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精神障害者カップルのケンカと仲直り|精神障害者が語る恋愛・結婚・性について5

今回は恋愛も結婚も性も、めでたく二人そろっての門出となったカップルさんたちでも避けては通れぬ(?)、「ケンカ」「仲直り」についてお話ししてみようかと思います。

 

恋も愛も100点満点なんて、ない。

 

でもね、ケンカや仲直りを通して深まる絆もあるんです。

 

ただ注意したいのが、「精神障害者の離婚率」というちょっと怖い数字も厳然としてあります。

 

精神障害者カップルに、明るい未来を!

 

例によって順番に見ていきましょう!

 

では、行ってきまーす!

 

 

犬も食わないハズが……

誰だってケンカもするし仲直りもする。それは当然のことです。

 

しかし、精神障害者当事者さんのカップルや、片方が精神障害者の当事者さんであったりすると、実はケンカも仲直りもきわめて難しいんです。

 

「でもふつうそういうのは誰だってあるし乗り越えてきてるんだから……」

 

その通りです。

 

ところが「ふつう」の範疇にない、もしくは「ふつう」に夫婦生活を営むだけで、手一杯の精一杯なのが、精神障害者どうしのカップル。

 

ケンカは誰でもする。それはできます。ですが、問題がそのあとなんです。

 

 

本来持ち直せる関係を、再びもとの位置へ戻しにくいことなどで、「一度壊れたらとても直しづらい関係」にあると…言葉はきついですが、事実、精神障害者同士のカップルは非常に繊細で絶妙なバランスに成り立っているのです。

 

このことで「夫婦喧嘩は犬も食わない」ハズが、「関係修復に向けて、本人さんたちには大変な努力を強いている」といえます。

 

 

【夫婦喧嘩は犬も食わない】

何でも食べるはずの犬ですら夫婦喧嘩には見向きもしないところから、夫婦喧嘩はたいがい些細なことが原因で起こり、すぐに仲直りするから放っておきなさいという意味。

 

ちょっと怖い数字

ここにひとつの論文があります。

 

タイトルは『精神科作業療法を継続している入院統合失調症患者における社会精神医学的側面一結婚と就労を中心に』。

 

2006年の論文です。

 

この論文から一部引用します。※要するに精神障害者は離婚率がほかのひとと比べて高い、という箇所です。

 

精神障害者の結婚状況 についての過去の報告では,未婚率および離婚率の高さが指摘されている.田中ら10)は,未婚率は男女 ともに55%前後であり,離婚率は約20%であったと報告 している.下山ら11)の調査では,離婚率は34%であった.和田ら1)の調査では,未婚率は74%,離婚率は75%であった.今回の調査結果では,結婚率が26%,未婚率が74%であ り過去の報告 とは同様であるが,離婚率は82%……

 

精神科作業療法を継続している入院統合失調症患者における社会精神医学的側面 一結婚 と就労を中心に』加 藤 拓 彦1) 小山内 隆 生1) 和 田 一 丸1)

 

2023/06/30-08:56 取得(強調は煙亜月による)

より

 

ただ、数字にブレが大きい論文で、参考にするにはちょっと頼りないです。

 

でも皆様も『最近の日本の離婚率は35%と、実に3組に1組が離婚している』というのはニュースでご覧になった方も多いと思います。

 

しかし事実、病気の増悪が原因で正常な判断がしづらい、できない状態で自暴自棄・悲観的になり、自ら離婚を切り出すこともあります。

 

参考:うつ病と離婚の関係とは?離婚率や注意点を弁護士が解説」-弁護士 宮崎晃 弁護士法人デイライト法律事務所

 

 

離婚は最終手段だけど…

離婚は最終手段です。一番よくない結果ともいえます。

 

でも、自衛手段としていつか使うかもしれないことだけは念頭に置いてください。

 

もちろん、そこへ帰着しないようわたしたちは頑張っているのです。

 

嫌なことも悲しいことも寂しいことも腹立たしいことも、ぜんぶ我慢して幸せになるために。

 

『結婚そのものが失敗だった』という場合もあるにはあるのでしょうが、なににつけ成功・失敗を決めるのはほかでもない、お二人なのです。

 

本気で離婚を考える前に、距離を置く、頭を冷やすというのも考慮しましょう。

 

