精神疾患の当事者の夏目と申します。
筆者は、芸術療法が精神疾患にも効果があるということを知り、自分でも取り入れながら過ごしております。
ただ、芸術療法といっても多種多様なものがあり、「何を選んでいいかわからない…」といった声も多いです。
そこで今回は、芸術療法の種類をまとめ、活用する目的を1つずつ紹介していきます。
ぜひあなたに合った芸術療法を見つけていただく「きっかけ」になれば幸いです。
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芸術療法を活用する目的
芸術療法の目的は、言葉にできない無意識的なものを、表現し、それによって浄化されることと言えます。トラウマの体験や苦しみを言葉以外の視覚芸術で表現することで、癒しを得て、治癒の効を求めるのが芸術療法です。
また、言語におきかえられない感情も造形物なら表現できます。でも、多くの芸術家が自殺してしまうように、大きな情動があり、それによりショックをうけてしまうという危険性もあります。
そのことに注意しながら、芸術療法に取り組みましょう。
芸術療法の目的
- 形あるものにし、トラウマと向き合う
- 自尊感情を高める
- 好奇心・意欲の回復
形あるものにし、トラウマと向き合う
芸術療法は、視覚的に捉えられるものを作ることで、そして作ったものを自分で解釈することによって、深くトラウマや生の苦しみと向き合うことができます。そして、心の中で封じ込めておくだけではなく、外部に造形として出すことで、気持ちが楽になったり、整理されたりします。
それは先ほども書いたように、非言語コミュニケーションを通してであり、直接的にはトラウマと関係ないものであっても、それでも芸術療法として効果があります。
また、その距離が遠く、より深い表現であったり、抽象的表現にまで高められていると、表現としてより複雑で高度なものとなります。
自尊感情を高める
作った後、少しだけ自分のことが好きになったり、明るい気持ちになったりします。どこか、心のつっかえが取れたり、自分の中で奥深く突き刺さったトゲを抜くことができたりすることで、前より前向きに状況を捉えたり、自分を好きになることができます。
好奇心・意欲の回復
最終的に、生活全般に対し意欲を取り戻すことができ、外部や他者に注目する力も高まります。自閉的だった世界が、開放的になり、何に対しても前向きになり、いろいろなことに興味を持ち、人生をより豊か生きることができるようになります。
このことが芸術療法の最終的な目的です。自分の精神的な課題に取り組むことにエネルギーをかけていた状態から、より現実的な課題に取り組む力を芸術療法から得るのです。
芸術療法の活用方法
芸術療法には、ありとあらゆる芸術を用いることができます。鑑賞することで癒しを感じることもありますが、主に自分で創ることを治療法としています。
ここから、その一つ一つを説明していきます。芸術療法をすることで、カタルシスを得ることができます。芸術療法では主に、対話以外のものを用い、言語では現しきれない深層心理を描くことに主眼をおきます。また、創造されたものを治療者が診断するのに用いることも行います。
どの芸術が適し、効果があるかは、作る人によって違うため、見極める必要があります。例えば、自由度が高い芸術を用いる場合は、深い自己表現が可能となります。
しかし、自我機能の脆弱な人は、脆弱な防衛がさらに弱体し、心理的な危機に陥る可能性があります。自由度の高い技法を用いる際には注意しましょう。
アートセラピーの実践例
アートセラピーの実践領域としては、
- 病院の精神科
- 緩和ケア病棟
- 高齢者施設
- デイセンター
- デイケア
- ケアする人のケア
- 学校・教育現場
- しょうがい児/者施設
- 災害後の被災者ケア
- 患者会・家族会
- 犯罪者への強制治療
などがあります。
芸術療法の種類
ここでは、可能な限り挙げてみたいと思います。
- 絵画療法
- 音楽療法
- 心理劇療法
- 箱庭療法
- 舞踏療法
- 詩歌療法
- コラージュ療法
- 書道療法
- 造形療法
- 写真療法
- 歌唱療法
- オイリュトミー療法
絵画療法
人間の心の奥底にあるものを創造する芸術であり、そこには本能や願望などが現れ、うつ病などに効果があると言われています。
絵画療法はその名のとおり、絵で表現するものであり、芸術療法のなかでも歴史が古く、効果が大きいといわれています。
また、ゲームに用いることもできます。課題で絵を書いてもらい、そこから性格や願望などを推理するものです。
絵画療法の方法
絵画療法にはさまざまな方法があります。もっとも一般的なのは自由画です。自由画とは、思いついたままに描く方法です。この他には
