生まれたときから全く目が見えない。
光も感じない。
明るいとか暗いとか、それってどういうことなのかわからない。
そんな私がよく聞かれること。
それは、「色をどう理解しているのか」ということです。
先日ヘルパーさんと散歩していたときにも、ふとそのことについて尋ねられました。
ヘルパーさんはいつも周囲の状況をとてもわかりやすく言葉にしてくださるのですが、「色をどう伝えるのか」というのには苦労されているようです。
色。
確かに私はそれをこの目で認識したことがありません。
だからそれがどんなものなのか、100%理解することはできないのだろうなと思います。
どんな言葉で伝えてもらったとしても。
とは言っても、私の生活の中にも色は存在します。生きている以上、避けて通ることはできないものだから。
それで私も自分なりにイメージを膨らませて、色と付き合っています。
「仕方なく」というのもないわけではないかもしれませんが、「わからないものを受け止めようとしてみるのも楽しいよね」という気持ちで。
ということでこの記事では、全盲の私がどのように色のイメージを獲得し、色と付き合っているのか、お話ししようと思います。
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私が色のイメージを獲得するまで
私が色というものの存在を初めて認識したのは、4歳か5歳くらいのときだったのではないかと思います。
「このおもちゃは赤だよ」「このタオルは青だよ」と周りの人たちが教えてくれていたからです。
ただそのときは、「何かそういうものがあるんだな」と漠然と感じていただけ。具体的なイメージはほとんどありませんでした。
お絵描きをして遊ぶこともあり、クレヨンや色鉛筆を使ったりもしていましたが、色を意識することはなかったような気がします。
適当に1本手に取り、適当に線を弾いたり丸を書いたりして、「いい絵が描けたぞ」と満足していたものです。
「色が人に与える印象」を知る
その後、さまざまな情報に触れる中で、少しずつ色に関する知識を増やしていきました。
例えばリンゴやトマトは赤、空や海は青、雪や豆腐は白というように。物と色とを結びつけることができるようになったのです。
さらに成長すると、もっと深く色について意識するようになりました。
そのきっかけとなったのは友人たちとのやり取り。
「どんな色が好き?」「この色ってどんなイメージ?」「あの人を色に例えたら?」という感じで意見を交わし合うことがあったのです。
こういう話題、結構頻繁に登場していました。
ちなみにこの話題、見えている友人とやり取りするときに限らず、見えない者同士でもよく盛り上がります。
そういうときに、私は友人たちの意見を参考にして、自分の持つ色のイメージをアップデートしていったのでした。
青のイメージが広がった瞬間のことは今でもよく覚えています。
友だちが「青ってクールな感じがするよね」と言ったのです。
そんなふうにして、「この色は人にどんな印象を与えるのか」ということについて知ったわけです。
音で色を感じる
学校の授業の中では、言葉とはまた違った方法で色を感じる機会がありました。
これもイメージを膨らませる上で重要な体験でした。
それは理科の実験のとき。
色が変化しているかどうかを確かめる必要がありました。
そのために使ったのが、光を音に変換する「感光器」という装置。
明るさによって音の高さが変わるというものです。
強い光を感じるとピーという高い音を出し、弱い光ではブーという低い音が出るんです。
自分の中で、色というものが少し具体的になったように感じられたのでした。
イメージ
今は、さまざまの色をイメージできるようになっています。
赤なら熱い、明るい。逆に青なら涼しい、さわやか。白ならフワッとした軽い感じ、何もない感じ。
「私はフワッとした白が好きだな」とか、「ピンクはかわいらしい感じだからあの子に似合いそうだな」というようなことも言えるようになりました。
とは言っても、色の種類は驚くほどたくさんありますよね。
まだまだイメージできないものも多くあります。
例えば「赤と青を混ぜれば紫になる」という知識は持っていますが、混ぜて生まれる色ってどんなものなのか、うまく想像はできない気がするんです。
身に着けるものを選ぶとき
身に着けるものを選ぶとき、色をどう考えているのか。
これもよく聞かれます。
大切なことですよね。正直私はおしゃれなタイプではないので、聞かれるとちょっと困ってしまいます。
もちろんおしゃれじゃないのは全盲だからというわけではないです。全盲のおしゃれさんはたくさんいらっしゃいますので。
