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すべての家族に”写真を撮る喜び”を 医療的ケア児・発達障害児にも寄り添う写真館

3階建ての建物を背景に、中央に白い文字でキャッチコピーが書かれている。 上部の文字は「すべての家族に “写真を撮る喜び”を」。 その下には「医療的ケア児・発達障害児に寄り添う写真館」と書かれている。 建物の外観は淡いベージュ色で、正面に大きな窓と看板があり、晴れた青空の下で撮影されている。 障害や医療ケアが必要な子どもたちと家族に、写真撮影の楽しさを届ける想いを表現したメインビジュアル。

「うちの子は記念写真を撮るのは無理」

 

そう諦めていたご家族に、新たな選択肢を提供している写真館が宇都宮市にあります。

 

カズサヤ写真館では、医療的ケア児や発達障害児にも安心して利用できる環境を整え、特別な衣装や時間制限のない撮影で「写真を撮る喜び」を届けています。

医療的ケア児向けの撮影サービスはどのように始まったのか?

――写真館の基本的な業務内容について教えてください。

 

――菊地様(以下敬称略)

普段は記念写真を中心に撮影しています。

 

この時期(2025年10月)ですと七五三や成人式の前撮り、お宮参りといった記念写真を撮影しています。

証明写真やお見合い用の写真なども扱っています。

 

また、出張撮影も行っており、ピアノ発表会や式典の記念写真なども撮影しています。基本的には一般的な写真館と同じような業務ですね。

 

――今回、医療的ケア児向けの撮影サービスを始められたきっかけを教えてください。

 

――菊地

もともとは、医療的ケア児の方を撮影する以前に、発達障害のお子さんの撮影に力を入れていたことがきっかけです。

 

発達障害のお子さんは、なかなかじっとしていられないといった特性があります。

 

「うちの子はちょっと無理」と諦めてしまっているご家族がいると聞き、当館でしたら待ちながら撮影できること、ちゃんと記念写真を残せることをお声がけして撮影してきました。

 

その後、医療的ケア児向け衣装の開発・販売元である京都の写真館が、負担なく撮影できる衣装を使って撮影されていることを知りました。

 

当館でも発達障害のお子さんを撮影してきた実績があったため、同じように医療的ケア児の方も諦めずに記念写真を残していただけるのではないかと考えました。

その写真館にお話をして、衣装を導入することを決めました。

 

 

ただ、それまで医療的ケア児の撮影経験がなく、見本写真もありませんでした。

私が地域の民生委員をしていたこともあり、うりずんという団体内にある「くくるん」という医療的ケア児の施設を視察する機会がありました。

 

そこで、こうした取り組みをしたいと相談したところ、施設の方が事情を説明してくださいました。

2名のお子さんが協力してくださることになりました。

 

その撮影で見本写真を作成し、それからパンフレットやSNSで発信したり、福祉イベントにも出展させていただいたりして、現在に至っています。

 

 

――実際にサービスを始めて、利用者の方からはどのような反応がありましたか。

 

――菊地

やはり、「記念写真はうちには残せないと思っていた」という方が、実際に残せるということで喜んでくださいました。

 

また、写真撮影に限らず、お子さんをどこかに連れ出すときには、その都度事情を説明しなければならないという負担があるそうなのですが、当館でしたら、そういったお子さんのことを理解しているスタッフがいるということで、説明の手間が省けて助かるという声もいただきました。

 

ジュン
発達障害のお子さんの撮影から始まった取り組みが、医療的ケア児へと広がっていったカズサヤ写真館。

 

その背景には、「諦めないでほしい」という強い想いがありました。

 

地域の福祉施設との連携から生まれた見本写真は、多くのご家族に希望を届けるきっかけとなっています。

医療的ケア児の撮影では、どんな衣装を使うのか?

――医療的ケア児向けの撮影において、具体的にどのような工夫をされていますか。

 

――菊地

撮影用の衣装は、医療的ケア児に配慮された特別な作りになっています。

 

通常の着物は後ろから着せますが、この衣装は前から羽織る形になっており、お子さんの体を動かさずに着せることができます

後ろが開いた構造になっているんですね。

 

チューブにつながれていて体を移動させることができないお子さんもいらっしゃるので、前から羽織ることで負担を減らせます。

 

また、襟元も少しゆるめに作られていて、喉にチューブが入っている場合でも締め付けずに済むよう工夫されています。

 

さらに、よだれなどで汚れやすいということもあるので、洗いやすい素材が使われています。

 

衣装を開発された方が、そういった点をいろいろ研究されて作られたものなので、お子さんも負担なく撮影することができます。

 

――撮影された写真を拝見すると、医療機器やチューブなども隠さずに撮影されていますね。

 

