私は2020年8月に新型コロナウイルスの陽性が判明し、無症状でしたが居住地外のホテルで療養しました。
ホテル退所後、私は弱視仲間のオンラインミーティングで療養体験を話してみました。障害者向けの新型コロナウイルスの情報がないので、みんな興味を持って聞いてくれました。
日本の新型コロナウイルス陽性者は40万人を超えていますが、障害者の療養体験を目にしたことがありませんので、私は積極的に体験を伝えたいと思っています。
今回は私の経験から、
- ホテルでの療養生活の全貌
- ホテル療養で困ったこと
- ホテル療養のデメリットを解消するコツ
- 実体験から気づいたホテル療養で必要なもの
などをお伝えいたします。
万が一、障害や病気を患っている方が新型コロナウイルスに感染し、隔離生活になってしまった場合でも万全な治療生活が送れるように参考にしていただければ幸いです。
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私の健康状態について
私は障害等級3級の視覚障害者です。右目の視力は0.06で、左目は全く見えません。元々は先天性白内障ですが、現在は緑内障と加齢黄斑変性があります。視野の中心部がぼやけて、物が少しゆがんで見えます。眼圧を下げる薬の点眼が欠かせません。
目の病気以外では糖尿病と高脂血症の持病があります。治療開始後しばらくは糖尿病の薬とコレステロールを下げる薬を飲んでいましたが、ホテル療養をした頃は糖尿病の薬は飲まなくて良い状態でした。
なぜ糖尿病で障害者の私がホテル療養となったか
私は無症状でしたが、発症したら重症化リスクの高い糖尿病の持病があるので、病院に入院するものと思っていました。しかし、指示された行き先はホテルでした。理由は服薬せず、食事療法と運動療法で血糖値をコントロールできていたからです。私は視力が低いので、ホテルでは不便そうで心配だと話しました。
しかし、担当の方は
だと言いました。私が白杖を使わず歩くので、ホテルで困る事はないと思われたのでしょう。
ホテル療養で困ったこと
ホテルでは朝、夕2回の健康状態の報告と、3度の食事以外に何もすることがありません。食事は部屋の前の椅子に置かれるようになっていました。部屋の掃除やシーツの交換は療養者自身で行います。洗濯は多くの施設では、浴室で手洗いのようですが、私が入所したホテルではコインランドリーが使えました。
こんな単調な生活で、困ることなどなさそうですが、障害者の利用が想定されていませんから、いくつか困ることがありました。
資料は全て紙、データで提供されない
ホテルに到着すると20枚ぐらいの資料が渡されました。
それとは別に1枚の紙を渡され「サインをお願いします」と言われました。ルーペで見たら入所の同意書でした。書類を読んでみると、施設の規則に従って療養するという一文がありました。施設の規則について説明は受けていなかったので、施設のスタッフに全文読み上げていただきました。質問含め手続きに20分ほどかかりました。
施設スタッフと感染者の私が、長時間一緒にいることは好ましくないはず。こんなところで感染リスクを高めていいのかな?と疑問に感じる段取りと資料提供でした。
私はルーペで文字を読む事ができます。しかし、印刷物は全体的に文字が薄く、写真や説明図などが判読困難でした。毎日の健康観察記録用紙は細かくて、記入は無理そうでした。
困った事があっても気軽に人に頼めない
ホテルの設備を把握するのに苦労しました。ホテルは壁とスイッチが同系色で、枕元のライトのスイッチは自力では見つけられませんでした。お願いすれば職員が説明に来てくれたかもしれませんが、感染者のいるエリアに入ってもらうのは、ちょっと気が引けました。
それに、事務局に電話すると面倒臭そうに対応され、不愉快な思いをするので頼むのは諦めました。
療養者向けとは思えない不健康な食事
ホテルの食事は揚げ物が多いということは噂に聞いていました。私は糖尿病を申告していたので、糖尿病に配慮した食事が提供されると期待していました。
ところが朝から天ぷらが出てくる、などの噂通りの茶色いお弁当。「こんな食事は避けましょう」と糖尿病の食事療法の本に載っているような、高カロリー、高塩分、繊維質不足と三拍子揃った不健康食でした。
ホテルにはおかゆやスープなどの食事の選択肢がありませんでした。
生活の手引きに「お弁当は全て召し上がる必要はありません。体調に応じ、量を減らすなどして、健康管理にご留意ください。」という一文がありました。言葉こそ丁寧ですが、発熱や喉の痛み、下痢などの症状を抱えた人たちが療養する場なのに、全く思いやりが感じられません。
健康観察の不安
健康状態の報告は、専用のウェブサイトで申告する方式でした。体温や血中酸素飽和度を入力し、発熱や倦怠感などの症状があればチェックを付けて送信します。渡された記録用紙に記入はせずに済んだ点は良かったと思います。
健康観察はウェブに送信するだけの一方通行で、看護師や医療スタッフからの確認はありませんでした。
質問記入欄に質問を書いても回答がないことも多く、
症状の報告では、「唇が紫になっていますか?」という質問の回答が困りました。
私は人の表情や顔色を見た経験がないので、鏡で見てもよくわからないのです。ホテルではビデオ通話やメールに対応しておらず、他の人に唇の色を見てもらうことができませんでした。
酸素飽和度を測るのにも苦労しました。
私の目には中心に見えにくい部分があり、物が少しゆがんで見えます。そのため数字の2、3、5、6、8、9、0や1と7の区別がつきにくいのです。ルーペでパルスオキシメーターを見るために読みやすい角度を探そうと手を動かすと、表示が動いてしまい、98か86か自信が持てませんでした。
