実は私、2021年の11月に高校で講演させていただく機会がありました。
人権学習の授業の中で、視覚障害当事者である私の体験をお話しすることになったのです。
私の目の状態、通っていた学校や仕事のこと、スマホの使い方。
いろいろなお話をしたのですが、中でも特に盛り上がった話題、皆さんは何だったと思われますか?
その機能や値段に対し、驚きの声が多数出てきたのです。
点字ディスプレイ。あなたは、ご存じでしょうか。
点字使用者である私にとってなくてはならないものなのですが、まだあまり知られていないかもしれませんね。これ、本当に便利なんですよ!
ということでこの記事では、私の愛用している点字ディスプレイについてご紹介します。
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点字ディスプレイとは
点字ディスプレイとは、画面に表示された文字情報を点字に変換してくれるデバイスのことです。
表面に穴があり、そこからピンが上がってきたりへこんだりすることで点字が表されます。
パソコンなど操作するときには音声読み上げ機能を活用することが多いのですが、やはり「ここは指で文字として確認したい!」というときに、ディスプレイを使うとそれが可能になるというわけです。
ディスプレイが内蔵された電子手帳のような機械もあり、広く使用されているんですよ。
私もユーザーの1人なのですが、これはとても優秀です。電子手帳なしの生活にはもう戻れません。
ディスプレイ内蔵の電子手帳にはどんな機能があるの?
電子手帳には、ケージーエス株式会社の「ブレイルメモ」や有限会社エクストラの「ブレイルセンス」などがあります。
機能や表示できる点字のマス数は機種によってさまざま。
用途に応じてより適したものを選ぶことができます。
私が使っているのは「ブレイルセンスオンハンドU2ミニ」というもの。持ち運びに便利な小型のものです。マスの数は18と少な目ですが、私にはこれくらいがちょうどいいように感じられます。
この機種では点字のデータはもちろん、ワードやテキストファイルなども読むことができます。
時計も付いているし、音楽やラジオも聞けるし、ボイスレコーダー機能もあるし、インターネットに接続することもできます。
ケージーエス株式会社HP→https://www.kgs-jpn.co.jp/
有限会社エクストラHP→http://www.extra.co.jp/
点字ディスプレイはいつ誕生したの?
この便利な点字ディスプレイ、いったいいつから使われているものなのでしょうか?
アメリカやイギリス、フランスやドイツなどでも、ほぼ同じ時期に第1号点字ディスプレイが生まれているのだそうです。
その後、ドイツや北欧諸国で点字ディスプレイ購入の際に政府補助が受けられるようになり、それをきっかけに優れた製品がどんどん生み出されることに。
そんなふうにして歴史は前進していったようです。
価格はどれくらい?
さて、ここで気になるのが価格ではないでしょうか。
機種によって違いますが、基本的に「簡単に手が届く」という感じではないんですよね。
講演でお話しするときなどにもネタにするのですが、「実はこれ、38万円くらいするんですよー!」などと言うとかなり驚かれます。
私ってそんな高価なものをいつも持ち歩いてるんだなあ、と思うと。でも、実は購入するとき全額自分で支払ったわけではないんです。
私の住む大阪市では日常生活用具(障害者の日常生活上の便宜を図るための用具)に指定されているため、市からの給付を受けることができたのです。
日常生活用具の給付は、市町村の判断により決定される事業なので、対象となる品目などには市町村によって違いがあるようですが、自己負担は原則1割。
世帯の所得に応じて負担上限月額が設定されています。
ありがたい制度だなと感じます。
点字ディスプレイを使い始めて感じること
先天性全盲の私は、幼い頃に点字を覚えました。
点字を使って国語や算数など学習し、点字を使って小説などを読み、点字を使って資格試験を受けたりと、いつも点字が身近なところにありました。この文字がなかったら、きっと今の私はなかったでしょう。
そんな点字、最初は紙を使って読み書きしていましたが、大学生のときに状況が変わりました。
初めて自分の点字ディスプレイ付き電子手帳を手に入れたのです。
ずっとほしかった電子手帳。
これを手に入れたときの喜びはかなりのものでした。
使い始めたらもう、さまざまな場面で「便利!」と叫びたくなりました。
データで読書ができる
私は本を読むのが大好き。
子どもの頃は紙の本をよく手に取っていたのですが、大きな悩みの種がありました。それは、「とにかくかさばる」ということです。
墨字(一般の文字)の本を点字にすると、厚みが増し、3倍くらいになります。
部屋にたくさんの本を置きたいと思っても場所を取るので困ったものです。
またそんな本を何冊も持ち歩くのは大変。
出先で空いた時間に読書を楽しめたら嬉しいところですが、そういうわけにはいきません。
それに図書館でたくさん紙の本を借りるというのも手間のかかる作業。「もっと読みたいのに……」といつも嘆いていました。
電子手帳は、そんな悩みを一気に解決してくれました。
紙ではなくデータで点字の本が読めるようになったからです。
そのデータがダウンロードできるのは、「サピエ」というサイト。
サピエ図書館→https://www.sapie.or.jp/cgi-bin/CN1WWW
持ち歩いても重くない
こういったサービスを利用して電子手帳に本を入れておけば、部屋が本だらけになることはありません。
また、たくさんの本を持ち歩いても重くはありません。
読みたい本を手に取る作業も気軽にできるようになりました。今では電車の中などで読書を楽しんでいます。
考えてみれば、最近紙の本に触れることはほとんどありません。
たまには紙もいいかなとは思うものの、これだけ便利なものがあればそちらを選んでしまうんですよね。
ピンの場合、指への刺激は少し強いので、長時間読み続けていると紙が恋しくなることもあるのですが……。
私の感覚ですが、例えば小説の世界に思い切り浸りたいときには点字が適しているのではないでしょうか。そのほうが想像を膨らませやすい気がします。
メモやノートが取りやすくなった
学生時代、最初は点字盤や点字タイプライターを使って紙でノートを取っていましたが、ここにもまた悩みの種があったのです。それもたくさん。
まず1つ目、量が膨大になるということ。
前述したように点字の書類はかさばるので、整理がかなり大変でした。
片付けるのが苦手な私は、「あれ、あのノートどこだっけ」となることがたびたび。書類の山との格闘だったのです。
そして2つ目、間違えたときの修正が簡単にはできないということ。
修正したいときには点をつぶすとか、消したい箇所をすべて「め」の字にするといった方法を使うのですが、手間がかかって仕方ないのです。
また3つ目、点字を打つときにはかなり大きな音がするということ。
ポツポツ、ガタガタ。話を聴いているときにあまりうるさくするのは気が引けるもの。恐縮しながらノートを取ったものでした。
こうした悩みも、電子手帳がすべて解決してくれました。
情報の整理、検索、削除、コピペ。何でも簡単です。大きな音もしません。
点字ディスプレイが世界を広げてくれた
点字使用者の私ですが、このところ「点字離れが激しくなってきたな」と痛感することがよくあります。
パソコンやスマートフォンで、音声のみに頼って文字を読み書きすることが増えたからです。
それでも点字は、私にとってなくてはならないもの。
今後もしっかりお世話になることでしょう。
冒頭で少し触れた講演活動のときなどは特にそうです。
話したいことのメモを確認しながら、時計機能で時間を確認しながら、聴いてくださっている方々の様子に耳を傾けつつ内容を調整して喋る。そんなことが可能になるのは点字ディスプレイのおかげです。
こうした製品を活用できる。
そのことを多くの方に知っていただけたら、今後視覚障害者の勉強や仕事の幅はもっともっと広がっていくのではないか。
私はそう信じています。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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