医療的ケアが必要な子どもを預けられる場所が少ない。
そんな地域の課題に応えるため、茨城県で先駆けとなった株式会社福蔵(FUKURA)。
「美しい心・善なる心・愛の心」を理念に掲げ、0歳から高齢者まで一生涯のケアを目指す取り組みを、代表の須田祥子氏に伺いました。
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茨城県で先駆けとなった重症児デイサービス|地域の医療的ケア児を支える多様な事業展開
――まず最初に、福蔵様の事業内容について教えてください。
――須田氏(以下敬称略)
主に重度の障害をお持ちのお子さん、重症心身障害児のお子さんのためのデイサービスを8事業所運営しております。
その後、18歳以上の方を対象とした医療ケア対応の生活介護を2カ所運営しています。
さらに訪問看護、訪問介護、ケアマネージャーによる相談支援、高齢者デイサービスも展開し、トータルケアで一生涯にわたる支援を目指しています。
拠点は全部で6カ所になります。
――0歳から高齢者まで、本当に幅広い年齢層を対象にされているんですね。いわゆる「ゆりかごから墓場まで」に近い形ですね。
――須田
そうですね、それに近いと思います。
ただ、やはり中心となっているのはお子さんの方ですね。
開設した当初、この重症児のためのデイサービスは、おそらく茨城県で民間では第1号だったと思うんです。
非常にニーズがあり、最近は他の事業所も増えてきましたが、一時期は利用希望者が殺到していました。
ですので、今も児童の事業を中心にさせていただいています。
――東京や神奈川といった都心部では事業所は比較的多いですが、地方では障害関係のケアが薄いという話をよく聞きます。
――須田
この界隈は、私たちが事業を始めた後、2事業所目、3事業所目と他の方たちも続いてくださり、比較的充足してきたと思います。
ただ、まだまだ足りないという地域は確かにあります。
例えば大田原や宇都宮に事業所を開設したのは、困っている方々がいらっしゃるからです。
困っている地域には、私たちの理念と経験でお役に立ちたいと思っています。
手を差し伸べながら、この事業を展開してきたという感じですね。
都市部では充実している一方、地方ではサービスが少ない。
だからこそ、茨城県で先駆けとなった福蔵の存在は重要だと感じます。
「一生涯にわたる支援」とは、0歳から高齢期まで切れ目なく寄り添うこと。
訪問看護、デイサービス、相談支援を一つの法人で展開することで、「ここがあるから大丈夫」という安心を届けているのでしょう。
「美しい心・善なる心・愛の心」 我が子以上に愛し、心の通訳者となる実践
――では、福蔵様の企業理念についてお聞かせください。「美しい心・善なる心・愛の心」という理念を掲げていらっしゃいますね。
――須田
私たちが一番大事にしているのは、目に見えない心の部分なんです。
いい人ぶるなんて、いくらでもできるじゃないですか。
でも、いい人そうに見えても、ずるかったり人を陥れることを考えている人にお世話されたくないと思うんです。
心のあり方はすごく重要だと思っています。それを大事にしているので、理念には正しい心のあり方を強く前面に打ち出したつもりなんです。
私は経営の最上位にこの理念を置き、自分が間違った思いでこの事業をやっていないか常に点検しています。
間違った考えで始まっても終わってもいけないと思い、この理念を自分に言い聞かせることも含めて掲げています。
――理念としては本当に素晴らしいと思います。
実際に働いている皆さんも、安心して働かれているように見えます。
この理念を具体的に実践するために、利用者の方々に対してどういうことを気をつけていらっしゃいますか。
――須田
一番は、我が子以上に愛すること、我が子以上にかわいがることを徹底的に打ち出しています。
他人から愛された経験というのは、この子たちの将来の生きる力に変わると思っているんです。
心から愛してあげてほしいと言っています。
そうしていく中で、スタッフ自身も心が磨かれている部分があると思います。
もう一つは、子どもたちの心の通訳者になることをお願いしています。
うちに来ている子たちのほとんどがお話しできないので、その心の声を聞いてあげてほしいと言っています。
言葉はしゃべれなくても、嬉しいのか悲しいのか、全部分かっている子なんです。
その心の声を聞いてあげてほしいとお願いしています。
そのためには、自分の心が澄んでいないと、透明でないと聞こえてきません。
そういった方針を立て、みんなが忠実に実際の行動に移してくれていると思います。
――一般的に福祉というと、何でもやってあげるイメージがありますが、実際には本人がやりたいことをしっかり支援して自立を促すことが重要ですよね。
――須田
その通りです。
