WelSerch

視覚障害者向け歩行ナビゲーションシステム『あしらせ』を使ってみた当事者の感想と思いを語る

  • 最終更新日:
歩行ナビゲーションシステム「あしらせ」を使ってみた感想

全盲の私が頭を悩ませていること。それはやっぱり「移動」です。

 

1人で安心して出かけたい。エネルギーを消耗することなく歩きたい。常々そう感じているのですが、それは簡単なことではありません。

 

そんな私ですが、実は今画期的なナビゲーションシステムに触れ、希望を抱いているところなんです。その名も、あしらせ。靴にデバイスを装着し、専用のスマートフォンアプリと連動させることで、デバイスが振動して道案内してくれるというもの。

 

菜深子
「足にお知らせする」ということで「あしらせ」。ナイスネーミングですよね!

 

先日実施された購入型クラウドファンディングで先行販売モデルが公開されていたため、私は早速飛びつきました。弱視の夫も興味津々。

このナビゲーションシステムについては以前の記事で取り上げていますので、詳しくはそちらをご覧いただきたいのですが、ここでは実際に使用してみた当事者の思いをお伝えします。

 

▼参考▼

視覚障害者の歩行ナビゲーションシステム「あしらせ」先行販売を開始

実際にあしらせを使ってみて感じた嬉しいところ

菜深子
クラウドファンディング終了後、購入したあしらせデバイスが手元に届きました。もうワクワクが止まりません。早速使ってみることにしました。

 

あしらせがついた靴

素材が柔らかい

箱を開けて中身を確認。デバイスに触ってみたところ、柔らかくて細長い板状の部分と、四角い箱のような形の本体とで構成されているのがわかります。

 

靴の中に入っていても違和感がないように、足に接触する部分は柔らかい素材で作られているんですね。ありがたい。

 

1人で準備できる

詳しい使い方については、公式サイトに掲載されている動画で学習できるようになっています。スタッフさんから直接説明を受けるなどの選択肢もありましたが、私は自分自身で学習する方法を選び、どこまで1人でできるか挑戦してみることにしました。

 

デバイスの左右判別方法、靴への装着の仕方など、映像が見えなくても理解できるよう丁寧に説明されていたのが印象的でした。

 

菜深子
「何かを購入したら使い始めの準備は誰かに手伝ってもらうのが前提」ということをこれまでに何度も経験しているのですが、そうではなかった。

 

1人でこなせる。全盲当事者としては、ここに好感を持ったんです。

 

アプリをダウンロードして会員登録、そしてデバイスとの接続。これも問題なくできました。

 

あしらせ装着方法の動画

装着や目的地入力が簡単

説明を聞きながら、自分のいつも履いている靴にデバイスを装着してみました。本体の裏側はクリップになっていて、その部分で靴の縁を挟んで固定します。最初は少し手間取りましたが、慣れてしまえば簡単に着け外しできそうです。

 

写真:あしらせの本体

 

続いて、スマホアプリで目的地を入力します。例えば自宅の最寄り駅まで行きたいときは、その駅の名前を入力すれば目的地として設定することが可能です。

 

菜深子
ただ、駅のどの入口まで行きたいのかなど細かく設定するためには、見える人の力を借りる必要がありました。

 

よく行く場所はお気に入りとして登録できるので、細かい設定部分だけ手伝ってもらって、自宅の最寄り駅などは早速お気に入りに追加することに。こうすれば1人で簡単に入力できるようになります。

 

進む方向がわかりやすい

準備が整ったら、自宅周辺を歩いてみることに。「十分に練習して慣れる」というところから始める必要があるんですね。

 

菜深子
デバイス装着後の靴を履いてみると、足が包まれているような感覚。守られている、という感じもします。

 

ナビを開始すると、そのことを通知する振動が両足にしっかりと伝わってきました。

 

足の甲、側面、かかと。左右6か所に振動する部分があります。まずはどちらの方向に歩いていけばいいか、振動で知らせてくれます。左なら左側面、後ろなら両足のかかとが振動する。わかりやすいですね。

 

そして、「次は右に曲がる」というときは右足の甲が振動。「次は左に曲がる」というときは左足の甲が振動します。曲がり角が近づいてきたら、振動のテンポが速くなります。心の準備をしながら歩くことができるんですね。

 

「方角」ではなく、「体の向きに対してどの方向に進めばいいのか」を知らせてくれるので、視覚障害者にとってとても理解しやすい。スマホの画面を見ることなく、振動に従って歩くだけでOKなんです。本当に親切なシステム!

 

あしらせの概要動画

耳や手がふさがれない

音声案内ではなく振動を感じ取るシステムなので、耳は周囲の情報収集に集中させられます。安全確保のため聴覚はしっかり使いたいので、これは助かります。

 

またスマホを手に持つ必要もないし、目立ちすぎる派手なデバイスを持ち歩くわけでもないので、ストレスもありません。

 

菜深子
まだまだ使い慣れているわけではない私ですが、あしらせをうまく生活の中に取り入れることができれば、移動に関する悩みは少なくなるはずです。

 

靴を探すこともできる

便利なのは、移動のときだけではありません。もう1つありがたい機能が備わっているんです。自分の靴を探せるというもの。

 

アプリを使って、自分のあしらせから音を鳴らすことができるんです。大人数で居酒屋などに行って靴を脱ぐと自分の靴がどこにあるかわからなくなることがありますが、この機能があれば安心です。

 

価格がお手頃

この素晴らしいあしらせについて知ったとき、まず気になったのが価格でした。

 

正直なところ、私は最初、「でもお高いんでしょ?数十万とかするんでしょ?」と思っていました。これまでの経験から考えて、こういう画期的なデバイスの場合は、手の届かないような価格が普通だったからです。

 

菜深子
ところが違った。よい意味で裏切られました。10万円以内で購入できるようになっていた!

