極度の人見知りなんて嘘みたいに。
と言いたいところですが、緊張するのは今でも変わりません。
前日辺りから落ち着かない状態になってしまいます。
自分なりに工夫して取り組んでいるつもりですが、こればっかりはどうにもならないのでしょうか……。
出前授業でお伝えすること
出前授業の中心となる講話。
その内容はテーマや長さによって変わってきますが、多くの場合私の目の状態や仕事のこと、家事のやり方、点字や白杖についてなど、日常のあれこれをお伝えするようにしています。
生活の一部を実際に見てもらおうと、さまざまなグッズを紹介することも重視しています。
「LINEはこんなふうにして使うんです。『ニコニコ笑っている顔』とか、『白杖を持つ女性』とか、絵文字も詳しく説明してくれるんですよ!私も絵文字を結構活用しています」と、読み上げ音声を流して説明するのです。
そうすると「へえ、絵文字ってそんなふうに読み上げるんだ!」と驚きの声が上がります。
「皆さんが使ってるのと同じスマホを、私はこんなやり方で操作してるんです」と、「同じ」であることをアピールできる。これは素晴らしいことだなと日々感じます。
スマホのメリットや役立つ機能に関しては、以前の記事でもご紹介させていただきました。
▼参考▼
【視覚障害者】全盲の私が感じるスマホのメリットと役立つiPhoneアプリ3選!
私の講話の柱
講話の最後には、私の素直な気持ちをメッセージとしてお伝えしています。
最近よくお伝えしているのは、「私は皆さんと、友達になれたらいいなと思っているんです」ということです。
「障害者=助けを必要とする人」というイメージを持たれがちですがそうではなく、私たち障害者も困っている人がいれば助けたい。
もちろん目の前にいるみんなとも助け合いたい。
そう、友達のような関係性を築いて一緒に楽しく過ごしたい。
そんな思いを表現しています。
「目の不自由な人が困っていたら助けたい」と言ってもらえるのは嬉しいこと。
私もこれまで見知らぬ方々にたくさん助けられてきましたし、そのことには感謝しています。
ただ、「助けなきゃ」という気持ちが大きくなりすぎているのではないかと感じられる部分も正直あり、どうにかしたいと考えてこういったお話をするようになりました。
助ける・助けないということは抜きにして、まずはお互い変に拒絶したり気を使ったりせず、気軽に話ができますように。私たちの間にどうしても生まれてしまいがちな見えない壁を取り除けますように。
その願いが、私の講話の柱となっています。
出前授業の意義
この活動の意義は非常に大きいと私は思っています。
「世界にはいろいろな人がいる」という大切なことは、教科書などの内容だけでは実感できないからです。
「目の見えない人がいる」「目の見えない人はこうやって生活している」という知識を得るのはそれほど難しいことではありません。
調べればたくさんの情報が得られます。
その一方で、目の見えない人ひとりひとりがどんな思いを抱いて日々を過ごしているのかは簡単にはわからない。
それぞれの話を実際に聞いてみなければ感じ取れないものがたくさんあるのです。
また同じ視覚障害者で、似たような経験をしてきた人同士でも、話す内容には違いがあります。
そのため私にしか語れない私の経験を伝えて、「こんな選択肢もあるんだ」「こんな考え方もあるんだ」と知ってもらうことは非常に重要だと感じています。
人見知りの抜けない今も、私がこの活動に参加し続けている理由。それはここにあるのです。
出前授業で大切にしていること
難しいのは、「聞いてくださっている生徒さんがみんな視覚障害に興味を持っているとは限らない」というところ。
ある人は「そんな話、別に聞きたくないけど」と思っているかもしれない。
またある人はこっそり睡魔と闘っているかもしれない。今日の晩御飯のことなど考えながらぼんやりしている人だっているかもしれないわけです。
思い返せば私自身も学校で聞く話すべてに興味を持っていたわけではないですし、仕方のないことではあります。
私はそこを意識してお話ししています。
