前編では、介護事業所「結う縁」とIT企業「NTC」が協力して生まれたAIマッチングシステム「マップラ」の開発経緯についてお伝えしました。
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介護支援事業所と利用者を結ぶAIマッチングシステム「マップラ」開発物語【前編】
18年前の「もう1人自分が欲しい」という想いが時代とともに形になったこと。対話型AIで専門知識がなくても使え、利用者だけでなく事業所側の魅力も引き出せる双方向のメリットがあることを伺いました。
しかし、どんなに優れた技術も、高齢者や現場スタッフが使いこなせなければ意味がありません。
後編では、誰もが使える介護DXを実現するための工夫、マップラの先に広がる可能性をお伝えします。
そして、開発に携わった三者が語る「人が人を支えるために、技術を使う」という想いもご紹介します。
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誰もが使える介護DXを目指して
高齢者も介護スタッフも使いやすいシステムを目指して
——介護関係は高齢の方も多く利用されますし、AIなどの新しい技術に対する不安や拒否感を持つ方もいらっしゃると思います。マップラを作るときに、そういった部分で気をつけたことはありますか。
——北村
AIそのものは、一般の利用者からすると、あまり気にならないのではないかと思っています。ただ、今回展示会に来られた方から、いくつかご指摘をいただきました。
例えば、最近「老老介護」という言葉がありますよね。本人が利用される際、そのご家族が既に60代になっている場合、「この文字が多すぎて読めない」といったユーザーインターフェースの部分について、もっと改良した方がいいというご指摘でした。
一番最初からそこまでできるかは別として、どこかのタイミングでは対応が必要です。目が遠くなってきて細かい文字がつらいという世代でも、ちゃんと使えるような仕組みを作らなくてはいけないと考えています。
それが音声なのか、映像なのかは、今後の検討課題ですね。ただ、AIそのものについては、もうあまり構えることなく使えると思います。
例えば電話で聞くのとそんなに変わらないレベルにまで進化してきています。一般の人からするとあまり構えなくても問題ないと理解しています。
——現場のスタッフの方々は、いかがでしょうか。
——清水
もう一つ、現場サイドというか介護スタッフの課題があります。これは年齢にあまり関係ないのですが、「パソコンが苦手」というのがよくあります。
みんな携帯は触れます。LINEもメールもできますし、インターネットのサイトを見ることも楽しめます。
でも、パソコンを触って電源を入れて、キーボードを押すということには、ちょっとアレルギーがある方が多いのが現実かなと思っています。
今回のマップラも、もちろんパソコンから使うこともできます。ただ、基本的には携帯で操作して何とかできるよう、私としては最初にNTCにお願いしました。
今、介護の現場でデジタル化がなかなか進んでいかない理由の一つがあります。パソコンが苦手なメンバーが多かったり、そういったアレルギーを持つ方が多い業界だということです。
自治体の研修でも「パソコンに触れよう」「パソコンを開いてみよう」みたいな講座があります。しかし、今から電源を入れる勉強をするようでは、100年後でも介護のデジタル化は図れないのではないかと思ってしまいます。
そういったハードルを取り払って、いつも使っているツール(携帯やタッチパネル)で操作できることを基本に開発していけたらいいなと思っています。
マップラの先にある展望(介護から障害者支援、学童保育まで)
——福祉関係は人材不足が深刻だと言われていますが、マップラ以外でもAI活用をいろいろ考えていらっしゃいますか。
——北村
元々今回、社会問題の一つとして介護問題を結う縁と組んでやろうという話をしていました。先週の展示会の中で、いくつかご指摘をいただいたことがあります。
例えば、障害者問題です。障害者の事業所を知ってもらうことが難しいという課題があり、「こういうところにもすぐ参入してほしい」との話がありました。
また、介護タクシーも3~4時間捕まらないことがざらにあります。「こういうのをもうちょっと何とかしてほしい」といった声もありました。医療機関からは、「介護とうまく連携したい」とのお話もありました。
