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障がいがある方向けの短時間職業体験が育む「働く自信」|志村学園×レバレジーズの挑戦

緑と白の背景に黒い文字で「短時間職業体験が育む「働く自信」」「障害当事者が見た志村学園×レバレジーズの取り組み」と書かれている。 右側にはスーツ姿の女性がノートパソコンと書類を前に微笑んでいるイラストが描かれている。

障がいがあると「就職」という壁に必ず向き合います。

 

レバレジーズ株式会社の障がい者就労支援サービス「ワークリア」が、公立の特別支援学校「東京都立志村学園」の生徒向けに短時間職業体験プログラムを実施。

 

体調の波で長期実習が難しい生徒に、2時間半で「働く自信」を届ける取り組みを、障がい当事者の視点から取材しました。

特別支援学校の生徒へ”短時間でも働く実感を”

今回取材したのは、レバレジーズ株式会社が運営する障がい者就労支援サービス「ワークリア」が、東京都立志村学園と連携して行った短時間職業体験プログラムです。

 

この取り組みは、特別支援学校の高校生向けです。特に体調の波や不登校などで、長期実習が難しい生徒を対象としています。目的は、数時間の限られた時間でも「働くことへの自信」「将来の選択肢」を広げてもらうことです。

 

実習の舞台となったのは、レバレジーズ本社内にあるカフェスペースや会議室。生徒たちは社員と一緒に接客やドリンクづくり、商品選定会議への参加などを体験しました。

 

その後の座談会では、志村学園の卒業生でもあるレバレジーズの社員が登壇。実際に働いて感じたことや、学生時代に大切にしていたことを語りかけます。このプログラムの最大の特徴は、「教える側」も障がいのある社員であることです。

 

同じような立場の先輩が自分らしく働く姿を見せる。それによって、参加した生徒が“自分にもできるかもしれない”という実感を持てるよう工夫されています。

 

ジュン
障がい者の就職活動が1年以上かかる人が26.7%、法定雇用率を達成している企業がわずか46%。データを見るたびに、「やっぱりそうか」と思います。

 

体調の波がある私自身も、「続けたいのに続けられない」もどかしさを何度も経験してきました。

 

だからこそ、今回の短時間プログラムのような「小さな成功体験を積める場」の存在は、生徒にとっても企業にとっても、大きな一歩になるのだと感じます。

障がい者の就職活動、なぜ1年以上かかるのか?

障がいのある人が「働く」という一歩を踏み出すまでには、まだまだ多くの壁があります。就職活動にかかる期間を見ても、その現実は数字に表れています。

 

【データで見る障がい者の就職活動】
・初めての就職活動が1年以上かかった人:26.7%
・特に精神・知的障がい者は、身体障がい者の約3倍の期間を要する
・法定雇用率を達成している企業:わずか46

 

この数字を見て、私は正直「やっぱりそうか」と思いました。体調の波があったり、集中力の維持が難しかったりすると、働く以前に“就職活動の場に立つこと”さえ難しい

 

たとえ意欲があっても、その機会にたどり着けない人が多いのです。

特別支援学校で長期実習が難しい理由

特別支援学校では、職場実習を通して社会や仕事を学ぶ機会があります。ただ、それが「数週間単位」で行われる場合、体調の波がある生徒にとっては大きなハードルになる。

 

私も体調の波や調子の浮き沈みがあるので、この”続けることの難しさはよくわかります。

 

「頑張りたいのに、続けられない」

 

その経験を重ねるうちに、自信をなくしてしまう人も少なくありません。だからこそ、今回のような“短時間でも完結する職業体験”には大きな意味があるのです。

 

たとえ数時間でも、「やりきった」「社会とつながれた」という感覚を持てること。その小さな成功体験が、次の一歩を踏み出す勇気につながります。

企業の57.6%が「ゼロ雇用」という実情

企業にとっても、障がい者雇用は簡単なことではありません。実際、法定雇用率未達成企業のうち、一人も障がい者を雇用できていない企業は57.6%「まず一人雇う」という最初の一歩に、大きな壁があるのです。

 

2026年7月からは法定雇用率が2.7%に引き上げられますが、調査では約7割の企業が対応準備を始められていないという現状があります。そう考えると、企業が障がい者雇用に慣れていくためにも、今回のような”短時間の体験プログラム”は、お互いにとって大切なステップになるのだと感じます。

 

短時間職業体験プログラムが、生徒と企業をつなぐ理由

この取り組みの魅力は、生徒にとって「安心して参加できる場」であること。そして企業側にとっても「実際に関わるきっかけを作れる場」になっていることです。特に印象的なのは、同じ学校を卒業した先輩社員が講師を務めていることです。

 

“同じ経験をしてきた人が、今は社会で活躍している”——その事実が、言葉以上に説得力を持ち、生徒たちの心に届いているように感じました。次の章では、実際に行われたプログラムの様子――生徒たちの表情や、社員の自然なサポート、会場の空気などを中心に書いていきます。

 

