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【精神疾病者の体験談】ピアスタッフという就労|可能性とその役割を当事者目線で語る

隅田川沿いの桜

最近、多くなってきたピアスタッフ。

 

ピアスタッフとは、精神保健福祉の施設で働く精神疾病者の当事者のことです。

 

働き先はさまざまで、最近、精神保健福祉の現場ではピアスタッフが増えている傾向にあります。

 

そんな中で、現場ではピアスタッフの導入の良さ、スタッフにする時の対応の方法、気をつけるべき点を知りたいという方が多くなってきたのではないでしょうか。

 

夏目

この記事ではピアスタッフ当事者である筆者が体験を交えてそれについて書いていきます。

 

この記事で、客観的なピアスタッフについての情報と体験を交えた実感が少しでも感じて頂ければ幸いです。

ピアスタッフとは

ピアサポートとは、同じ問題や環境を体験する人が、対等な関係性を仲間で支え合うことを指します。

 

また、ピアサポートの他ピアカウンセリングと呼ばれるものがあり、ピアで相互に行う個人レベルの相談・支援活動のことを指します。

 

ピアリスニングでは、傾聴するだけで情報提供は行いません。

 

つまり、ピアサポートは、「同じような立場の人によるサポート」であり、相談に力点を置いた「ピアカウンセリング」、傾聴に力点を置いた「ピアリスニング」など類似の呼び方があります。

 

セルフヘルプとは、専門家の助けを借りずに、自身の問題を当事者で解決することを指します。

 

夏目
また、ピアスタッフ以外にもピアサポーター、当事者スタッフなどという風に呼ばれることも。

 

 

精神疾病者の就労におすすめ

夏目
ピアスタッフの当事者である私の経験から、精神疾病者の就労に精神保健福祉業界はおすすめです。

 

自分が通っている福祉施設が好きになり、自分もスタッフになってみたいと思う人は多いのではないでしょうか? 

 

社会福祉士や精神保健福祉士、看護師や作業療法士などといった、精神疾病の知識がある同僚たちですので、とても働きやすく、就労しやすいでしょう。

 

また、ピアサポート体制加算とういものがあり、一部の障害福祉サービス事業所で働くピアサポーターが所定の条件を満たす場合、事業所に100単位/月が加算されるという制度で2021年4月1日に始まりました。

 

1単位は10円を指します。

 

 

ピアスタッフがいることで職場に生まれる良い影響

ピアスタッフを採用することで、良い効果が色々と得られます。

 

まず、ピアスタッフは職員と利用者の境界にいるため、利用者に対して共感を持って目線を合わせることができるでしょう。

 

また、疾病を持たないスタッフではわからない疾病体験から分かる情報を伝えることができます。

 

しかし、その時に注意すべき点があるんです。

 

夏目
それは病気によってそれぞれ症状が違うため、ピアスタッフの体験とは違うかもしれないことです。

 

また、疾病を持たないスタッフが仕事の結果を重視した時、ピアスタッフがいることで別のベクトルへ施設を向けていく作用があると思います。

 

ピアスタッフがいること自体、「誰でもいていいんだ!」と思える施設になっていくのではないでしょうか。

 

 

ピアスタッフとしての経験

私は、不安障がいを併発している発達障がいの友人がいます。

 

月に一度、診察の時に待ち合わせをしてラーメンを食べに行き、そこで相談にのります。

 

その時に大切なことは一方的に、「してあげている」という感覚よりも、「友人」として対等にいることです。

 

彼の悩みを聞くだけでなく、自分の悩みも打ち明けるようにしています。

 

夏目
その体験が、ピアスタッフになる原点です。

 

彼は就労中でストレスをため離職してしまいましたが、私のピアサポートのおかげかは分かりませんが専門学校に進学しました。

 

ピアサポートであっても「決め付け」が一番よくありません。

 

そんなの失敗するよ、というのは、主観の入った決め付けです。

 

それをぐっとこらえて、「ストリングス」と呼ばれる強みや関心を引き出すことが大切だと感じています。

 