それから少し違う分野ですが、東京都議から学童保育の話をいただきました。八王子で学童保育のマッチングシステムを作っているという話があり、「お母さんやお父さんがすぐに探せるところがあるといい」とのことでした。
同じように、「今日1日預かってほしい」という育児中のお母さんが非常に困っています。今日1日預けるところをすぐに探せると助かる、といった声もいただいています。
今すぐ全てには対応できませんが、来年どのくらいを課題として、どこに広げていこうかは考えております。
——人手が足りない部分を、AIや他の技術で補っていくということですね。
——北村
例えば、お伺いした話ですと、ケアマネージャーは利用者にマッチする事業所を探すために、あちこちに電話をかけまくるそうです。30件電話をかけてやっと見つかるのがもう普通らしいんです。
今回、ケアマネージャーからも反響がありました。「これがあれば、本来30件電話をかけるのが仕事ではないはずなのに、そこをすぐ終わらせて、本来やらなくちゃいけない仕事に時間を使える。ぜひやってほしい」という声を結構いただきました。
高齢者も現場スタッフも使いやすくするため、音声や映像、そして携帯での操作を基本に開発を進めています。
パソコンが苦手な介護スタッフでも、いつも使っているツールで操作できる。その配慮が、介護現場のデジタル化を本当に進める鍵なのだと感じました。
そして、マップラの先には、障害者支援や学童保育、介護タクシーなど、様々な分野への展開も視野に入っています。
ケアマネージャーが30件も電話をかける時間を本来の仕事に使える未来が、すぐそこまで来ています。
介護事業所で働きたい人の求人マッチングも視野に
——福祉関係は全般的に人材不足が深刻ですね。
——清水
今回のマップラも、展示会に出展したときのアンケートで、反響が大きかった機能がありました。それは、求人マッチングです。
今回のマップラでは、ご利用者やケアマネージャーが紹介するご利用者と事業所をマッチングさせるために、ニーズを抽出するAIを使っています。そこに求人も一緒に組み込めたら面白いかなと考えています。
——介護施設で働きたい人と事業所のマッチングもできるということですね。
——清水
「介護で嫌な思いをした」ということをAIに向かって話していきます。すると、自分のニーズに合った事業所の候補が挙がってくるというマッチング機能を持たせられると面白いかなと考えています。
介護で働きたい人にとっては、いろんな事業所がある中で、「自分にはどこの施設があうのだろう」と悩みます。今の情報からは結構わかりにくいのが現状だと思っています。
ちなみに、結う縁では、半日ないしは1日ほど、ボランティアとして現場を見てもらう事を実施しています。それほど、口頭での説明と実際に現場を見るのでは感じ方に違いがあると思っています。
求人を見ても、自分の強みを生かせるのかどうかは、なかなかわからないことが多い。一歩足を踏み入れないと現場の様子がわからない。これも意外と介護の施設ではあることなんです。
働いてみて初めて明かされるいろいろな現実があると思います。だから今回マップラの中で用意する事業所のランディングページでは、事業所の中の様子やスタッフがどんな人かが分かることも重要だと思っています。
介護で働いた後のミスマッチを避けられるような要素も含めることができるかなと考えています。
技術は裏側に、使いやすさを前面に
——今後、技術面に関して何か想いはありますか。
——西
やはり理想としては、裏側の仕組み(AIがどうのこうの)をユーザーが意識することなく使えることです。自然にこういう課題解決の中に浸透していくような技術提供ができていくのが理想かなと思います。
そういう面で、内部的な技術仕様や構成というよりは、もうちょっとインターフェース(誰でも使えるような簡単な操作環境)ですね。
そういったところが合わせて整備されていくと、やっぱり浸透していくのかなと思います。その両輪かなというふうに感じております。
——他に開発されている技術はありますか。
——北村
これはマップラそのものではないんですが、別の技術で「入浴介護」というものがあります。
入浴介護中は手が濡れているときに記録をしなくちゃいけないと結構大変です。一回手を拭いて、また記録して、また濡れて……というのが大変なんです。