- 家族画
- 人物画
- 樹木画
- 夜見た夢を書く画
- 家の見取り図
など、課題を書く方法もあります。家や木、川、道などを提示して書いてもらう方法もあります。
絵画療法の特徴
絵画療法のすぐれた特徴は、
- 言葉や文章とちがって誰にでも比較的容易に表現できる
- 作品として保存でき記録としてレビューできる
- 複数の作品を保存すれば症状の履歴が確認できる
- 作品と挟んで患者と医師が話し合うことができる
などがあげられます。
音楽療法
音楽療法とは、音楽の特性を活用するプログラムを通じてリハビリテーションを行う療法です。
- 健康の維持
- 心身の障害の機能回復
- 生活の質の向上
- 問題行動の改善
などを目的に行われます。
対象者のニーズを叶えるために音楽療法は行われるので、障害がなくても、子供から高齢者まで全ての年齢・性別で適応することができます。
音楽療法をすることによって音楽の特性を理解して、音楽をリハビリテーションとして用いるための技術を有していることが大切です。対象者の状態、ニーズを適確に理解し、その患者さんを回復させるために用いることが必要です。
音楽療法の効果
音楽療法には、
- 不安や痛みを和らげる
- 精神的に安定し、自発的・活動的に生きることを促す
- 身体の運動性を向上させる
- 表情や感情を表に出し、コミュニケーションを支える
- 脳を活発にさせて、リラックスする
などの効果があります。
心理劇
心理劇をする目的は、心の現実のしがらみから解放され、自分を見つめるために舞台上で演じるという点です。主役の人は、ドラマの場での悩みの解決を自発的に希望する人であると良いでしょう。
自分のトラウマなどの体験を演じることで、癒しの効果を得ることができるのです。
心理劇に必要な役者
心理劇には、
- 主演者
- 監督
- 補助自我
- 観客
- 舞台
主演者はどのようにふるまってもいいですし、監督は、具体的な場面を設定したり、参加者に役割を付与したり、その役割の交代を誘ったりします。
主に臨床者が監督としてふるまいます。補助自我とは、主演者のそばにいて、その人の自発的な活動や内面の感情の表出の明確化を促す役です。また監督の補助者としてふるまいます。
観客は、普通の観客とは異なり、主演者とともに劇を作っていきます。主演者の感情を探求したり、自分の課題をそこで展開する場面を重ねながら、考えていくこともします。
最後に舞台とは、心理劇が行われる場の設定者のことです。臨床者が主にその役割を果たします。
箱庭療法
箱庭療法とは、セラピストが見守る中、クライエントが思う通りに、砂の入った箱の中でミニチュア玩具を置き、また砂を使って遊んだり、表現したりする療法です。通常は、箱庭療法だけを独立して行うのではなく、言語的面接や遊戯療法のなかで、用いられます。
この療法では、砂やミニチュア玩具のイメージを活用することや、うまく作れたか、作れなかったかより、具体的な現実の生活を作品に反映させる次元から抽象的な非現実的な表現までが可能です。
箱庭療法の特徴
意識上にのぼっていることではなく、気がついていなかった自分の心身の状態や動きが直接的に感じられ、自分の心の中との対峙を通して、自己理解と人格変容を達成します。
子供から高齢者までが利用ができ、自己啓発の目的から神経症、心身症、パーソナリティ障害などに観られる病気まで適用可能です。
舞踏療法
舞踏療法とは、身体の動きを通して精神的治癒を行うものです。言葉を介さずに働きかけることで、内省や対人関係の変容を促すものです。
身体を使って言葉を使わずに表現し、情動が活性化しやすく、治療的な介入を行いやすいです。攻撃的、防衛的など、その個人の性格や対人関係のあり方は、さまざまな人の動きに現れます。
対象は、
- 健常者
- 心身症
- 神経症
- うつ病
- 統合失調症
- パーソナリティー障害
- 心身障害児
- 高齢者
- 被虐待者
- PTSD
まで幅広くあげられます。
統合失調症や、神経症レベルの防衛が強い者や、心身症や摂食障害など身体性を帯びた病態の者には、特に効果的です。
注意点
性的なニュアンスのある動作や接触は避けるべきです。治療者と患者は、転移(恋愛感情)を起こさないよう身体接触を避けなければなりません。
個人又は集団を対象とします。5〜10人の場合が多いですが、技法によっては100人以上を扱えます。
舞踏療法の種類
ダンスの種類としては、モダンダンスが多いですが、
- 舞踏
- 気功
- 民族舞踏
- ジャズダンス
- アレクサンダー・テクニック
- 自律訓練法
などがあり、施行者によってことなります。音楽は歌詞のないものにします。
詩歌療法