――菊地

サンプル撮影に協力してくださった方の中には、胃ろうの手術前に、あえてチューブがある状態で撮影してほしいという方もいらっしゃいました。

 

手術後はチューブがなくなり、健常児と同じように見えます。

しかし逆に、チューブがある状態のお子さんのありのままの姿を残したいという考えでした。

 

決して健常児のように見せるのではなく、その子のありのままの姿で残したいというご意見は、実際にありますね。

 

――障害を否定するのではなく、ありのままを受け入れるという姿勢が、お子さんやご家族の自己肯定感にもつながりそうですね。

 

――菊地

障害があるからといって何もできないと思ってしまいがちですが、実際にはそうではありません。

 

写真も撮れるし、他にもできることはたくさんあるんだということを伝えられたらと思っています。

 

医療的ケア児に限らず、障害があるからという前提で接するよりも、それに関係なく接する方が良い場合が多いと感じています。

 

当館は、お子さんのありのままの状態を受け入れて対応しています。

そのことを撮影を通じて感じていただけているのではないかと思います。

 

ジュン
前から羽織れる構造、ゆるめの襟元、洗いやすい素材。

 

細部にまで配慮された衣装は、お子さんの負担を最小限にするための工夫の結晶です。

 

そして何より印象的だったのは、医療機器を隠さず「ありのまま」を撮影するという姿勢。

 

それは、障害を否定するのではなく、受け入れるというメッセージでもあります。

医療的ケア児のいる家族が写真館を利用する理由とは?

(スタジオまでのエレベーター、バリアフリーもしっかりされていました)

 

――利用者の方から特に要望が多いのはどのような撮影ですか。

 

――菊地

家族写真の要望が多いですね。

 

くくるんの方もおっしゃっていましたが、こういったお子さんがいるご家庭では、なかなか家族写真を撮る機会がないそうです。

誰かがお子さんを見ていなければならないため、全員で写真を撮ることが難しいんですね。

 

当館としても、お子さん本人だけでなく、ご家族の写真も残していただきたいという思いがあります。

 

今度撮影予定の方は、当初、お嬢さんの外出が難しいのではないかということで、病院内で出張撮影をする予定でした。

 

ただ、そこだと弟さんを病院に連れてくることができません。

家族写真が撮れないため、親御さんとしては何とか家族写真を残したいという希望がありました。

 

4時間程度の外出が可能ということでしたので、当館に来ていただいて家族写真を撮影することになりました。

 

お客様にとっては、お子さんだけの写真ももちろん大事です。

しかし、やはり家族として写真を残したいという気持ちが強いのだと、撮影を通じて感じています。

 

――家族写真が撮れたことで、次へのステップにもつながりそうですね。

 

――菊地

お子さんだけの写真なら、親御さんが撮影することもできます。

 

しかし家族全員となると誰かが撮影しなければなりません。写真館で記念写真を撮るというのはハードルが高くなってしまうんです。

 

一般的な写真館ですと、設備の面でも対応できない部分があります。

 

この衣装の販売元の写真館から聞いた話では、他の写真館で嫌な顔をされた方もいるそうです。

もう二度と行きたくないと思ったという経験をされた方もいらっしゃるそうです。

 

子ども写真館のように混み合っているところでは、限られた時間の中で健常児ではないお子さんを撮影するのが難しいそうです。

あまり歓迎されないということもあったようです。

 

ですから、ちゃんとそういったお子さんのことを理解しているスタッフが対応できるということが必要だと感じています。

 

ジュン
「家族みんなで写真を撮りたい」

 

これは、どんなご家族にとっても当たり前の願いです。

 

ですが、医療的ケア児や障害のあるお子さんがいるご家庭では、それすら難しい現実がありました。

 

 

病院から4時間だけ外出して撮影する、そんな努力をしてまで家族写真を残したいという想い。

 

その想いに応えられる場所があることの意味は、とても大きいのではないでしょうか。

発達障害児の撮影では、どのような配慮がされているのか?

――発達障害のお子さんの撮影は、以前から需要があったのでしょうか。

 

――菊地

年によって件数はまちまちですが、多い時には他県からいらっしゃる方もいます。

 

埼玉や茨城など近県から、「うちの子だと撮影は難しいかな」といろいろ調べて来られる方がいました。

ブログに掲載していたお客様の事例を見つけて、当館に撮影に来られるということがありました。

 

――発達障害といっても症状も様々だと思いますが、対応のマニュアルのようなものはあるのでしょうか。

 

――菊地

当館では、やはり今までやってきた経験が大きいですね。

 

お子さんによって、着物を着るのは嫌ではないけれどじっとしていられない子もいれば、逆に着物を全く着られない子もいます。

 