私が身に着けるものを選ぶときに参考にしているのは、親しい友人や家族など、信頼できる人のかけてくれた言葉です。
例えば「オレンジとか、明るい色の服が似合うね」と言われたことがあるので、私はここぞというときにはオレンジなどの服を選ぶようにしています。温かいイメージのオレンジは、私の好きな色のひとつになっています。
実は憂鬱だったのです
でも、以前の私にとっては、身に着けるものを選ぶというのは少し憂鬱な作業でした。
「見えない人はやっぱりおしゃれじゃないんだなんて思われたくない。今以上に色について知らなければいけない。もっと勉強しなければ」などと気を張っていたからです。
だけど、そんな気持ちでおしゃれをしようとしても全然楽しくないんですよね。
色のことを考えるなんて嫌だ、と思うようになっていきました。
結局私がやっていたのは色に興味を持つことではなく、周囲の顔色に興味を持つことだったのかもしれません。
そう気づいて、方針を変えました。「周りからどう見られるか」というのではなく、「自分がいかに心地よくいられるか」を重視することにしたのです。
そうすると色を意識することは少なくなりましたが、以前よりも好意的に色を受け止められるようになりました。
どんな色の服を身に着けるかで印象が大きく変わる。そのことを意識して、「今日は元気な雰囲気に見せたいから黄色にしよう」などと考えるのもひとつの手です。でも、そこまではしないというのが今の私の方針です。
見えない人の前で色の話をしてもいいの?
見えない人の前で色の話はしないほうがいいのではないか、という考え方もあるようですね。
それについて私の気持ちを書いておこうと思います。
確かに、高度な色の話を聞いてもさっぱりわからないかもしれません。
会話に入っていけなくてつらい思いをすることもあるかもしれません。
それならそんな話は聞かないほうがいい。それもひとつの意見です。
ここまで書いてきたように私の周りには色の話があふれていますし、自分からそういった話を持ちかけることだってある。それは不快というより、世界が広がっていく楽しさにつながるのです。
虹の色で考えてみましょう
虹の色は、日本では一般的に7色(赤、橙、黄、緑、青、藍、紫)とされていますが、これは世界共通の認識ではないのだと言います。
アメリカやイギリスでは6色、ドイツや中国では5色。
私はそのことを中学時代に初めて知り、とても驚きました。
同じ色でも、見る人によって、また見たときの気分や状況によって、文化によって、印象は変わるものなんですよね。
言葉にすると「明るい」になるかもしれないし、「悲しい」になるかもしれない。
そんなふうに、いろんな人のフィルターを通していろんな角度から見た色の話を、私は聞きたいのです。その人の素直な言葉で。
私の中で、色のイメージはまだまだ完成していません。さまざまな方の色の話を聞いて情報を更新することで、どんどん広がり、深まっていくのです。
私の世界はこれからも、ますますカラフルになっていくはず。
自分なりにあれこれイメージして楽しむことができるのです。
先天性全盲の色の世界
以前「色って何?」と聞いてみたことがあります。
聞かれた人はとても困っていました。それはそうですよね。私も、例えば音とは何かを言葉で説明するとなると頭を抱えてしまいますし。
形のないものを言葉で表現すること、見た経験のないものを言葉だけで理解すること。それはやっぱり大変なこと。だから私は、私ならではの楽しみ方で、これからも色と付き合っていくつもりです。
先日、少しだけですがサクラを見ました。
「濃いピンクのもあるし、薄いピンクのも咲いてるよ」などと教えてもらいながら。
私の中で、私だけの色鮮やかなサクラを思い浮かべて、お花見を楽しみました。と言いつつ基本的には花より団子派なんですけどね(笑)
この記事を書きながら、改めて「色と私との関わり」に思いをはせることができました。
お読みいただきありがとうございました。
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私はいわゆる健常者です。ある知覚を先天的に持っておられない方々がその知覚についてどのような捉え方、感じ方をしているのかにずっと関心がありました。それは、じつは五感といわれる知覚以外にも様々な知覚がこの宇宙にはあり、健常といわれる人間にしてもはそのうちのいくつかの知覚を持たずに生きているのではないか、と思っているからです。自分がグラフィックデザイナーであることと、地球上では五感のうち「視覚」障害がいちばん大変なのではないかとの思いから、先天的全盲の方々の視覚に対する考え方を伺ってみたいと思っています。山田様のこの記事はとても勉強になりました。ありがとうございます。