「へえ、障害があっても結婚できるのか」とか、「そうか、普段の生活は意外と自分たちと変わらないんだ」とか、「なるほど、明るいとか暗いっていうのがどういうことかわからないから真っ暗とは感じないのか」とか、1つでも強く印象に残るようなことがあれば嬉しい限りです。
またその後何かの機会に、「ああ、そういえば何か変なこと言ってた人いたな」でもいいから、私の話が思い出されるならこんな素晴らしいことはありません。
そして障害のある方などと接するとき、その記憶が少しでも役に立てば最高です。
みんなが楽しめるように講話をする
そこで私が心がけているのは、みんなが楽しめるような講話にすること。
何かを学ぶというより、面白いラジオ番組でも聞いているような気分になってもらえたらと思うんです。
実際にラジオから流れてくる面白いトークを参考にしつつ、内容を組み立てています。
と言ってもなかなかうまくいきませんね。「ここ笑ってほしいんだけどな」というところでも全然盛り上がらないことはしばしば。
うーん、まだまだですね、私。
生徒さんの感想から改めて考えたこと
クラスによって、学校によって、授業を行う場の雰囲気はさまざまです。
静かに耳を傾けてくれる生徒さんもいらっしゃれば、投げかけた質問に対して元気よく答えを返してくれる生徒さんもいらっしゃいます。
どちらの場合も、短い時間ですがコミュニケーションを取るのが楽しい。
うまく盛り上がったときにはガッツポーズです。
講演の後には感想文を書いていただいているのですが、これは私にとっても大きな学びとなります。
以前それを読んでいて、一瞬「ん?」と感じたことがありました。
質問の欄にこう書かれていたのです。
「楽しいですか?」
なるほど。
書かれたご本人にそのつもりはなかったのかもしれませんが、これは随分奥の深い質問。簡単には回答できない。
私はこの答えをじっくり考えることにしました。
答えは…。
私はいつも「外を歩くときはやっぱり困るんですよね」「不便なこともまだまだあるんですよね」といった話をしているので、それを聞いて「相当大変なのだろうな」と想像されるのかもしれません。
障害があると、つらいことがいろいろある。
その状況で楽しく過ごすことなんてできるものなのか。そんな疑問が生まれるのは当然です。
私も、自分自身が障害者でなければそう考えていたことでしょう。
ただ、優しい仲間や便利なものに囲まれ、楽しいとも感じている。
困っているのは確かですが、楽しい気持ちも本物です。
では自分の中で、どっちの気持ちが勝っているのか。
今のところ、感覚として「楽しい」のほうが大きい気がします。
というわけで、「楽しいですか」に対する答えは、「はい」となる。これが私の素直な気持ちです。
出前授業がお互いの気付きに
さまざまな背景を持った人と人とが出会い、お互いのことを深く知る。
これってとても大切なことですよね。皆さんもそう思いませんか?
出前授業によって、何かをすぐに大きく変えるのは難しいかもしれません。
それでも続けていけば、何かがよりよくなっていく。私はそう信じています。
私自身も、生徒さんたちと接することで成長できているはずです。
どんどん歳を重ね、私と生徒さんたちとの年齢差は広がるばかりで、感覚の違いなども大きくなっている気がする日々。
それでも、だからこそお互いに新たな気づきが得られるんですよね。
というわけで今後も、機会をいただける限りこういった活動に取り組んでいきたいと思っています。
ここまでお読みいただきありがとうございました。


最新記事 by 山田菜深子 (全て見る)
- 全盲の私が感じる「見えない壁」壊すためにできることは?盲学校と大学で感じたリアル体験 - 2023年5月27日
- 視覚障害者向け歩行ナビゲーションシステム『あしらせ』を使ってみた当事者の感想と思いを語る - 2023年3月31日
- 【運動不足を解消】全盲の私が実際に通って感じた障害者スポーツセンターの魅力とは? - 2023年2月17日
この記事へのコメントはありません。