このようなことに気づいたのも私の失敗経験があったからこそです。その失敗談をいくつかご紹介いたします。

 

 

間取りが分からない

失敗談その1。

実は、地域活動支援センターで働くうえで、とても大変な思いをしたことがあります。

 

事務所の引っ越しをするため、ミーティングで間取りを決めたときのことです。

 

私は全く会話に参加することができませんでした。

 

間取りなどに全く知識がなく、どうしたらよいものかというありさまで…。

 

なので、家に帰ってから間取りの決め方をインターネットで調べました。

 

夏目
次、自分のプライベートなどで間取りを決める時はできそうです。えっへん。

 

精神疾病者も、外で働くことでこのような体験をする機会を得ると思います。でも、その時はどうか必要以上に落ち込まないで欲しいのです。

 

精神疾病者ができないのは、経験や体験が欠けていることが多いからです。

 

体験や経験は積んで行けば良いだけのこと。

 

心理的な壁、社会的な壁を乗り越えて、いろいろな職業に挑戦することは経験から様々な学びを得る機会になると感じました。

 

 

クローズドがオープンになった日 

失敗談その2。

 

夏目
私は最初はクローズドにして、就労しました。精神疾病があることを隠していたんですね。

 

精神病院の就労継続支援の作業所に納品に行く時に知り合いに会った時はどきどきしましたが、うまくやりすごすことができました。

 

しかし、同じ病院に通う人が私の就労した地域活動支援センターの利用者として通所していて、分かってしまったんです。

 

当然、上司にはなぜ隠していたのかを問われました。

 

私は正直に「クローズドで働きたかったからです」と伝えました。

 

幸いなことに上司は理解のある方で、継続して就労させてもらっています。

 

でも、もし皆さんの身にこのようなことが起こっても、おそらく失職する可能性は低いと思います。

 

精神疾病者に理解のある専門職の人が上司なので、ピアスタッフとして受け入れてもらえるからです。

 

それよりも肝心なことは、仕事で職務内容などをきちんと守り、コミュニケーションで大きな「事件」を起こさないようにすることですね。

 

 

セミナーに集中しすぎる 

失敗談その3。

 

私は普段から本をよく読むのですが、ピアサポート研修の時に、Zoomを使った研修に集中しすぎて、一緒に研修を受けていた立ったり座ったりする利用者に冷たくあたってしまい注意されることがありました。

 

勉強好きがここでは悪い方に出てしまったのですね…。

 

しかし、これを機会に集中して仕事に取り組めない人には、振り返りを一緒にしたり、「もう一回席を立ったらフリーにしようか」などの声かけをすることを学びました。

 

 

支援を拒む心理

よくよく、現場を見ていると、よく統合失調症や鬱病などの人が、知的障がいの人や発達障がいの人に作業を教えたりすることが多いことに気がつきます。

 

しかし、知的障がいや発達障がいを持つ人は、教えられる側に立つため「自力で自立したい」という想いが生まれてきます。

 

ピアサポートする側は、「支援したい」「助けてあげたい」「教えてあげたい」と思うのですが、ピアサポートをされる側は、「馬鹿にされている」と感じることもあるでしょう。

 

ピアサポートする側はサポートするのを少し減らし、ピアサポートされる側は「助けを借りる力」を養うことが大切です。

 

東大で教鞭をとる地震も障がいをお持ちの熊谷晋一郎さんは「自立とは助けを借りる場所を増やすこと」と述べています。

 

 

支援の基本は謙虚さ

支援の基本は謙虚さにあると思います。

 

スタッフだったとしても、利用者だったとしてもです。

 

謙虚さのなかに、優しさが生まれてくるものではないでしょうか。

 

サポートが自分よがりで、自分の欲求を満たすため、自分を偉くするためになってしまわないように、自己反省が必要です。

 

例えば、知的障がいを持つ人は、作業への参加率がとても高い傾向にあるように感じます。

 