気持ちの表出とか、その気持ちをくんであげるということ。
押し付けではなく、それがすごく大事だと思っています。
――障害のある子でも子どもには変わりないですし、障害も一つの個性ですよね。
――須田
そうです。その通りです。
しかし、心から利用者に寄り添い、その心を理解しようとすることは全く別次元の話です。
福蔵の「美しい心・善なる心・愛の心」という理念は、決して飾りではありません。
須田代表が経営の最上位に置き、常に自分自身に問いかけているからこそ、スタッフ全員に浸透し、現場の隅々まで行き渡っている。
利用者やご家族が深い信頼を寄せる理由が、ここにあるのだと感じました。
命と背中合わせの覚悟と「湯船につかれた」という小さな幸せ 家族を支える第三の場所
――重度の障害があると、お子さん一人ひとりの状態も違い、ケアの方法も全員違ってきますよね。そういった点での苦労はありますか。
――須田
最重度のお子さんたちなので、身体と知的の重度な障害を重複した重症心身障害児と呼ばれる方々です。
最重度のお子さんたちは言葉がしゃべれないため、どこが痛いのか、どこが苦しいのかを見抜いていかなければいけません。
命と背中合わせというか、重度化したり急変したりする子どもたちです。いいこと、嬉しいことばかりではなく、常に緊張感もあります。
裏側の側面としてはありますが、それを見せずにピリピリせずやっていくところは大変だと思います。
実際に急変があって救急車を呼ぶなんてことも、昨日もありました。
そういった恐怖、職員だって怖いことなんです。
けれども、そういった恐怖心も乗り越えなきゃならない。
リスクに対しては腹をくくり、恐怖心と闘いながらも幸せなものを与えたいという気持ちでやっています。
いいことばかりではなく、大変なこともあります。
――お子さんのケアをするだけでなく、やはり親御さんとの信頼関係も重要ですよね。
――須田
もちろんです。信頼関係を築くというのは本当に重要視しています。
――利用される前の相談では、どういった内容が多いのでしょうか。
――須田
家と病院の往復しかない生活なので、家以外で過ごせる場所が必要だという相談があります。
お友達ができてほしい、子どもらしい経験をさせたいという要望が一番多いですね。
ただ、うちは重度な障害を対象にしている事業所なので、知的障害だけの方とはお互いの安全のためにすみ分けをしています。
他では預かれない方がほとんどなので、そういった方々を優先してお預かりしています。
――専門性が高いスタッフの方々がいらっしゃるということですね。
――須田
看護師も法人の中で30名以上おりますので、安心していただけると思っています。
――親御さんとの関わりで、特に大切にされていることはありますか。
――須田
信頼関係はもちろんなんですけれども、リアルに話をすると、障害児を生んだことを受け入れられず、無理心中してしまうかもしれないという恐れのある親御さんもいらっしゃいます。
そういった苦しんでいる方たちには、訪問看護が入って寄り添います。
「お母さん上手にできているよ、それでいいんだよ」と自信を持たせながら、親子の愛情を引き出す役割もあります。
本当に子育ては大変なんですよね。
でも大変だけど、預けることが心配だと思われるのはつらいことです。
肩の荷を下ろして福蔵に預けていただき、子どもたちも幸せだと思ってもらえるような信頼を得ていくことは、大変気をつけています。
――福蔵を利用することで、親御さんの精神的な負担は軽減されているという実感はありますか。
――須田
障害の有無にかかわらず、子育てはすごく大変じゃないですか。
ちょっと離れることで、自分の気持ちもリフレッシュしたり、もっとかわいがってあげればよかったなと思ったり。
お母さんが本来の心を取り戻し、福蔵から帰ってきた子どもをいつもの何十倍もの愛情で抱き締められる。そういう関係にあるといいなと思っています。
――やはり時間的に余裕ができると、精神的にも余裕ができますからね。
――須田
すごく忘れられないエピソードがあって。
1歳未満のお子さんを初めてお預かりした日のことです。
その子は気管切開で喉に穴が開いており、痰の吸引をしないと詰まって死んでしまうような子どもでした。
そのお子さんを預けた日に、お母さんに「今日は好きなことをしてきてください。
ご主人とランチでも行ってきたらどうですか」と言って数時間お預かりしました。
お母さんが戻ってきた時に「今日何をしてこられたんですか」と聞いたら、「この子が生まれてから何ヶ月ぶりに湯船につかって、お風呂に入れました」と言うんです。
痰が詰まって死んでしまうかもしれないと思うと、シャワーを浴びたらすぐ子どものそばに飛んで戻らなければいけなかったと。
「今日はゆっくり湯船につかれました」って言っていたので。