服へのこだわりがあって、肌触りが違うだけでも駄目という子もいます。

夏場でも気に入った長袖を着ているというようなケースもあります。

 

そういったお子さんに着物を着せるのは難しいため、どうしても無理な時は幼稚園の制服で撮影することもあります。

 

本当にお子さんによって千差万別ですので、そのお子さんに合わせて対応していくという形です。

長年の経験から、このお子さんには無理をしない方がいいかなといった判断を、状況に応じてしています。

 

――一般的な写真館では時間が決まっていることが多いですが、こちらではお客様に合わせた対応をされているんですね。

 

――菊地

こちらの都合というよりも、お客様に合わせて時間も区切らずに対応しています。

 

お子さんが落ち着くまで待つということを大切にしています。

 

通常の健常児の撮影と比べれば時間はかかりますが、お子さんのコンディションに合わせて対応しています。

 

実際に一度いらっしゃったけれど撮影できず、また出直していただいたというケースもあります。

その時の状況によって撮影できるかどうかが変わるんです。

 

ですから、その日に撮影できない時は、また別の日に調整していただいています。

通常ですと、衣装合わせと本番撮影の2回お越しいただくのですが、多い時には4回ほど来ていただいたこともあります。

 

お子さんがどうしても泣いてしまったり、難しい時は「今日はやめて、また別の日にしましょう」と対応しています。

 

お客様の方が諦めてしまいがちなところを、「もう少し待ちましょう」とお声がけします。

また来ていただいて撮影できた時には、本当に喜んでいただけます。

 

時間も制限せず、ある程度調整して、実際に来店してから落ち着くまで1時間以上お待ちいただいて撮影したこともあります。

それでも難しい時は、また別の日に来ていただくという柔軟な対応をしています。

 

ジュン
時間制限なし、何度でも来店OK。

 

一般的な写真館では考えられないこの対応こそが、カズサヤ写真館の真骨頂です。

 

マニュアルではなく、長年の経験から培われた「待つ」という姿勢。

 

それは、お子さん一人一人のペースを尊重するということであり、まさに「お客様ファースト」の体現ですね。

お子さんの特性に合わせた撮影の工夫とは?

(カズサヤ写真館様HPより)

 

――医療的ケア児の撮影で、特に苦労されている点はありますか。

 

――菊地

医療的ケア児といっても、本当にお子さんによって様々なんです。

 

全く動けないお子さんもいれば、足が自由に動かせて撮影中に開いてしまうお子さんもいます。

当館のケア児用の衣装が合わなかったりします。

 

発達障害もいろいろですが、医療的ケア児もいろいろです。

 

すごく元気がよくて活発なお子さんもいれば、全く動けないお子さんもいて、一概にこの衣装が合うとは言えません。

 

例えば、全く動けなくて首も動かせない状態で固まっているという場合があります。

 

向きを変えて撮影することができず、その向きでしか撮れません。

どうやって変化をつけて撮影しようかという工夫が必要になります。

 

また、手足が自由に動くお子さんの場合、衣装は前から羽織って下に布を入れ込む構造です。

着物のように見せるのですが、足が開いてしまうと布がはだけてしまうんです。

 

後ろも開いた構造になっているため、活発に動くお子さんには合わないこともあります。

 

バギーから抱っこして椅子に移動できるお子さんの場合は、逆に普通の着物やタキシードの方が向いていることもあります。

 

一概に医療的ケア児だからこの衣装で全て対応できるというわけではありません。

 

全く手を動かせないお子さんには向いています。

しかし活発なお子さんには、逆に普通の着物や二部式という簡単に着せられるタイプの方が良かったりします。

 

そこの見極めが大切です。最初の頃は、医療的ケア児イコール動けないという認識でいました。

実際に撮影を始めたら活発なお子さんで苦労したこともありました。

 

発達障害のお子さんもそうですが、一口に医療的ケア児といっても様々な特性があります。

 

事前の打ち合わせでお子さんの状況をよくお聞きして、この方にはこういう衣装よりも別のものが良いのではないかと提案しています。

やっていくうちにわかってきた部分があります。

 

――確かに、障害といっても一人一人の個性や性格も含めて、それぞれ違いますね。

 

――菊地

本当にそうです。

 

発達障害といっても、特性があると言われても全然普通だったりします。

多少落ち着きがないかなという程度で、昔だったら「5歳だとこんなものだよね」と済ませていたレベルの子もいます。

 

発達障害という言葉が今ほど浸透していない時代には、ちょっと落ち着きのないお子さんという程度でした。

 

一方で、明らかに5歳でもちゃんと話せなかったり、衣装へのこだわりがあって着せることが難しいというお子さんもいます。

本当にそのお子さんによってずいぶん違います。

 