ただ、しばしば『第三者に仲介してもらう』ことで、かえってこじらせることもあるので、仲介人の選定には慎重さが求められます。

 

お二人のいずれかの血縁者でしたり、ご友人であった場合、どうしても肩入れするもの。

 

もちろん、割って入るより先に、「二人のことなんだから、周りがとやかくいうより二人で決めた方が……」と、かえって気を遣われることだってあるでしょう。

 

しかしお二人には、二人の危機を回避するなり立ち向かうなり、ただでさえ病気や障害などで疲れやすいのに関係修復を当事者間だけで行なうには、体力面・メンタル面ともにハードルが高いです。

 

先ほども申しましたが、里帰り・入院で結婚自体が自然消滅することだって十分にあり得ます。

 

周囲の人間もどこまで支援したらいいのか分かりません。

 

五里霧中です。

 

Dr.や看護師さん、MSW(社会福祉士)やPSW(精神保健福祉士)などの専門職しか頼れないことだってあります。

 

そんな中、結婚生活を優先するか、ご自身たちの体調を優先するか。

 

この二択を迫られる可能性だって少なくありません。

 

 

 

喧嘩をしたら

ケンカの原因——つまりその発端や、どちらに非があるかとか、ああいったこういった私は悪くないそろそろ潮時云々かんぬん……

 

もし今『罪のなすり付け合い』をしているのなら、積極的に頭を冷やしてみるのは有効でしょう。

 

なぜなら、

 

ふたつのパーソナリティがぶつかった以上、過失割合は10:0にはならないんです。といいますか、もれなく5:5です。

 

もしくは5:5を理想とします。なぜって、二人とも生きていますし喋ったりもします。

 

泣いたり笑ったり、生き生きとした人生を送る権利があって、そしてそれに向かうための努力は、皆さん一様に負っているはずだからです。

 

さらに、過失割合が5:5の方がいい理由の一つが、二人とも同じだけ努力して関係回復に努める方がフェアであり、それが夫婦の姿だと思うからです。

 

相手に頼まれて夫婦をしているのではないからです

 

 

喧嘩をしたら2:自分は悪くない!と思った時

「それでも俺は悪くない!」

頑としてそうおっしゃる方もいます。

 

理由はどうあれ、怒り心頭に発し、ケンカが勝負ごとになって、相手から謝罪の言葉を引き出したい、と。

 

この場合は積極的に話をしたり、無理に距離を詰めるべきではありません。火に油を注ぐようなものです。

 

どうか注意してください。

 

少し冷却期間を置いて、激しい怒りが収まると『あるとき急に我に返る』瞬間が訪れます。

 

それが冷めるとなる場合もあり、『怒りとともにパートナーへの興味関心が薄れる』ことがあります。

 

そこで別な手法で頭を冷やすことが必要となります。

 

距離も時間も十分に取って、相手に寄り添いながら頭を冷やすのです。

 

ちょっと冷却期間を持ちました。

 

少しずつですが冷静さも取り戻しつつあります。

 

やがて聞く耳を持ち始めました。

 

そんなタイミングが来たら、真正面から話し合うのではない、冷静さを保ちつつ再燃を防ぐ手法の一つ『背中合わせ』という小技を試してみましょう。

 

喧嘩をしたら3:背中合わせ法を試そう

実際の内容としては、

 

 

この『背中合わせ』が通用する範囲は広いです。

 

ただし、むずかしいのは「背中合わせをしよう、といい出しにくいこと」

 

「自分からいい出したら『折れた』と取られるのでは?」と思うかもしれません。

 

ただ、家庭は夫婦の場。積極的に改善して修復することが是とされます。

 

別に勝敗なんて関係ありません。過失割合5:5を目指し、恐れず提案してみましょう。

 

「ねえ、今日寝る前〇〇(呼び方は何でもOK)やらない?

