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介護支援事業所と利用者を結ぶAIマッチングシステム「マップラ」開発物語【前編】

茶色がかった地図を背景に、中央に黒文字で「介護現場の声から生まれたAIマッチングシステム『マップラ』開発物語 前編」と書かれたタイトル画像。冒険や探求を思わせる雰囲気のデザイン。

介護現場の人手不足が深刻化する中、「デジタル化」という言葉だけが先行し、実際には使いづらいシステムも少なくありません。

 

そんな中、川崎市の介護事業所「結う縁」とIT企業「NTC」が協力し、現場が本当に必要とするAIマッチングシステム「マップラ」を開発中です。

 

初めての介護に直面する利用者やご家族、稼働率に悩む事業所、利用者とサービスをつなぐために膨大な時間を費やすケアマネージャー。

 

AIは、こうした介護現場の「困った」をどう解決していくのでしょうか。

 

今回は、NTCの北村様と西様、結う縁の清水様に、開発のきっかけや想いをお聞きしました。

マップラを開発したの株式会社NTCとは

創業60年以上の歴史を持つIT企業。

東京・サンシャイン60に本社を構え、グループ全体で約900名が働いています。

 

主な事業

 

AI活用の事例 

物流業界では、カメラでパレットを自動識別するシステムを開発。

ハウスメーカー向けには、水道蛇口などの写真から型番を判定するシステムを提供しています。

 

また、ファーストフード店では店内の人の流れを分析し、レジやスタッフ配置を最適化するシステムも手がけています。

 

幅広い業界で実績を積み重ね、特にAI技術を使った実用的なサービス提供を得意としています。

結う縁

2014年に設立された、神奈川県川崎市にある介護事業所。

 

事業所の構成

小田急線沿線を中心に、合計4カ所の事業所で地域の高齢者を支えています。

 

今回のマップラ開発まで、システム開発とは無縁だった純粋な介護の会社です。だからこそ、現場の本当の困りごとや、「こんなシステムがあったらいいな」という生の声を届けられる存在です。

 

ジュン
創業60年以上の実績を持つIT企業NTCと、川崎市で地域に根ざした介護サービスを提供する結う縁。

 

AIによる画像認識や業務最適化で多様な業界を支えてきた技術力と、現場で日々利用者と向き合う中で感じた「本当に必要なシステム」への想い。

 

この二つが出会ったことで、マップラの開発は動き始めました。

 

介護現場の声から生まれたAIマッチングシステム

18年前の介護現場の悩みが、システム誕生のきっかけに

——マップラの開発経緯について教えてください。

 

——清水様(以下敬称略)

マップラ誕生の背景には、私自身の介護業界でのキャリアが深く関わっています。

 

私は元々文系大学を卒業後、教育業界に就職していましたので、システム開発とは全く無縁の仕事をしてきました。しかし、子育てを経て復帰する際に介護の資格を取得し、この業界に携わるスタートとなりました。

 

結う縁を立ち上げた当初は、人材も十分に育っておらず、私自身も知識や経験が浅かったため、現場は非常に大変でした。さらに、介護事業所にありがちなことなのですが、オープン当初はケアマネージャーから比較的対応が難しい利用者様を紹介されることが多くあります。

 

新規事業所はまだ利用者様のキャパシティが埋まっていません。

 

そして「新しい事業所は頑張るだろう」という期待から、なかなかデイサービスが決まらない方を紹介されるケースが多くありました。

 

——当時の現場は相当忙しかったのですね。

 

——清水

私自身が送迎でお迎えに行き、なかなか家を出て来られない方のご自宅で直接支援を行いました。デイに戻ってきてからは体操の指導、ランチの準備と、本当に多忙でした。

 

正直なところ、「もう1人自分が欲しい」「コピーロボットが欲しい」と思ったことが、システム開発を考えるきっかけの一つだったのです。

 

現場で直接支援したい気持ちと、運営上の現実との板挟みが、マップラを考えるきっかけでした。例えば、慣れないデイへの外出に抵抗のある方への支援です。

 

ご本人が家から外に出られるようになるまで、付き添いながら支援したい。でもその時間、デイサービスの現場には人手不足による負担がかかり、申し訳なさを感じます。

 

一方で、その支援を諦めて現場に入れば、利用者の新しい一歩を後押しする機会がなくなる。困難事例を成功させることも非常に重要です。

 

だからこそ、「この支援の一部をシステムで担えたら」と思ったのが、マップラを考え始めた原点です。

 

——以前から、システム化の構想はあったのでしょうか。

 