職業体験プログラムのレポート

それでは、2時間半のプログラムがどのように進行したのか、会場の空気感や生徒たちの表情とともに、時系列でレポートします。

会場に着いた生徒たち|見えない緊張と不安

取材準備をしていると、志村学園の生徒さんたちが引率の先生と一緒に会議室へ入ってきました。

 

一人ひとりの表情を見ていると、緊張している様子が伝わってきます初めて訪れる企業のオフィスということもあり、椅子に座る姿勢や目線の向け方にも、どこか慎重さが感じられました。

 

私自身もそうですが、発達障がいなどの特性は見た目だけではわかりません。生徒のみなさんも、傍目から見れば特別な支援を必要としているようには見えないかもしれない。

 

けれども、実際にはそれぞれの中に「緊張」や「不安」を抱えている。その繊細な空気が、会場の中に静かに漂っていました。

初めての「働く」体験|カフェ接客に挑む生徒たち

レバレジーズの社員から当日の体験プログラムの流れが説明され、生徒さんたちは二つの班に分かれました。ひとつはカフェでの接客を体験するチーム、もうひとつは社員へ配るお菓子などの在庫チェックを行うチームです。

 

まず私が取材したのは、カフェの方のチーム。生徒さんたちはアルバイト経験がなく、“働く”こと自体が初めてです。それでも、指導役の社員の説明を真剣な表情で聞いていました。コーヒーマシンの操作方法や接客時の注意点を、一つひとつ確認していきます。

 

障がいの特性といっても、人によって得意不得意はまったく違います。「注意が散漫になりやすい人」もいれば、「人とのやりとりが苦手な人」もいる。私自身も吃音があります。もし自分がこのカフェ業務を担当するなら、正直、接客は避けてしまうかもしれません。

 

それでも生徒さんたちは、緊張しながらも前に進んでいましたもちろん、内心では「うまくできるかな」「失敗したらどうしよう」と思っていた人もいたはずです。でも、それでも動いてみる――その姿勢こそが、まさにこのプログラムの目的なのだと思います。

 

この体験会は、上手にこなすことよりも、「働くってどんなことだろう?」を知るための場そして、教える側の社員の方々も、真剣でありながら温かく、生徒たちが安心して挑戦できるように支えていました。

 

最初はぎこちなかった動きも、少しずつ自然になっていき、気づけば笑顔も見えるようになっていた。“働く”という言葉の中に、こんなに柔らかい空気がある。それを感じられた時間でした。

 

地道な作業の中で見えた「ひたむきさ」という強み

同時進行で行われていた、在庫チェック班の様子も見に行きました。こちらのチームでは、多くのダンボール箱に入ったお菓子を一つひとつ数えながら、丁寧に在庫チェックを進めていました。

 

こうした地道な作業は、正確さと根気が求められます。単純に見えて、集中力の持続や確認の丁寧さなど、実は多くの力を必要とする仕事です。

 

今回のプログラムは「障がいのある生徒さん向け」に企画されています。しかし作業を見て感じたのは、「どんな仕事が自分に合うのか」は、障がいの有無に関係なく誰にとっても大切だということです。

 

細かい作業を黙々と続けるのが得意な人もいれば、考えたり発想したりすることが好きな人もいる。体を動かすことで集中できる人もいます。いろいろな仕事を実際に体験してみることで、”自分に合った働き方”のヒントが見えてくるのだと思いました。

 

生徒さんたちは、社員の説明をしっかりと聞きます。一つひとつのお菓子を確認しては記入し、報告していきます。

 

手抜きをする様子はまったくありません。むしろ「ちゃんとやりたい」という気持ちが伝わってきました。

 

仕事にはスキルや能力ももちろん大切ですが、それ以上に大事なのは、こうした「ひたむきさ」なのではないでしょうか。障がいがあるから仕事ができるかな…と不安になることは私にもあります。

 

でも、生徒さんたちの姿を見ていると、“挑戦する気持ち”こそが何よりも尊いのだとあらためて感じました。障がいがあってもなくても、その姿勢をきちんと評価できる社会であってほしい――そんな思いが胸に残りました。

 

自由に意見を出せる場|商品選定会議が教えてくれたこと

次に行われたのが、社員と生徒さんたちによる商品選定会議。テーマは「カフェで提供する次の新メニューを考える」でした。今回のお題は”健康的なお菓子”。

 

会議と聞くと、発言するのに勇気がいる場面を想像します。大人の世界でも、自分の意見を言うのは簡単ではありません。

 

でも、この会議では、驚くほど自由でのびやかな空気が流れていました生徒さんたちからは、次々とユニークなアイデアが飛び出します。一見突拍子もないような提案も、社員の方々は一つも否定しません。

 

「それ面白いね」「なるほど、そういう発想もあるね」——どんな意見もきちんと受け止めてくれる姿勢が印象的でした。実際の企業会議でも、意見が否定されると次の言葉が出にくくなるもの。

 

でもこの場には、「正解を出すこと」よりも「一緒に考えること」を大切にする雰囲気がありました。それが、生徒さんたちの表情を自然に明るくしていったように感じます。

 

そして何より強く感じたのは、このプログラム全体を通して、“障がいがあるかどうか”は本質ではないということ。

 