精神的に不安的になったり、人に暴力を振うことも比較的少ないです。

 

発達障がいを持つ人やアスペルガーの人は、とても几帳面であったり、記憶力が良かったりします。

 

統合失調症の人は、芸術や表現活動に興味を持っている人が多いと感じますので、それぞれの個性を活かした支援が必要なのではないでしょうか。

 

 

支援は「褒める」「趣味の情報交換」でもOK

ピアサポートを始めてみようかと考えている方にひとつ言えることは、「サポート」という言葉にこだわりすぎないほうが良いということ。

 

サポートに徹するというよりは、相手のことを褒めたり、趣味の情報交換だけでもいいんです。

 

自分の辛かった体験を話すことが、かえって相手に「私と一緒だ」と思ってもらえるかもしれません。

 

一番、大切なことは「友人」として接することです。

 

支援者ではなく友人になる。

 

あくまで対等な人間同士で関わることが大切です。

 

そこが乗り越えられれば、うまく行きます。

 

 

夏目流「ピアダイアローグ」とは

私は自分でピアダイアローグと読んでいるものを実践しています。

 

「ダイアローグ」とは対話のこと。

 

音楽や芸術など趣味のことをただ話すだけのことが多いです。

 

冗談を言い、その中で、少しだけ相手をサポートします。それをスタッフとして行っています。

 

精神疾病者も、自分の好きなことがあり、それを「情報交換」しあえる相手を探しています。

 

スタッフらしいスタッフよりも、「冗談のいいあえて、好きな趣味の話が話せる優しいお兄さん」が理想だと思っていてそれを実践しています。

 

夏目
自然体でいることが大切なんです。

 

 

ピアスタッフを増やすために必要なこと

ここからは、作業所としてピアスタッフを増やすために必要なことを書いていきます。

 

まず、回復したとはいえ、強いストレスはピアスタッフの体調悪化につながってしまうことは容易に想像できます。

 

精神疾患にかかったことのない方だって、強いストレスに晒されれば体調を崩してしまいますよね。

 

とくに、人間関係のストレスはかけないように配慮した方がいいでしょう。

 

仕事なので注意することはあると思いますが、体調には配慮してもらいたいと考えています。

 

また、ピアスタッフ自身についてもストリングスを持っているため、そこを伸ばすといいのではないでしょうか。

 

夏目
「障がい者」として接するのではなく、スタッフとして接してあげてください。

 

また、基本的なことかもしれませんが、精神疾病者は疲れやすいため、休日出勤はさせないこと。

 

精神疾病者は気にしてしまったりして断ることが難しい場合があるため、周りから言ってあげて欲しいです。

 

健康な人もそうだと思いますが、休日をインターバルとして精神状態をリセットしたり、疲れを鎮静化させているので休日出勤は控えるようにさせてあげてください。

 

 

まとめ

ピアサポートとはサポートに拘らず、友人として自然体で接することが大切ということをお伝え出来たらとお伝えしましたが、いかがでしたでしょうか?

 

ピアスタッフを採用することは、決断しにくいことかもしれませんが、ピアスタッフがいることで、利用者さんの辛さを分かってあげられたり、それをスタッフへ伝えることが出来たりします。

 

利用者とスタッフへの架け橋になるのがピアスタッフでもあると思うのです。

 

ピアスタッフがいることで、とても温かい職場になることでしょう。

 

ぜひ、事業所の方は考えてみてくださいね。

 

 

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夏目作弥

精神疾病の当事者であり、ピアスタッフを経験。精神疾病を持ちながら送る日々を綴った人気エッセイを作業療法室にて連載しています。当事者と支援者の両方の経験から見えてくることを、体験談と客観的な視点から綴らせて頂きます。働くことを根本から見つめ、精神疾病者の新しい働き方をご提案します。精神保健福祉ライターの他、文芸創作もしています。『シナプスの笑い』にて夏目作弥としてエッセイや小説が入選。こちらもぜひご覧ください。詳しいプロフィールはこちら→夏目作弥
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