——清水

実は過去に何度か、介護に関わるシステムのアイデアを補助金に応募したことがありました。しかし、採択側から「これは未来的すぎて、ドラえもんの話のようだ」「現実味がない」と言われ、却下された経験があります。

 

ところが、コロナ禍を経てオンラインが普通になり、今ではAIが身近な存在になりました。

 

今回のマップラで表現したかったのは、自分たちの業務を効率化することです。同時に、自分の代わりのように支援に至るまでの経緯をサポートしてくれるシステムでもあります。

 

ようやく自分の考えと時代が結びついてきたと感じました。NTCさんにお話をさせていただいたのが、開発の経緯です。

AIマッチングシステム「マップラ」とは

——マップラについて、改めて説明をお願いできますか。

 

——清水

マップラは、AIが利用者のニーズを理解し、最適な介護事業所にマッチングしてくれるプラットフォームです。

 

介護の専門知識がなくても、ニーズに合った施設を簡単に探すことができるシステムです。

 

また、専門職であるケアマネージャーも苦労する“利用者の気持ちの翻訳”をAIが代行します。

 

「求めていることを言語化するのが大変」「伝えることが困難」という想いをAIが整理します。そして、サービスを提供する事業所にしっかりと届けることで、ミスマッチの少ない施設につなげる仕組みです。

 

  1. まず、介護サービスを探す側(利用者や家族、ケアマネージャーなど)が、住所地やどんな支援を受けたいかなどを自由に入力します。
    音声でもテキストでも入力できるため、話すだけで簡単に条件を伝えられます。
  2. AIが入力内容を読み取り、ニーズを自動で整理・抽出します。
  3. そのニーズに合った事業所だけがリストアップされ、地図上で比較・検討が可能です。
  4. 気になる事業所には、そのまま問い合わせや見学依頼もできます。

 

双方向が”つながるまで”の時間や労力を減らし、より早く本当に必要な支援にたどり着けます。これがマップラの特徴です。

 

——「マップラ」という名前の由来は何でしょうか。

 

——清水

実は「マッチングプラットフォーム」が本来の由来です。それを略して「マップラ」と呼ぶようになりました。

 

お互いをマッチングさせるという意味と、地図上で表現するプラットフォームとしての役割。この二つを掛け合わせた造語です。

NTCと結う縁の出会い

——今回、結う縁様とNTC様が協力することになった経緯を教えてください。

 

——北村様(以下敬称略)

元々、NTCのOBの方で、今70代の方がいらっしゃいます。その方の義理のお父様が結う縁様のお世話になっていたというご縁がありました。

 

その中で、清水さんから「ITに詳しい人を紹介してほしい」とお話がありました。

OBの方を通じて私たちに連絡をいただいたのが、今年の4月頃だったと思います。

 

——実際にお会いして、どのような印象を持たれましたか。

 

——北村

清水さんのところへお伺いしてお話を聞かせていただいたのですが、清水さんの熱い思いに非常に感銘を受けました。

 

介護問題というのは、社会課題として私たちとしても非常に重要なテーマだと考えています。

 

清水さんの声に共鳴し、「ぜひ一緒にやらせてほしい」ということで、協力させていただくことになりました。

 

ジュン
18年前、忙しい介護現場で「もう1人自分が欲しい」と感じた清水様の想い。

 

当時は「未来的すぎる」と却下されたアイデアが、コロナ禍を経てAIが身近になった今、ようやく形になろうとしています。

 

「マッチングプラットフォーム」を略した「マップラ」は、利用者のニーズをAIが翻訳し、最適な事業所へつなぐ仕組みです。

 

対話するだけで専門知識がなくても使えます。NTCのOBを介した偶然の出会いが、社会課題解決への大きな一歩となりました。

 

AIが拓く、人にやさしい介護DXの未来

対話型AIで、専門知識がなくても使える仕組みに

——AIを活用することの利点について教えてください。

 

——西様(以下敬称略)

まず一番大きいのは、対話型でニーズを引き出せるという点だと思います。従来の検索方式ですと、あらかじめ選択項目を用意し、利用する側がその中から選ぶ形になります。

 

そうすると、「どの選択項目を選べばいいのか」という前提知識が利用者側に求められてしまうんです。今回のシステムでは、その部分を会話形式に変えました。

 

利用者は「こんな希望があるんです」と、ニーズを言っていただくだけでいい。裏側でどういう検索が行われているか、使う方は気にしなくていいんです。

 

——つまり、専門知識がなくても使えるということですね。

 

——西

そのニーズと機能をつなぐ部分をAIに対応させています。これが今回の大きな特徴だと考えています。

 