 

これなら頑張れば手が届きそうです。私が購入を決めた理由の1つはここにありました。

 

また「日常生活用具」の対象品目として購入費の補助が受けられるよう、現在各自治体との取り組みが進められているのだそう。このデバイスを必要とするすべての方が、無理なく購入できるようになるといいですね。

 

アプリは月額480円となっています。これもお手頃だと思います。

 

現在は先行販売中なので、割引されております

 

あしらせの魅力に実際に触れ、「こんなにお手頃でいいの?」と改めて感じているところです。

 

あしらせで注意の必要な点も正直に

とても便利なあしらせですが、今(2023年3月)の段階では注意の必要なところもあります。

 

屋内での使用は難しい

まず、使用できる場所について。主にGPSなどを使って位置情報を把握しているため、基本的には屋外向けのシステムとなっています。屋内での使用はまだ難しいようです。

 

また屋外であっても、高低差の大きい場所や衛星情報の誤差が出やすい場所は苦手なのだとか。

 

菜深子
個人的には危険の少ない屋内で積極的にあしらせを使用したいと考えているので、それが可能になることを切に願っています。

 

安全確保は自分自身で

そしてもう1つ、安全確保について。

 

菜深子
あしらせは、信号や障害物などを教えてくれるものではありません。

 

ルートの確認はあしらせにお任せできますが、安全確保は白杖など使って自分自身で行わなければならない。このことをしっかり心に留めておく必要があります。

 

全盲の私が描く、あしらせのある素敵な未来

このナビゲーションシステムに出会えたことで、私の生活は大きく変わると思います。

 

私、本当によく迷子になっていたんです。慣れた道であっても、ちょっと油断すると「ここはどこ?」状態。そんなとき、振動で案内してもらえたらどれだけ助かることでしょう。つらい時間を過ごさなくて済みます。

 

迷子になる心配がなくなれば、行動範囲も広がるはず。これまで1人で出かけるときも夫と出かけるときも、行先はよく知っている場所に限定されていましたが、初めての場所にも足を延ばしてみようという気持ちになれそうです。

 

写真:あしらせが着いた靴が並んでいる

 

例えばネットで興味をそそられるお店に出会ったとき、「よし、今から行ってみよう」と家を飛び出して向かってみる。そんなことだって気軽にできるようになるかもしれません。

 

ヘルパーさんなどと出かける方法もありますが、あらかじめ予定を立てておかないといけないなど制約があります。思い立ったときにフラッと出かけるというのは以前からの夢だったんです。近々現実になるかも!

 

さらに、友人とのお出かけもより充実させられるはずです。

 

遠方から友人が遊びに来てくれたとき、ちゃんと案内してあげられないというのが悩みの種でした。せっかく来てくれたのだからいろいろな所に行って楽しんでもらいたいのに、一緒に迷子になるしかなくて申し訳なかったことをよく覚えています。あしらせがあれば、その悩みも解決できそうです。

 

菜深子
こう考えてみると、楽しみなことがいっぱい。「あしらせが使いこなせるようになったら、行き慣れてないあのお店に行ってみようか」。

 

今夫とそう話しているところです。

 

テクノロジーの進歩により、私たちの世界はどんどん広がってきています。これからはもっと楽しく、もっと自分らしく、自由に歩けるようになる。そんな未来が見える気がしています。

 

あしらせを着けた靴で今、私は新たな1歩を踏み出したところです。

 

▼参考▼

視覚障害者の歩行ナビゲーションシステム「あしらせ」先行販売を開始

 

 

ここまでお読みいただきありがとうございました。

The following two tabs change content below.
山田菜深子
岡山出身、大阪在住の先天性全盲です。夫と二人で暮らしています。趣味は読書とぼーっとすることです。ゆるくマイペースな性格で、基本的に頑張らないタイプですが、「書くことで世界を変えたい」という熱い思いを持って活動中です。ブログやYouTubeで、全盲女子のリアルな日常を発信しています。またひそかに小説家を目指していたりもします。大学時代に社会福祉を学びました。障害を持つ当事者として、社会福祉士として(現場で働いたことはないのですが)、お役に立てるような記事が書ければと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。詳しいプロフィールはこちら→山田菜深子


▼『友だち追加』から登録する▼

LINEお友達追加



おトクな無料会員登録

お問い合わせはこちら


Sponsored Link

あわせて読みたい

  1. スマホを見る女性のイラスト
  2. あん摩マッサージ指圧師
  3. 四葉のクローバーを渡そうとする少女
  4. 点字図書館訪問第一回

コメント

    • 千野 歩
    • 2023/03/31

    株式会社Ashiraseの千野です。

    ありがとうございます!
    ネガティブな部分含めてとてもよく書いていただいているの含め、提供したい価値を感じていただいているのに社員一同感動しています!
    今後もアップデートを重ねていきますので引き続きどうぞよろしくお願い致します!

  1. この記事へのトラックバックはありません。