 

そのひと言をパートナーさんは待っていたのかもしれませんし、「背中合わせ法」を通じて何らかの発見があるかもしれません。

 

「なんか、背中瘦せてない?」

「あなたの背中、あったかいね」

「付き合い初めだったら、これ、心拍数ぜったい上がるね」

「……そっち向いていい?」

「まだダメでしょ」

「なんだよその謎ルール」

 

なんて、活発に会話が進むのはまれでしょう。

 

この時間のほとんどを占める沈黙を無為とするか、相手を想う時間とするかはお二人次第です。

 

お互いがお互いのためになるように用意した時間。ぜひ有効活用してみてください。

 

 

病気・障害に原因? 防ぎにくいケンカについて

躁うつ症(双極性感情障害)の方で躁相(躁状態)の方、物質(アルコールなど)やプロセス(ギャンブルなど)への依存のある方、対人関係・または日常生活を送る上で極端に不都合を感じていらっしゃる方、その他家族やご身内と衝突しやすい状態にある方は、本人さんにその意思がなくとも病気によってケンカとなることもあります

 

その時はぜひ『通院・服薬がきちんとできているか確認し、そのことを褒めましょう

 

そして『それ以外は医師やカウンセラーの指示に従いましょう。共倒れにならないようにしましょう』

 

なにより、『あなた自身を最大限、大切にしましょう

 

引きずり込まれないようにして、その方が入院されたり、あなたがご実家などへ避難したりすることも視野に入れましょう。

 

もちろん、あなたも人間です。

 

聖母マリアでもナイチンゲールでもマザー・テレサでもありません。

 

傷ついて裏切られて期待しては肩透かし。これで根気強く頑張れという方が酷なもの。

 

最終手段が脳裏をよぎる局面だってあるでしょう。

 

しかし義務的に考えず、たとえ縋り付いてきても——いちばん最悪な言葉なので使うにためらいがありますが——一緒に天国へ行こうなどとは絶対に考えてもいけません。

 

とはいえ人のさが、おいそれと放っておくこともできないですよね。

 

ではどうすれば?

 

—―諦めることです。

 

自分ひとりの力

諦めるとは何を? 支える側として、何をどう諦めたらよいのでしょうか?

 

 

という誤解を捨てることです。

 

あなたはもう十分頑張りました。

 

ご自身のご病気もありながら、パートナーに全力で奉仕しました。でも、もうお分かりでしょう。しかし、認めたくない。

 

でも事実あなたでは力不足なんです。

 

誰もあなたを責めない。責めようがない。

 

120%、いや200%の力でサポートし献身と自己犠牲を示してきたあなたへは労りの言葉はあっても、この上さらになじったり、鞭打つようなことは断じてあってはならない。

 

 

すべてその通りです。

 

あなたの力でどうこうなるものでもないのに、あなたへばかり負担がかかり、挙句、責任をかぶせようとする。

 

あきらめるべきは『あなた自身の力』です。自分一人で戦うという行為です。

 

 

この病気・障害は人海戦術です。

ひとりで戦うには分が悪い。

 

 

 

一人ではない。決して一人ではない。

人海戦術と表現しました。

 

外部の相談機関、利用できるサービスはさまざまです。

 

 

これまでひとりで戦ってきたあなたが利用していないサービスは見つかりましたか?

今まで孤立した戦闘だったあなたの『努力』は、いとも呆気なく報われることだってあるんです。

 

以下、簡単に説明していきます。

 

各種公的サービス類の説明

移動系

「行動支援」は、国が対象者(精神・知的)を定めた、重度の知的・精神障害(自閉スペクトラム症など)を持つ方への外出中の介護、危険回避などを行なう事業。着衣脱着・排泄・食事介助を含む。

 

「移動支援」は、市町村が対象者(精神・知的・視覚・肢体)を定めた、単独では移動が難しい方への社会生活上(選挙、冠婚葬祭、買い物含む)の支援。

 

※なお、似たような名前の「同行援護」についてですが、これは視覚障害者に限定したものです。

 

輸送系

「福祉有償運送」は単独でタクシーなどを使うことが困難な障害者の方や要介護(支援)認定者の方などへ、病院の行き来や移動などに通常のタクシーの二分の一程度の負担で利用可能なサービスです

 

自治体・NPOなどが提供するサービスですが、参入・撤退が頻繁なのもこのサービスの特徴。

 

車両数も都道府県でかなりの差異があり、もし利用してみたい、と思われた方はワーカーさんなどにご相談してみてもいいでしょう。

 

滞在系

「デイケア」は認知度の高いサービスでしょう。基本的に日中の6時間のなかで、リラックス、リフレッシュの時間を提供します。

 

 

※「〇〇系」という呼称は便宜上のものです。公的な名称ではありません。

 