確かに、発達障がいには特有の配慮が必要な場面もあります。けれど、それは「特別扱い」ではなく、誰もが働きやすくなる工夫のひとつ

 

仕事をする上で大切なのは、”一人ひとりが安心して意見を出せる環境”です。この会議の空気は、まさにその象徴のようでした。

 

失敗を恐れず、自由に発言できる場。障がいに囚われず、共に考え、笑いながら前に進んでいく姿。それは、多くの企業がこれから目指すべき理想の働く風景なのではないかと思いました。

 

先輩社員が語る「障がいがあっても働ける」リアル

一通りのプログラムが終わったあと、最後に座談会が開かれました。登壇したのは、志村学園を卒業し、現在レバレジーズで働く社員さんです。

 

自分が通っていた学校の後輩たちを前に、穏やかな笑顔で話しはじめます。「学生のころと社会人で違うことは?」「どんな仕事をしていますか?」生徒さんからの質問に、社員さんは一つひとつ丁寧に答えていきます。

 

“障がいがあっても働けるのか?”

 

それは生徒さんにとっても、当事者である私にとっても、心に残る問いです。話を聴いて強く感じたのは、環境が整っていれば障がいがあってもきちんとやっていけるということです。

 

企業が“配慮”にとらわれすぎると、その人の本来の力や個性を見落としてしまいます。大切なのは、「特別な扱い」ではなく、「お互いの理解」

 

社員さんが話していた内容も、まさにその姿勢を感じるものでした。無理をせず、自分のペースで、でも確実に責任を果たしていく。その姿が、生徒さんたちの未来の希望に自然と重なっていったように思います。

 

生徒さんたちにとって、この座談会は特別な時間だったはずです。”障がいがあっても働ける”という言葉が、単なる励ましではなく、目の前で生きている現実として伝わったのではないでしょうか。

 

ジュン
カフェでの接客、在庫チェック、商品会議——生徒さんたちは緊張しながらも、一つひとつの体験に真剣に向き合っていました。

 

特に印象的だったのは、商品選定会議での自由な空気感。どんな意見も否定されず、一緒に考える雰囲気が、生徒さんたちの表情を明るくしていきました。

 

そして座談会で語る先輩社員の姿が、「障がいがあっても働ける」という言葉を、励ましではなく現実として見せてくれた。その瞬間に立ち会えたことが、取材者として本当に嬉しかったです。

 

取材を通して見えた生徒たちの「前向きな力」

プログラム終了後、何人かの生徒さんや先生方にお話を伺いました。生徒さんたちは、緊張から解放されて少し疲れた様子も見られました。

 

しかしそれ以上に、「やりきった」という充実感に満ちた表情をしていました。私自身、障がいをネガティブに捉えてしまうことがあります。だからこそ、生徒さんも不安を感じているのではないかと思っていました。

 

ところが実際に話を聞くと、皆さん「楽しかった」「貴重な体験だった」と笑顔で答えてくれました。もちろん、今回の体験プログラムの雰囲気づくりが良かったことも大きな要因です。

 

でもそれ以上に、志村学園の生徒さんたちは自分の障がいをネガティブに捉えていません。その前向きな姿勢が、将来への不安よりも「期待」につながっているように感じました。

 

先生方の存在もまた大きい。生徒一人ひとりをしっかり見守り、信頼関係を築いている。だからこそ、生徒さんも安心して挑戦できるのです。

 

その温かな関係性が、ひとつの強みになっているのだと思います。私自身への”自戒”としても感じました。障がいがあることで、確かにできないこともあります。

 

でも、それを悲観するのではなく、「自分にできること」を見つけていく姿勢が大切です。健常者と比べて何ができるかではありません。自分がどんな形で社会と関わり、貢献できるか。その方向に意識を向けることが、働く上での本当の一歩なのかもしれません。

 

そして、障がい者雇用のこれからを考えて感じたこと。「障がいへの配慮」と「障がいに囚われること」は、似ているようでまったく違うということです。

 

配慮は必要です。しかし過剰に”特別”として扱うと、本来の力や可能性が見えなくなります。

 

今回の体験プログラムを通して改めて感じました。誰もが自分のペースで挑戦できる環境こそが、本当の配慮なのだと。

 

ワークリアさんの障がい者雇用の取り組みにについては、以前インタビューさせていただきました。

 

▼参考▼

相談できないが離職を生む|障害者雇用の定着率90%以上を誇るワークリアの支援策とは【前編】

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久田 淳吾

発達障害(ADHD・ASD)と吃音を抱える40代男性。今まで発達障害の事は知らずに生きてきたが、友人の話を聞いて自分にも当てはまる事が多すぎる事を実感し、病院にて診断を受けると見事に発達障害との認定を受ける。自分に何ができるかと考えた時、趣味の写真でプロの先生に話を聞く機会があり、吃音が強く出ていたことに気がついた先生が『君は吃音持ちだね。だったら吃音の方の気持ちがわかるはず。それを活かして吃音の方の気持ちがわかるカメラマンになったらどうか』という言葉を思い出し、発達障害者として同じ気持ち、舞台に立てる人間として趣味のカメラ、動画編集技術を活かして情報発信をする事を決意。
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