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障害者雇用の難しさを生む「情報不足」。福祉職員に求められるスキルセットの課題とは?(連載3回目)

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ふくしごと〜福祉で働く人のための、障害者支援の現場から伝えたい未来を考える力

 

(連載第3回)「障害者福祉の仕事を通じて福祉業界の『常識』を変えたい。」本連載では、福岡で障害者メンバーとチームを組んでITを活用した仕事を続ける就労継続支援A型事業所「カムラック」でサービス管理責任者統括として働く冨塚さんが、就労支援現場での取り組みをまとめた書籍『ふくしごと』から、福祉の未来を作るための実践をお伝えします。本連載は6回を予定しています。ご興味いただけた方は記事最後に紹介している書籍『ふくしごと』もぜひご覧ください。

 

本連載は書籍『ふくしごと』(著:冨塚 康成/2019年10月発行)の一部を抜粋・再編集し収録しています。

 

障害者福祉に携わるまで

私は大学卒業後すぐに社会福祉の仕事に就いたのではありません。

当時、大学でビジネスソフトの講師をしていた私は、高額な給与を期待する事が難しいのも感じ始めていて、お金よりも感謝を直に聞ける仕事を探すようになっていました。

 

その流れで精神障害者施設のパソコン講師もしていました。そこでの利用者との触れ合いで、福祉の仕事に関心を持つようになりました。たまたま母が特別養護老人ホームの寮母長をしていた関係で、関連のグループホームに入社し、社会福祉の道に入ることになったのです。

 

ですが入社後、一週間も経たずに後悔していました。利用者とのことで辞めようと思ったのではありません。福祉業界のリアルとの差に驚くとともに、無力感に包まれたのです。

 

朝から夜まで自由とは程遠い生活。食事一つをとっても、自分では選べません。夕方には施錠され、個室に追いやられます。安全確保のためとはいえ、高齢者もまた自立が目標であるはずなのに、意図が見えないお遊戯の毎日。結果利用者が意欲的に体を動かす機会もあまりない中で、身体機能・認知機能が右下がりに落ちていくのです。

 

その姿を見ながら虚しさがこみ上げる毎日でした。
辞めないためには自分で環境を変えないといけない、と思いました。

 

もともと勉強が好きなのもありますが、自分の意見を言うためにはそれなりの地位に就かなくては物も言えないと感じ、色々な福祉の職種を経験していく中で資格の取得に励み、相談支援のできる社会福祉主事の資格を取得しました。

 

 

障害者雇用の難しさを生む「情報不足」

書類作成の中で感じたのは福祉の書類についての違和感でした。高齢者福祉も本来そうですが、特に障害者就労支援というサービスは、お客様でもある利用者を訓練するために情報分析が必須だと思うのですが、作られた書類を読み込んでも得られる情報がほとんどありませんでした。

 

福祉サービスには利用者さんの個人ファイルというのがあります。

 

個人ファイルの中でデータが更新されていくのは大まかに以下の4つとなります。

 

・基本としてフェイスシート(基本情報)
・アセスメントシート(支援計画のための情報分析)
・支援計画
・モニタリング(支援計画の現状把握)

 

障害者支援が高齢者介護と大きく違うのは傷病の種類が多いことです。

障害の分類は大きく身体・知的・精神の3つに分かれます。もともとは身体だけでしたが、後に知的が追加され、長く福祉サービスが運営されていましたが、10年ほど前に精神障害も加えられ、現在の三障害の枠組みができ上がりました。

 

その経緯もあり、福岡市では精神障害だけが障害者福祉課ではなく、健康課が担当しているという現状があります。

 

雑誌やテレビなどで最近取りざたされる発達障害に至っては、現行の障害者総合支援法が施行されるまで、難病とともに障害福祉サービスには入っていませんでした。結果、医療も含めデータ不足が否めないように感じます。障害の詳細が幅広いだけではなく、発達障害は特に対応方法が確立していないように思え、支援の根幹に不安を禁じえません。

 

「個別」支援計画をもとに支援していくわけですから、個々の生い立ちや性格、スキル等同じ「障害者」という枠組みであってもそれぞれ違います。ですから、アセスメントをとることで支援するための情報を分析していくわけですが、現場の生活支援員は1人です。

そこで、事業所内外で勉強会など研修を行うのですが、一般企業の営業会議と比較すれば内容が軽すぎる気がします。また、法律上の枠組みでは別々ですが、身体障害者も精神的に病むことは当然あることではあります。