ですから、事前の打ち合わせ、衣装合わせの時に、お子さんの特性を詳しくお聞きします。

 

どういうものが好きなのか、逆にどういうものが苦手なのかを事前に把握しておきます。

 

例えば車が好きだったら車のおもちゃを用意して注意を引くようにし、苦手なものがあればなるべく避けるようにして、撮影がスムーズにいくよう配慮しています。

 

――まさにお客様ファーストの対応ですね。

 

――菊地

これは医療的ケア児の方に限らず、家族での記念写真は10年後、20年後に見た時にやっぱり撮っておいてよかったと思えるものです。

 

どんなお子さんでも、節目にはそういった写真を残せるようにしたいと思っています。

 

実際に当館で撮影した方の中には、7歳だったけれど撮影は無理だと諦めていたお嬢さんがいらっしゃいました。

 

下の弟さんが5歳になった時に、たまたま福祉イベントで当館のことを知って来てくださいました。

2年遅れの七五三ということで、弟さんが5歳の着物を着た時にお嬢さんが医療的ケア児向けの衣装を着て、一緒に撮影されました。

 

 

その方から先日の福祉イベントで、「本当によかったです」と言っていただきました。

やはりそういった写真を残せるということは大切だと思います。

 

――今後、さらに取り組んでいきたいことはありますか。

 

――菊地

やはりまだまだ認知されていない部分があります。

お客様の許可をいただければ、SNSで発信したり、イベントに出展したりして、なるべく対外的に発信していきたいと思っています。

 

まだ知らない方に認知していただけるよう、そういった活動をもう少し強化していきたいですね。

 

――最後に、障害のあるお子さんをお持ちのご家族に向けて、メッセージをお願いします。

 

――菊地

お子さんに障害があると、記念写真は無理だと思ってしまいがちだと思うのですが、決してそんなことはありません。

 

どんなお子さんでも、節目の記念写真は残せます

 

当館でしたら、そういったお子さんに寄り添って写真をお撮りしますので、ぜひ遠慮なくご連絡いただければと思います。

 

 

 

ジュン
「医療的ケア児といっても千差万別」

この言葉が、カズサヤ写真館の取り組みの本質を表しています。

 

活発に動くお子さんもいれば、全く動けないお子さんもいる。

 

一つの衣装、一つの方法ですべてに対応できるわけではないからこそ、事前の打ち合わせを大切にし、お子さんの特性を丁寧に聞き取る。

 

その積み重ねが、「2年遅れの七五三」のような感動を生み出しているのですね。

インタビューを終えて

取材を通じて印象的だったのは、「写真を撮る」という行為が単なる記録ではないことです。

ご家族にとってかけがえのない「体験」であるということでした。

 

医療的ケア児や発達障害児を持つご家族にとって、写真館に行くこと自体が大きなハードルとなっていた現実があります。

 

「うちの子には無理」と諦めていたご家族に、「大丈夫ですよ」と手を差し伸べるカズサヤ写真館。

その姿勢は、まさに福祉的な視点を持った文化サービスといえるでしょう。

 

特別な衣装の開発、時間制限のない撮影、一人一人の特性に合わせた細やかな配慮――。

 

これらは決してマニュアル化できるものではありません。

長年の経験と、何よりも「どんなお子さんにも記念写真を残してほしい」という強い想いから生まれたものです。

 

「2年遅れの七五三」を実現できたご家族の喜びや、チューブがある「ありのまま」の姿を残したいという親御さんの願い。

 

それらを受け止め、形にしていく写真館の存在。

 

これは、障害の有無にかかわらず、すべての人が社会の一員として当たり前に文化を享受できる社会の実現に、確実につながっているのではないでしょうか。

 

写真を通じて生まれる笑顔と自信。

それは、10年後、20年後のご家族の宝物になるだけでなく、今を生きる力にもなります。

 

カズサヤ写真館の取り組みは、「写真の力」を改めて教えてくれました。

店舗情報

カズサヤ写真館

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久田 淳吾

発達障害(ADHD・ASD)と吃音を抱える40代男性。今まで発達障害の事は知らずに生きてきたが、友人の話を聞いて自分にも当てはまる事が多すぎる事を実感し、病院にて診断を受けると見事に発達障害との認定を受ける。自分に何ができるかと考えた時、趣味の写真でプロの先生に話を聞く機会があり、吃音が強く出ていたことに気がついた先生が『君は吃音持ちだね。だったら吃音の方の気持ちがわかるはず。それを活かして吃音の方の気持ちがわかるカメラマンになったらどうか』という言葉を思い出し、発達障害者として同じ気持ち、舞台に立てる人間として趣味のカメラ、動画編集技術を活かして情報発信をする事を決意。
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