詩歌療法とは、詩や短歌や俳句を読んだり、作ったりすることで健康と明るさを取り戻す療法です。
詩歌は比較的短い言葉で表すことから、気力を多く使う必要がなく、また一瞬のインシュピレーションを表すのに最適です。詩歌は人間の最良の部分であるとともに、辛い体験や抑うつ感すら作品にすることのできる療法です。
詩歌療法の効果
小説や評論のように人に見せた場合に、多くの時間をかけずに読むことができ、また発表の場も比較的多いのが特徴です。アマチュアの歌会や詩の愛好会はたくさんありますし、作品を競う場も多くあります。
また、自分の中にカタルシスが生まれ、内面にため込んでいたものを文字にすることで、気持ちも楽になります。
私にとって詩や短歌は、人生の記録でもあります。
コラージュ療法
コラージュ療法とは、雑誌や広告、新聞紙などの写真や絵などを切り抜き、台紙に貼って作品をつくることで癒しを得る療法です。この療法の利点は、切り抜きから自分でどれをコラージュ するか選択し、貼るだけなので、比較的簡単に行うことができる点です。
また、誰かとつくることで、親近感が沸き、信頼関係を築くことにも役立ちます。なんどもコラージュ を繰り返すことで、自己の内面を振り返ることできるようになり、自分に対する気づきを得ることができます。
コラージュ療法の特徴
注意は気持ちが乗らない時に無理して作らない、上手い下手で判断しないことです。無理をしないで楽しみながら、つくりましょう。
ちなみに、ウェルサーチでも舘野智子さんがされている「ちぎり絵」もあるので、参考にしてみてください。
書道療法
書道は日本人にとって身近な芸術であり、学校でもよく使われます。
書道では、主に統合失調症の症状が改善されると言われています。書道をすることで、右脳と左脳の両方の活性化が期待できると研究されています。
書道療法の効果
書道がもたらす効果として、
- 視覚的認知力を高める
- 注意力・集中力をつける
- 統制された行為を遂行する
- 抑制的なものから脱する
- 衝動を抑える
- 作業記憶力強化
- 遂行能力強化
などの効果があります。
造形療法
造形療法とは、「物」を材料に作品を自由に「形作り」、そこに現れたイメージを読み取ろうとするもので、陶芸、彫刻、粘土、木工細工などの手法が用いられます。
造形療法の特徴
特徴は、絵画療法、コラージュ療法と比べて、心が直接表現される点です。
箱庭療法やコラージュ療法は、様々なものを選択でき、造形療法は自分自身で作り上げるという違いがあり、より直接的な表現となります。
写真療法
写真療法とは、人の心や身体に良い影響を期待して実施する実践的な写真活動を指します。写真にはセラピーとしての効果があります。
写真活動は、
- 生きがいや意欲の向上につながる
- 自信や意欲の向上
- 自立心や自尊心を高める
などの効果があります。
写真療法の特徴
一緒に撮られることで家族の絆を感じたり親近感も高まったりします。そのなかで、コミュニケーションが自然に増え、写真をコラージュすれば自分を見つめる機会になります。
写真を見ることで現実を直視させ、歪んだ記憶や認知を修正します。過去の記憶を引き出し、人生を振り返ることができます。自身の笑顔の写真を見ることで、ポジティブなイメージが心の痛みを緩和します。
歌唱療法
歌唱療法は、その名の通り歌って「脳を鍛える事」「判断力を鍛え、記憶力を鍛えること」を目的とします。
歌唱療法の方法
歌唱療法の方法として
- 大好きな歌を歌う
- 歌詞を覚える
- 詩やリズムに合わせて手指を動かす
などをして、普段日常では使わない脳を刺激します。
オイリュトミー療法
オイリュトミー療法(運動芸術療法)は、気功を用いた療法です。身体を動かすことによって、気の流れを活性化させ、心身をともに健康にする療法です。
オイリュトミーとは、ギリシャ語で「調和のとれた美しいリズム」を意味しています。母音や子音の響き、また音楽のリズムなどを、手足を使った固有の動きに表現します。
オイリュトミー療法の例
例えば母音A(アー)の動きでは、胸の前から両手を広げる動きで、心を開放して対象を受け入れます。衝動性や感情の起伏を整えます。
またE(エー)の動きでは、両腕を交差させる動きで、意識を目覚めさせます。対象との協会をつくり、自分を客観視する動きなどがあります。
芸術療法まとめ
あなたの好きなことや趣味が実は、メンタルケアに繋がることがあるのです。
お伝えしたように芸術療法といっても、いろいろな活用方法があります。
今回、芸術療法の種類と簡単な概要をお伝えさせていただきましたので、ぜひあなたに合った方法を試してみてください。
夏目作弥
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