 

福祉の職員に関する課題

障害者サービスといっても、大きく介護支援サービスと訓練給付サービスに分かれます。

福祉の職員は、高齢者施設で介護職をやってきている人が多いので介護支援はそれなりにできると思われますが、訓練給付・特に就労支援となった時には、福祉雇用であったとしても多岐に亘り現場で支援するわけではないので、「目次」部分の把握だけでもいいと思っても、全く専門的な理解ができていないのでは適切な支援は困難です。

 

ましてや、経歴のほとんどが福祉の仕事という方は福祉に関してはベテランですが、一般の会社での経験がないことで意識のずれが生じてしまいがちです。私は企業勤めを10年ほどしていた経験もあるので、企業の考えがわかる方だとは思いますが、福祉スタッフは専門的な部分で苦労をしています。

 

福祉の仕事を始めたころから感じていたことではありますが、福祉の職場は経済的に余裕がなく、人員的にぎりぎりで運営しているところがほとんどです。また、スタッフに女性が多いこともあり、家事や子育ての両立を考えた時に、営業時間以外で研修を行い、ステップアップする時間的な余裕が事業所にもスタッフ個人にもありません。結果、行ったとしても、法令順守のために行っているだけの事業所がほとんどです。

 

専門職の専門性が問われる時、専門的な知識・技能の修得は当然と思われますが、今後、地域生活を支援する観点から、障害者に的確な情報を提供するための情報収集能力と分析能力、ネットワークづくりに協力できる能力、チームワークを遂行する能力、利用者の自己決定を認め、支援者としての自覚をもつ能力等が求められると感じています。

 

 

障害者社員をマネジメントすることに対する不安

障害者雇用は簡単ではありません。当人には障害が理由でできないことや困難さがあり、配慮の必要が発生するため、障害について全く知識が必要ないわけにはいきません。かといって、そこを気にしすぎると仕事になりません。

 

企業から聞こえてくる不安や質問の中には、「障害者との接し方が分からない。指摘や注意の仕方で状態が悪化しないか、障害について質問していいのか」といった声が聞こえてきます。

 

障害者社員をマネジメントすることに対する不安。
それは「情報不足」と「遠慮」という2つが主な原因です。

 

「情報不足」とは単純に障害者のことを知らないということです。どんな種類の障害があるのか、どんなことに困っているのか、どんな場合に配慮が必要なのか。何も知らないからこそ怖い。それが不安につながります。

障害者に対する情報不足が存在しているならば、本人に直接聞けばいい話です。
しかし、ここに第二の理由「遠慮」が登場します。

 

部下が悩みを抱えていたり、モチベーションが下がっていたりすれば、上長であれば「どうしたの?」と聞くはずです。障害者社員に対して本人の障害を聞くことは興味本位の場合もあると思いますが、仕事を円滑に回す、トラブルを回避する、職場での配慮項目を見出すためなど、目的が明確にあるはずです。

障害者に障害のことを聞くのは気が重いという心情は分からない話ではありませんが、障害者に対する色眼鏡があるともいえます。

 

企業は給与や社会保険、福利厚生といった条件を提示して雇用契約を結びますが、障害者社員の場合であればその条件の中に「障害への配慮」という項目が含まれます。働く上でどんな配慮が必要なのかを相手に聞く際には、本人の障害についての質問を避けては通れません。

 

そこに「遠慮」があったとしても、それは必要のない「遠慮」です。企業で働こうとする障害者側から見ると、職場の上司や同僚が「情報不足」で「遠慮」が働いているということに対し、批判したくなる気持ちが生まれることは仕方のない話です。

 

雇用する企業と受け入れる現場社員。そして、働く障害者社員。互いが互いに遠慮することなく、情報交換できる職場さえ作り出せれば、障害者雇用の難易度が格段に下がります。

そこは「障害」という垣根がない職場となっているはずです。

 

 

本連載シリーズの記事一覧はこちら。

障害者福祉の仕事を通じて福祉業界の『常識』を変えたい。

 

本記事は「biblion 読む・知る・変わる。人と社会をつなげる読み物メディア」の提供で配信しています。biblion では、社会の課題解決に挑戦する人々の取り組みや、暮らし・仕事に役立つ専門的な知識と技術を記事として発信しています。

 

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