——マップラを使う利用者側のニーズについて、どのような課題を想定されていますか。

 

——北村

簡単に申し上げますと、初めて介護に直面する家族が一番困られるケースを想定しています。例えば、おばあちゃんが体調を崩して、急にデイサービスが必要になった状況です。

 

一般の家庭は、そもそも自分の家の周りにどういう介護サービスがあるのか知りません。駅まで行く途中に施設があれば「見たことあるな」という程度で、それ以上は誰も知らないのが実情です。

 

——確かに、介護の専門用語も分かりにくいですね。

 

介護の専門用語がわからない素人でも使いやすく

——北村

介護は専門用語が難しく、例えばデイサービスとデイケアの違いは普通の人には全然わかりません。私も正直、最初は違いがわかりませんでした。

 

うちのおばあちゃんにはデイケアがいいのか、デイサービスがいいのか。そもそもその選択肢すら知らない状態です。

 

今は自治体がホームページでいくつか情報を公開しています。しかし、「どれがうちのおばあちゃんに正解なの?」というのは、家族の誰もわからない。これが今の一番の課題だと理解しています。

 

——AIを使うことで、その課題がどのように解決されるのでしょうか。

 

——北村

AIがそのニーズを噛み砕いてくれるんです。

 

例えば、「家から車で行きたい」というニーズがあります。これを聞かれないと、普通の人が自分で調べて車で行けるところを見つけるのは難しいですよね。

 

「朝何時からやっていますか」といった情報も、実際のホームページだと更新が少なく、調べるのが難しいんです。そういった情報を、AIがきめ細かく聞いてくれます。

 

例えば、「個室がいいですよ」「趣味のサークルで折り紙サークルがあります」といった情報です。「うちのおばあちゃんの趣味と一緒だ」と気づくことも、普通はなかなかできません。

 

今回のマップラの場合、事業者にそういった細かい情報を入力していただくことで、きめ細かいマッチングができます。これが本質です。

 

事業者の隠れた魅力を引き出す

——AIはデータ処理に強い反面、感情面での対応という課題もあると思います。データだけを処理して、本当の感情やニーズが引き出せないという懸念については、どのようにお考えですか。

 

——西

感情面というご指摘はもっともだと思います。ただ、マップラのもう一つのメリットとして考えているのは、利用希望者だけでなく、介護事業所側にもメリットを提供できる点です。

 

大手の介護事業者であれば、自社をアピールしていく手段をたくさん持っています。しかし、地域に根ざして活動されている介護事業者は、利用者への対応を重要視するあまり、自分たちのアピールができていません

 

これが現状です。自分たちの特性や、「こういうサービスが他とは違う」といったことを発信する場が必要です。まずマップラがその役割を果たせるのではないかと考えています。

 

——事業者側からの情報発信が、利用者の不安を解消することにもつながるわけですね。

 

——西

その通りです。利用者サイドからすると、施設のタイプや受け入れ可能人数といった基本情報はたくさんあります。

 

ただ、実際にそれを利用する立場になったとき、「自分たちの生活がそこでどう変わっていくのか」というイメージができません。そこが課題です。

 

その部分は、最終的に介護事業者に電話をして、ケアマネが確認しているところです。ですから、介護事業者からすれば、そういったところを発信する場があればいいと考えています。

 

——つまり、単なるスペック情報ではなく、生活のイメージが湧く情報が重要だということですね。

 

——西

感情面というよりは、「そこでどういう生活を送ることができるのか」という情報ですね。

 

それは生活に関わることなので、お風呂のことや出される食事のことです。そしてプラスアルファとして、そこに行くことで自分が体験できる付加価値は何なのか。

 

そういったことを日常的に発信できる仕組みでケアしていく。これが一つのポイントだと考えています。

 

——事業者自身も、自分の事業所にどういう強みがあるのか、はっきりわからない部分があると思います。そういった部分を整理しながら、事業者独自の魅力を発見できる機能もあるのでしょうか。

 

——清水

事業所の中には、経営層や管理者が必ずしも介護のバックグラウンドを持っているわけではないところも多くあります。

 

そのような事業所では、「車椅子が使えます」といった、介護においてごく基本的な内容を、自分たちの“ウリ”として掲げているケースも少なくありません。

 

しかし、介護の現場から見ると、それはあくまで標準的な対応です。差別化や魅力のポイントとしては十分とは言えません。実際、自分たちの本当の強みや独自性をうまく言語化できていない事業所も多いと感じています。

 

マップラでは、利用者側(検索側)のニーズを整理するだけでなく、事業所自身が自分たちの魅力や特色を“客観的に見える化”できる仕組みも備えています。

 