困ったことをどう解決したか
ホテル療養中の困りごとへの対処策をご紹介します。
視覚障害者はITに慣れておくことが重要
ホテル滞在中、困ったことはほぼiPadで解決しました。
配布された資料はiPadで撮影して読みました。ルーペで読むよりは楽でした。しかし、資料がデータで配布されれば、スマホへの緊急連絡先登録などが簡単にできて便利なのに、と思うと残念でした。
Be My Eyesは、支援を必要とする視覚障害者とボランティアを繋いでくれるアプリです。視覚障害者が援助依頼をすると、アプリが複数のボランティアに通知します。最初にリクエストに応じたボランティアと、リクエストした視覚障害者が繋がります。視覚障害者は自分のスマートフォンの背面カメラを、見てほしいものに向けます。ボランティアはその映像を見て援助するという仕組みです。
アプリは無料でAndroid用とiOS用があります。視覚障害者が犯罪に巻き込まれないよう、通知は遠隔地のボランティアに発信されるように配慮されているそうです。
ボランティアの方々は説明が上手く、ホテル事務局が対応しない時間帯でも依頼できる点が助かりました。ちょっとした雑談もできてストレス解消にもなりました。
スマホやタブレットは視覚障害者の外付けの目として、外部と繋がる命綱として重要なアイテムです。充電器やケーブルを絶対忘れずに!ホテルでは充電器を貸してもらえません。
持病のある人は食事対策が必須、運動も重要
私は友人達に頼んで缶詰や乾物を差し入れてもらい、ホテルの電気ポットを使って栄養バランスを考え調理していました。それでも血糖値が上がることが心配で、薬を取り寄せました。
私がいたホテルは、差し入れやネットショッピングが可能でしたが、認めない自治体もあります。ホテルで提供される食事や物品のリスト、差し入れ、ネットショッピングの可否については、元気な時に自治体のホームページで調べておくと良いでしょう。
こちらは私がホテル療養中に友人から差し入れてもらった食品です。
生活習慣病には運動も重要なのですが、室内はベッドでいっぱいで運動スペースがありません。私のいたところは予約制で、1日20分の廊下使用が認められていました。実態はみんな予約などせず廊下で運動していました。運動はストレス解消や血栓予防にも必要なことです。
廊下に出ることも、療養者同士の会話も、窓やカーテンを開けることさえ禁止という施設があるそうです。そんな施設では、職員が作業をしていない早朝や夜間に、こっそり廊下などの広い空間を歩いたり、窓から外を眺めたりすればいいと思います。心身の健康には必要なことです。
療養者は犯罪者ではないのですから。
ホテル療養に必要なもの
私の場合は以下の物があると良いと思いました。人によって必要なもの、あると便利なものは違うと思いますので、ご参考までに記載します。
- 測定器類
体温計、パルスオキシメーター(音声機能付きや見やすい表示でない為)
血圧計、体重計、血糖測定器(ホテルにはなかった)
- 救急箱一式(のど飴や冷却ジェルシートも)
歯が痛くても痛み止めすらもらえなかったとか、高熱があっても放置されたという体験談がありました。
- 処方薬
ホテル滞在中は薬を処方してもらえません。薬を服用している場合は、常に多めにもらっておくと良いです。市販薬の使用に注意が必要な方は、解熱剤、鎮痛剤、胃薬などもコロナに備えて処方してもらっておくと安心です。
- 古い服、使い捨て下着、紙おむつ、パッド
ホテルでは洗濯機が使えないところが多いようです。高熱や倦怠感のある中で手洗いは辛そうです。古い服や紙製パンツなど、捨てられるものが便利です。
- 旅行用携帯鍋などの調理器具と食料
電子レンジがなく、冷めたご飯やパスタには参りました。電気ポットでも乾物の調理はできましたが、レトルト食品の温めには鍋が便利。私は旅行好きなので早速買いました。
- 目標
退屈なので暇つぶしグッズが必要という声をよく聞きますが、私は無症状の人は目標を持って生活することをお勧めします。何かを作るとか、TOEICの勉強をするとか。私は資格試験の問題集をやっていました。おかげで試験に合格できました。
- 保険を確認しておく、加入する
コロナでは自宅療養、宿泊療養とも入院とみなされ、保険金が支払われます。支払いには入院期間を証明する書類が必要になりますので、ホテルを退所する時に発行してもらうと良いでしょう。
ホテルでの療養は症状のある方にとっては、ベッドメイキングや掃除、洗濯全て自分でやらなければならず、大変辛い環境だと感じました。
さらに医療なき隔離状態におかれることは、自宅療養者と同じぐらい不安です。
コロナ第2波の頃は、不自由なホテルより自宅の方が居心地が良いからと、ホテル療養に応じない人が多く問題になりました。ホテル脱走者のニュースもありましたが、同じホテルで複数回起きているので、環境やスタッフの対応が著しく悪かったのかもしれません。ホテル療養を促すため、自宅療養者に食料支援をしない自治体もあるようです。
私は最後まで無症状でしたが、1つだけ後遺症が残りました。安いビジネスホテルに泊まれなくなったことです。
ビジネスホテルを利用した時、部屋の扉を開けた瞬間、犯罪者のように扱われたという感情が蘇り、心臓がドキドキしました。自治体職員はホテルに10日間入って、療養者と同じ生活を体験してほしいものです。
次回は私が最も問題を感じたホテルでの医療について書きたいと思います。
鈴木弘美
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