点字図書の作成や貸出、視覚障害者へのサポート業務などを行っている日本点字図書館の訪問記、第3回目となります。
今回の記事では、点字図書の貸し出しに関する事例や、点字図書館の抱える問題などについてお伝えしていきます。
視覚障害者にとって大事な点字図書ですが、保管の難しさだけでなくさまざまな問題を抱えています。
点字図書の今の状況を紹介していきますので、ぜひ最後までご覧ください。
録音図書の貸し出し方法
録音図書の中身はどういう物か。そして実際に貸し出す時の流れを説明してもらいます。
こちらが実際の録音図書の郵送ケースです。聞き終わったら、宛名カードを裏返してポストにいれていただくだけで返却完了です。
カードには切り欠きがあり、切り欠きの位置(届いた時は右上、返却の時は左上)でカードの裏表を確認できますし、点字でも「にってん」と打ってあります。
点字表記だけではなく、そのような細かい配慮もあるのですね。
ケースの蓋の部分には点字で書名・著者名・収録時間などを表示しています。
CDの盤面に記載している情報と同じです。また、図書の冒頭にも音声で書名・著者名を入れています。
収録時間16時間ですか、収録の時にもお聞かせいただきましたが、収録作業はそれの倍以上かかるとなると本当にかなりの作業になりますね。
図書の内容にもよりますが、収録時間の3倍、それ以上はかかっています。
視覚障害者の見え方
次の場所に案内してもらう途中、廊下に掲示してあった視覚障害者の見え方について説明していただきました。
こちらは見えにくさの一例です。視覚障害は視力と視野の障害があり、皆さんそれぞれ状況が異なりますが、このような状態が組み合わさっていますので、お一人おひとり見えにくさは様々です。
視覚障害者に対し、目が不自由でない方を晴眼者(せいがんしゃ)と呼びますが、晴眼者が見ている状況をこのようなものだとします。
それに対し、あくまで1例ですが、例えば全体がぼやっとして、見えにくい方もいます。
視覚障害者の見え方の事例
私も視力が悪いので(視力0.04)。こちらはなんとなくイメージが沸きます。
そうですね。コンタクトや眼鏡を外した時に近いかもしれません。ただ視覚障害者の場合、眼鏡やコンタクトで矯正しても、これ以上よく見えない、という状況です。
次の写真は目の中に光が多く入り、まぶしさを強く感じる場合です。
反対に全体が暗く見えにくい方の場合はこのような感じです。
この写真の通り、全体的に視野が暗くなっていますが、その中でも点字ブロックの黄色は見やすくなっています。
こうやって見ると、あらためて点字ブロックの重要性がわかります。
次に視野に関してです。右側の視野が欠けている例ですが、右側から自転車が来た場合に、近くを通るまでわかりにくくなります。
たしかに、これでは気づかずに事故なども起こりえますね。
このように、細い筒から覗くような視野の狭い方もいらっしゃいます。
それぞれ見えにくさ違っていて、またいろいろな状況が組み合わさるので、「見えにくさ」は千差万別です。
実際視覚障害と一口にいっても、これだけの状況があるので本当に一概に対策を立てるのもなかなか難しいですね。
私たちも、こういう状況の方がいらっしゃることを認識するのが大事だと感じます。
点字図書について
膨大な分量の点字図書
再び場所を移動し、点字図書の保管場に案内していただきました。保管場にはぎっしりとバインダー形式の点字図書が収められており、しっかりと管理がされています。
こちらは地下1階の点字図書の書庫です。点字図書の書庫は地下1階・2階にありますが、それ以外にも置ききれない図書を各階でも保管しています。
ここだけ見ても本当にかなりの数の点字図書の蔵書数ですね。
1冊の文庫本を点字図書にすると、バインダーで5冊にも6冊にもなります。点字図書専用の郵袋でお送りする際、どうしても1つに入らないので、袋(箱)が2、3個になってしまします。
手元に何の図書が届いたのか、何巻目なのかがすぐわかるよう、点字図書の背表紙の脇には「書名・巻数、全巻数」を記した点字シールを貼っています。
普通の文庫本であれば身軽に持ち運べますが、やはり点字図書ですとかなりの量になってしまいますね。どうしても一冊一冊のボリュームは増えてしまいますか。
例えば活字の文章の場合は、指定の枚数に収めたい時に、文字のフォントを変えるとか、余白を調整することができますが、点字ではそういったことが一切できません。
確かに、点字ですとそういう部分での工夫はできないですね。
本の状態確認と作成の制限
貸出頻繁に行われると思いますが、本の破損などのチェックなどはどのようになされているのでしょうか?