このように様々なサービスもありながら、それぞれの申請や窓口がどこになるのか分からない、誰にどう相談したらいいのか分からない、といったことで利用しきれていないサービスもあるかと思います。

 

まず一番の窓口は医師です。

 

医師が地域医療連携室なり、ワーカーさんが詰めていて病床数もそこそこある提携病院なりにお話を持って行くかと思います。

 

おおむね市区町村役場で障害支援区分認定調査を依頼し、そののち調査員(主に業務委託された民間の調査員)による調査を経、医師の意見書とともに審査にかけ……

 

と、七面倒くさいのですが、ここでは「ケンカと仲直り」にフォーカスするため、障害支援区分認定調査絡みのお話はいったん終わります

 

とにかく、医師や社会福祉士さん、ケアマネさんやそれに類する職種の方に話を持っていければOKです。

 

 

 

『そもそも論』を展開しましょう

『わたし、なんでこの人のこと好きになっちゃったんだっけ?』

 

という問いへ。

 

——あの頃のあなたは素敵だった。今でも素敵だけど、ちょっと素敵の種類が変わっちゃった。

——好きか嫌いかっていうと、まあ、好きだけど。

——でもどうしても「この人じゃなきゃダメ!」ってのは薄れてきた。

——だからってケンカ別れするのはもったいない気がする……。

 

葛藤もあるかと思います。

 

「本当にこの人が大好きでこの人じゃなきゃダメで少しくらい我慢してでも一緒にいたい」か?

 

——そう訊かれると「うーん……」となるかもしれません。

 

だって、お二人、ケンカ中ですから。

 

ちょっと先の未来を考えましょうか。

 

ケンカも仲直りもひと通り終わって、元の鞘に収まり、パートナーさんが「あー、その……ゴメンね」と切り出して、もしくはあなたがご自分でそう切り出して、それでパートナーさんが「いや、自分の方こそ……」ともじもじと話し出して、そうすれば残るのは禍根ではなく照れくささと『なんでああなっちゃったんだろ?』という素朴な疑問です。

 

ケンカするの、もったいないですよね。

 

できればずっと仲良くしてにこにこしていたいですよね。

 

そのためにはちょっと折れて差し上げるのも、ちょっと公的サービスを利用するのも、それで今日お二人が仲直りするための方便なら、少しくらいはよいではないのでしょうか。

 

 

 

最初の質問。

『わたし、なんでこの人のこと好きになっちゃったんだっけ?』

 

次の質問。

「本当にこの人が大好きでこの人じゃなきゃダメで少しくらい我慢してでも一緒にいたい」か?

 

それらへの答え。

「そんなの、答えられなくてもこれだけ夫婦やってるから大丈夫だよ!」

 

理屈じゃないんですよね。

大丈夫。

誰もあなたたちを咎めないし、責めたりしない。掴んだ幸せをどうか大事にしてください。

応援しております。

 

 

 

 

結びに

いかがでしたでしょうか。

 

今回は精神障害者のケンカと仲直りについてお話してみました。

 

一部表現の強い箇所もありましたが、平にご容赦いただけると幸いです。

 

ケンカをするにも仲直りをするにも一筋縄ではいかない精神障害者カップル。

 

そのいずれにもたいへんな体力、精神力を消耗します。

 

その過程を経て、夫婦は夫婦となってゆくものだとわたしは思います。

 

皆さんに幸あれと願うばかりです。

 

それではまたお会いしましょう。

それまでお元気で。

 

▼参考▼

精神障害者が語る恋愛・結婚・性についてシリーズ

 

 

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煙亜月

15歳で入院中の精神科病院にて焼身自殺企図(70%熱傷)。計8回の全麻下植皮術・熱傷再建術をおこなう。自家移植が不可能となり、通信制高校入学。看護大学に事実上2浪し入学するも中退。B型作業所にて労作しながら精神科入退院を繰り返し、障害者枠で団体職員。契約期間満了で離職の直後に結婚。障害者枠で介護施設に就職。在職5年目ほどで介護福祉士試験合格。妻が投身自殺企図(既遂)し、自らは腰椎椎間板ヘルニアで介護施設退職。今後デスクワークで食うべく社会福祉士・精神保健福祉士の取れる福祉系通信制大学に入学。在学期間中の生計を立てるための職探しも並行しておこなっている。
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