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障がい者雇用の現場で起きている「働かないのススメ」(連載1回目)

  • 最終更新日:

「支援される側」から「支援する側」へ|積極的障がい者雇用のススメ

 

【連載1回目】「障がい者が企業の戦力的なパートナーになる」というと、驚く方がまだまだ少なくありません。本連載では、福岡で障がい者メンバーとチームを組んでITを活用した仕事を続ける就労継続支援A型事業所「カムラック」を運営する賀村さんの書籍『日本一元気な現場から学ぶ 積極的障がい者雇用のススメ』から、障がい者とのパートナーシップの実践をお伝えします。

障がい者の「もったいない」採用

一般企業の皆さんは、ときによかれと思い障がい者を「お客さま扱い」してしまいます。「障がい者に無理をさせてはいけない」という思いからですが、その配慮が逆に障がい者の方を苦しめてしまうことがあります。

 

本当は企業の戦力として十分に働けるにもかかわらず、その機会に恵まれず苦しんでいる障がい者の方は多くいます。また、戦力として活躍できる方を見過ごしている企業は大変もったいないことをしているといっても過言ではありません。

 

企業が障がい者のことを知らない、そして、障がい者が企業のことを知らない。それが、現在の日本の障がい者雇用問題の根っこ。それを紐解き、歩み寄ることが課題の解決につながります。

 

一般企業には障がい者の「法定雇用率2.0%(50人以上の会社では1人以上の障がい者を雇用すること)」が求められています。しかし、法定雇用率を守るためだけに、障がい者を雇うだなんてもったいない。

 

ましてや、法定雇用率に満たない場合に支払う1人あたり月額5万円の納付をしてまで「雇用しない」と決断してしまうのは、機会損失もよいところです。覚悟を持って、障がい者を成長させていけば、会社にとって大きなメリットとなるはずです。

 

そこで、今回は障がい者雇用の実態をお知らせする意味から、「障がい者支援施設の実態」についてお話します。

 

 

障がい者の働く場の選択肢の1つ「移行支援」「A型」「B型」とは?

「障害者総合支援法」では、障がい者の就労について規定されています。「働きたい」という思いを持った障がい者には、「一般企業で働く」か、「障がい者就労支援施設で働く」という道が用意されています。

 

もちろん、そうした道以外に在宅で働いたり、家業の手伝いをしたりというケースもあるでしょう。

 

障がい者の就労を支援する施設は大きく分けて、「就労移行支援事業」、「就労継続支援A型事業」、「就労継続支援B型事業」の3種類があります。

 


障がい者総合支援法における就労系障害福祉サービス

●就労移行支援事業

一般就労を目指して、知識・能力を養い、本人の適正に見合った職場への就労を目指す事業です。技能習得のための学校のような位置付けなので、障がい者へ給料は支払われません。

●就労継続支援A型事業

現段階では企業での一般就労が難しい障がい者に向けて、雇用契約をする事業所です。私の働く、カムラックはこれにあたります。生産活動を経験することにより、知識や技能を高めていくことができる事業所です。一般就労に必要な知識や能力を養い、そちらへの移行を目指していきます。

●就労継続支援B型事業

障がいによる能力から簡易な作業を行う事業所です。短時間利用から、生活リズムを安定させることなどが求められます。生産活動を通じて、一般就労を目指していきます。「継続支援」の事業所のなかでも、就労継続支援A型事業所は雇用するのに対して、就労継続支援B型事業所は非雇用です。

 

求められるのは、障がい者の方が自身に合った事業所に入れるようなサポートです。

しかし、現在の日本においては、どのレベルの障がいの方がどの施設に入るかという基準は設けられていません。障がい者やその保護者が選択することとなっています。しかし、そのマッチングはうまくいっているとはいい難いです。

 

「働かないのススメ」が成立してしまう

私が運営するカムラックは、就労継続支援A型事業の事業所です。一般企業と同様に、雇用している障がい者(カムラックでは「メンバー」と呼んでいます)の労働により、利益をあげていくことで運営されています。

 

しかし、実はカムラックのように利益を生み出し経営できている事業所は、必ずしも多くはないのです。「障がい者支援」を念頭に置くあまり、売上をあげるという経営意識が欠けているケースをよく目にします。では、どのように事業所を経営していけるのかというと、国からの給付金で運営しているのです。

 

就労継続支援A型事業は、サービス管理責任者や生活支援員といった福祉の専門員を雇用しなければなりません。さらに、技術指導を行う職業指導員の配置も必須です。実際に障がい者に働いてもらわなければいけないわけですから、事務所を置くテナント料やカムラックでいえばパソコンなどの設備費用もかかってきます。また、営業に関わる販管費も必要になりますね。

 

こうした事業所運営のための予算として、障がい者1人に対して1日約6000円の給付金が出されています。20人雇用すれば、月の稼働日が22日だとすると、休む人がいることを考慮しても月額約250万円になります。
給付金は労働時間に比例せず一律で支給されるため、障がい者が事業所に1分出所しただけでも、約6000円が支給されるのです。そのため、なかには、給付金目当てに、障がい者の人数だけを抱えこみ、就労の実態はないというような事業所も出てきます(最近では、こういった行いを予防する行政施策も始まっていますが)。

 

一方で、週30時間以上の労働(正社員の概ね3/4以上の労働)となると、社会保険の適用が必要となります(2016年10月より一定規模以上の会社では週20時間から社会保険適用の対象となります)。そのため、給付金のみで運営している就労継続支援A型事業所には、1日の就労時間を4時間としているところも多く、長時間労働ができない状況になっています。

カムラックのように1日6~8時間働いてもらい、障がい者に社会保険を支払う事業所は、実際のところは数少ないといえるでしょう。

 

障がい者支援制度を利用したビジネスモデル

障がい者の働く力や意欲を奪っている現実

障がい者を囲い込んだら、お金が入る仕組み。これは、障がい者就労支援施設の停滞を招いているともいえなくありません。

なぜならば、営業をして新たな仕事を取ってこようという発想になりませんし、メンバーを成長させる必要もなくなるからです。障がい者個々人の能力や適性やビジョンなどを考えずに、事業所に入居させ囲い込んでしまえば収益モデルができるのです。

 

もちろん、給付金を有効に使用している事業所もありますから、すべての給付金が無駄なわけではありません。しかし、うまく機能しているとはいい難い状況となっているのは確かでしょう。

 

こうした事業所で過ごした障がい者の方のなかには、働く意欲を失ってしまったり、支援されるのが当たり前になってしまったりする方も少なくありません。そうなると、より一般就労が難しくなることもあるでしょう。

 

障がい者就労支援施設を設置することで、納税者を増やすという国の目論見はあまりうまくいかなかったと総括される方向にあります。

では、どうするのか?次回以降、現場でこそできる障がい者雇用促進の方法についてお話させていただきます。

 

(次回に続く)

 

本連載シリーズの記事一覧はこちら。

「支援される側」から「支援する側」へ|積極的障がい者雇用のススメ

 

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提供:障がい者雇用の現場で起きている「働かないのススメ」(biblion)



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コメント

    • 鶴田雅英
    • 2021/11/21

    ここに書かれているA型の説明は、過去のものです。
    いまは、そのような仕組みになっていません。

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