これにより、サービス事業者自身が気づいていなかった“強み”を発見し、より効果的に発信することが可能になります。

 

——適切に表現できているかというと、また別の問題がありそうですね。

 

介護事業所のウリが表現されることが重要

——清水

事業所が表現できることや、その事業者自身の力量、介護に対する知識といったところによって、本来、事業所のウリというのは変わってくるはずなんです。独自性や個性を発揮しても良い部分だと思っています。

 

しかし、実際には介護に対する技量があまりないのに、介護のことを求めすぎて、それをウリにしてしまっている事業所もあります。本来の自分達のウリと、介護事業所だからという間で、本来のウリを表現できず、ミスマッチを生むことがあります

 

——ミスマッチが起きると、どのような問題が生じるのでしょうか。

 

——清水

重度の介護が必要なご利用者様に多く選んでもらう事となり、実はその事業所ではうまく対応できず、スタッフの重労働も重なり、スタッフの定着が悪くなる、または頑張って対応してもクレームを頂いてしまうといったミスマッチになってしまうということがあるんです。

 

ケアマネージャーとの信頼関係が構築できなかったりして、次のご紹介が途絶えてしまうということが、現実としてあります。ですから、事業所の特色やカラー、場所、メンバーをしっかり見て、このマップラで事業所のランディングページを作らせていただくことで、ウリをはっきりさせることも可能になります。

 

その施設に合う、ニーズに合うご利用者様をマッチングさせてもらうのが重要だと思っています。事業所も、ランディングページで日々の取り組みを紹介するだけで、実は“自分たちのウリ”となる部分を自然にマップラ上で表現することができます。

 

そのウリと利用者のニーズをマッチングさせることで、これまで埋もれていた事業所の魅力を掘り起こす——そんな仕掛けも実装していけるのではないかと考えています。

 

——AIによる冷静で客観的な判断があればこそ、ミスマッチを防げるという部分は大きいですね。

 

——清水

実際に展示会のときにも、事業所やケアマネージャーからお話を伺ったのですが、ケアマネージャーは自分たちが過去に紹介したことがあるところや、ご縁があるところに優先的に紹介してしまう傾向があると思います。

 

それは、利用者様からニーズを聞いたときに、「ここなら大丈夫」という太鼓判を、初めてのところには押せないからだと思います。そうすると、馴染みのあるところに比較的紹介しやすくなってしまう。

 

その範囲から外れている事業所は、なかなか紹介が得られなくて、すごく困っているというお声もありました。そういったところの掘り起こしには、マップラがつながるのではないかと思っています。

 

ジュン
「どの選択項目を選べばいいのか」という前提知識を求めない対話型AI。

 

初めて介護に直面する家族でも、「こんな希望があるんです」と話すだけで、最適なサービスが見つかります。

 

同時に、自分たちの強みをうまく言語化できていなかった小規模事業所にとっても、マップラは隠れた魅力を引き出すツールです。

 

AIによる客観的なマッチングが、ケアマネージャーの「馴染みのあるところ」優先という人間的な傾向を補い、埋もれていた事業所に光を当てます。

 

利用者にも事業所にも、双方にメリットをもたらす仕組みです。

 

インタビュー前半を終えて

AIを使った客観的なマッチングは、利用者にも事業所にも、それぞれメリットをもたらしてくれます。

 

ですが、高齢者も介護スタッフも使いこなせなければ、どんなに素晴らしい技術も宝の持ち腐れです。

 

後編では、誰もが迷わず使える工夫、マップラの先に広がる可能性をお伝えします。

 

そして、開発に携わった皆さんが大切にしている「人が人を支えるために、技術を使う」想いについてもご紹介します。

 

介護現場の声から生まれたAIマッチングシステム「マップラ」開発物語【後編】

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久田 淳吾

発達障害(ADHD・ASD)と吃音を抱える40代男性。今まで発達障害の事は知らずに生きてきたが、友人の話を聞いて自分にも当てはまる事が多すぎる事を実感し、病院にて診断を受けると見事に発達障害との認定を受ける。自分に何ができるかと考えた時、趣味の写真でプロの先生に話を聞く機会があり、吃音が強く出ていたことに気がついた先生が『君は吃音持ちだね。だったら吃音の方の気持ちがわかるはず。それを活かして吃音の方の気持ちがわかるカメラマンになったらどうか』という言葉を思い出し、発達障害者として同じ気持ち、舞台に立てる人間として趣味のカメラ、動画編集技術を活かして情報発信をする事を決意。
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