返却された図書は書庫に戻す前にすべて確認しています。ページの破れや汚れ、点字の摩耗などを確認します。
ページのチェックも膨大で本当に大変ですね。制作の方もありますし。1年間に点字図書は何タイトルくらい制作しているのですか?
1年間に制作できる点字図書は200タイトル弱、録音図書は400タイトル程です。1年間に出版される書籍は7万5タイトルといわれていますので、その中で当館が制作できるのはごくごくわずかです。
当館だけでなく全国どこの図書館でも制作されていないけれども、その本をお読みになりたい、その本が必要という方がいらっしゃいます。そのような場合、東京在住(在勤・在学)の方に限らせていただきますが、個人の方向けに本を点訳・朗読するサービスも行なっています。
新刊に関しては当館以外の点字図書館さんでも、制作される可能性は非常に高いのですが、例えば出版から何年たってもどこの図書館でも作られていない本もあります。
それでもその本がお読みになりたいというリクエストがあった場合、当館の蔵書として作るか、もしくはその方の個人的な依頼として作る場合があります。東京都にお住まいの方でしたら、その方から原本をいただいて、その方のためだけに点訳するようなサービスも行っております。
人気ある本だけ製作というわけにも行かないのですね。
例えばお仕事上どうしてもその本が必要であるとかですね。どこの点字図書館でも作っていないが、その本から情報を知りたいという方のために、当館で制作を請け負うということをしております。
必要になる本は人によって違いますし、すべてに対応するのはなかなか難しいですね。
ボランティアと費用の問題
点字図書、録音図書の制作ほか、当館は様々のボランティアの方のご協力により成り立っています。職員だけではとても現在の製作数を維持できません。
ボランティアさんの力は本当に大きいですね。現状ボランティアさんの状況はどのような感じなのでしょうか?
昨年度2021年度の実績ですが、点訳ボランティア60名、朗読ボランティア45名の皆様にご協力いただきました。
一時期はともに100名近い方がいらしたのですが、近年減少しており、ボランティアさんの確保も大きな課題です。
ボランティアということになると、やはりお金の問題は出てきますか。
当館からボランティアさんにお支払いできているのは現在交通費のみです。企業などからの依頼で制作したものに関しては、一部謝礼をお支払いする場合もございますが、大半の蔵書制作関しては、費用はお支払いできておりません。
私たち晴眼者が公共図書館を利用するのと同様に、当館の利用は無料です。そのため、どんなに多くの本を作り、貸し出しを行なっても当館の収入には繋がらないのが現状です。
一社会福祉法人の財源だけでは到底賄えませんので、当館事業にご賛同くださる企業・団体・個人の方からご支援受け、事業を継続できております。
日本点字図書館訪問 第3回まとめ
日本点字図書館訪問第3回、図書の状態や視覚障害の方の見え方などについてお話を聞かせていただきました。
視覚障害といっても人それぞれであり、必要とされる事柄も違ってきます。点字図書館が担う役割はとても大きなものだと感じました。
▼日本点字図書館シリーズ▼
視覚障害者に読書環境を|日本点字図書館を訪問記〜第1回〜
視覚障害者への歩行訓練やグッズ紹介で日常生活もサポート|日本点字図書館訪問記〜第2回〜
最後までお読みいただきありがとうございました。
日本点字図書館について
公式HP:日本点字図書館ホームページ
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The following two tabs change content below.発達障害(ADHD・ASD)と吃音を抱える40代男性。今まで発達障害の事は知らずに生きてきたが、友人の話を聞いて自分にも当てはまる事が多すぎる事を実感し、病院にて診断を受けると見事に発達障害との認定を受ける。自分に何ができるかと考えた時、趣味の写真でプロの先生に話を聞く機会があり、吃音が強く出ていたことに気がついた先生が『君は吃音持ちだね。だったら吃音の方の気持ちがわかるはず。それを活かして吃音の方の気持ちがわかるカメラマンになったらどうか』という言葉を思い出し、発達障害者として同じ気持ち、舞台に立てる人間として趣味のカメラ、動画編集技術を活かして情報発信をする事を決意。
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