私たちが当たり前だと思うことができず、苦労しているお母さんたちがいっぱいいるということです。
そういった方たちの支えになりたいと、その時にも強く思いました。事業を頑張っていこうと決意を新たにしたエピソードでした。
――お母さんも、子どもの親である以上に、一人の人間ですからね。
――須田
お母さんの人生も、ちゃんとしっかり営んでいってもらいたいですし、苦労だけでなく喜びも感じてもらいたいと思います。
――その喜びという意味では、福蔵を利用してお子さんができることが一つでも増えていくと、親御さんも自信を持てますよね。
――須田
ただ、何よりも一番喜んでくださるのは、福蔵のスタッフの皆さんがかわいがってくれることなんです。
我が子が誰かに愛されているということが、一番の励みであり力になっているのを感じます。
――こういう施設を利用しないと、障害があると周りから変な目で見られることもありますからね。
――須田
そうですし、お母さん自身が自分を責めているんですよね。
障害のある子を生んでしまったという、言葉にするにしろしないにしろ、自分を責める自己処罰の思いがある方もいらっしゃいます。
そういう方には「そうじゃないよ。こんな可愛い子を生んでくれてありがとうございます」という気持ちで接しています。
「福蔵のスタッフがかわいいと言ってくださるから、うちの子はこんなにかわいいんだと気がついた」と言う方もいて、それが本当に福蔵の役割だと思っています。
――障害の有無に関わらず、一人の人間として見ることが一番大事ですよね。
――須田
おっしゃる通りですね。
――一人ひとりのお子さんの長所を伸ばすことに関して、何か工夫をされていますか。
――須田
長所を伸ばせる方、スポットを当てられるほど軽度の方はあまりいらっしゃいません。
生きていることが精いっぱいという方たちもいます。
例えば人工呼吸器をつけていて、本当に唯一動かせるのは目だけというお子さんもいます。
その目で心の通訳者になりたくて、その目で挨拶をしたり、返事をしたりする練習をさせてあげたりします。
イエス・ノーが言えるか、言えないかで、全然違うんです。
天国と地獄の差があるわけですよね。
それを構築する取り組みをしています。
長所を伸ばすというよりは、愛されることなんです。
私たちは子どもたちの心を膨らますということを気をつけてやっているんです。
目に見えないし言葉もしゃべれませんが、周りにいる大人が愚痴や不平不満を言って聞かせたら、その子の心の中には人の悪いところや不幸を見つける心が広がっていきます。
でも、周りにいる大人がお互いに感謝し合ったり、一緒にいられて幸せと言ってあげたら、一緒にいることに幸せを感じたり人に感謝する心が子どもたちの心に広がっていきます。
だから私たちは、子どもたちの心に幸せな心が膨らむような支援をしています。
長所を伸ばすところまで行けるレベルの方ばかりではないので。
――まず何よりも、障害の有無に関わらず、一緒に生きていることが大切なんですね。
――須田 生きていてもらえればいいなと思っています。
急変や救急搬送のリスクと常に背中合わせの現場で、それでも笑顔を忘れず穏やかに向き合い続ける姿勢には頭が下がります。
「湯船につかれた」という、私たちには当たり前のことが、どれほどの幸せなのか。
福蔵が提供しているのは、単なる介護サービスではなく、人間らしく生きるための「当たり前の幸せ」なのだと感じました。
インタビュー前半を終えて(前編)
前編では、株式会社福蔵の事業概要と企業理念、そして現場での実践と家族支援について伺いました。
特に印象的だったのは、「美しい心・善なる心・愛の心」という理念が単なるスローガンではなく、「我が子以上に愛する」「心の通訳者になる」という具体的な実践方針として現場に浸透していることでした。
言葉を発することができない重症心身障害児たちの心の声を聞き取り、その存在に価値を見出す姿勢は、まさに福祉の原点です。
また、最重度のお子さんたちのケアという命と背中合わせの緊張感の中で、それでも温かく穏やかな雰囲気を保ち続ける現場の姿勢には深いプロフェッショナリズムを感じました。
急変や救急搬送といった恐怖と向き合いながらも、「幸せなものを与えていきたい」という強い思いで支援を続ける。その覚悟が福蔵の支援を支えているのでしょう。
そして「湯船につかれた」というお母さんのエピソードは、福祉支援の本質を教えてくれました。
私たちにとって当たり前のことが、どれほど貴重な幸せであるか。福蔵は利用者だけでなく、その家族の人生も支える「第三の場所」なのです。
後編では、福蔵ならではの環境づくり、スタッフ育成、今後のビジョンについてお伝えします。
→後編に続く
久田 淳吾
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