そこを全部音声だけで記録させようというのも、並行して開発しています。「Inspec Talk」という製品で、これは実は日本語だけじゃなくて多言語対応です。
例えばタガログ語やベトナム語などにも対応していて、実際に結う縁でもフィリピン人の方が働いています。
その人がやっぱり記録を取ると、どうしても日本語で書くのはまだ難しいです。タガログ語で喋ってもらって、それを日本語で記録するという開発も並行して進めています。
これがAIを使うメリットの一つかなと、今私たちは考えています。今後、人材不足に対して、政府の方針として日本人だけではもう無理だということが出ています。海外の方を介護業界に迎え入れる流れになっています。
特に今、フィリピン人やミャンマー人の方などが増えていると思います。そういう方に対して、事業者側が「日本語が10割ペラペラじゃなくても、ちゃんとやっていけますよ」という形に、うまくAIが介在できるんじゃないかと考えております。
——AIのおかげでいろんな壁がどんどん消えていく感じですね。
——北村
そういう世界観だと思っています。
技術の進歩で何でもできるようになってきています。やはり一番重要なのは、どういう人が集まって、その人が一番使いやすいシステムを作ることですね。
「自分にはどこの施設があうのだろう」と悩む求職者が、AIに自分の強みや経験を話すだけで最適な事業所が見つかる仕組みです。
結う縁では実際に半日ボランティアで現場を見てもらうほど、口頭説明と実際の現場には違いがあるといいます。
並行して開発中の「Inspec Talk」は多言語対応で、フィリピン人スタッフがタガログ語で話した記録を日本語に変換。AIが技術の裏側に隠れ、使いやすさだけが前面に出る。それが理想の形です。
開発者からのメッセージ
——それでは最後に、この記事を読んでくださる方に対してのメッセージをお願いします。
——清水
今回マップラを思いついたきっかけは、決してデジタル化を図って、人に対してデジタルで支援していこうというものではないんです。
最終的には、人が人を支援するために、その時間を捻出するためにデジタルを活用したい。それが一番の思いです。地域の私たちの仲間である介護事業所の人たちも、そういう思いでいます。
ただ今は、人に対しての支援をしたいのに、事務仕事や記録に追われてしまっています。支援しなきゃいけない人を待たせてしまっているという現実があります。
そういったことを解消するために、デジタル化を活用していける介護の世界を作り出せたらと思っています。ぜひ今後も期待していただければ、いい製品を作っていきたいと思っております。
——西
私も同じような方向性です。やはりこういったシステムを作ることを生業としていますが、最終的には、その人が働きやすく、生活しやすいところを支援できるものを作っていきたいと考えています。
今回のマップラも、そういう意味で、利用希望者やケアマネージャー、介護事業を運営されている方が対象です。より働きやすく、より生活しやすくなるための一つの手段として提供できればいいかなと考えております。
——北村
私もこのITソフトウェア開発業界で20年以上働いています。主にインフラ系(携帯会社や鉄道会社といったシステム)をずっとやってきました。それはそれで重要な社会インフラですから、当然重要なシステムです。しかし、そういうのばかりでした。
今回初めて、こういう本当に地域密着というか、世の中の社会問題の最先端である介護問題に取り組みます。ソフトウェア開発によって(最近だとAI)解決できるというのは、私のソフトウェア開発人生の一つの集大成なのかなと思っています。
本当にこれは気合を入れて取り組みたいと思っております。
——ありがとうございました。
インタビューを終えて
取材を通して印象的だったのは、三者三様の立場から「人が人を支援するため」という共通の想いが語られたことです。
現場の声を知る清水さん、技術で社会課題に挑む北村さんと西さん。それぞれの専門性が交わることで生まれたマップラは、単なる便利なツールではなく、介護の未来を変える可能性を秘めています。
AIが進化する今だからこそ、「技術は裏側に、使いやすさを前面に」という西さんの言葉が心に響きます。デジタルが目的ではなく、人と人をつなぐ手段として機能する。それこそが、本当の意味での「人にやさしい介護DX」なのでしょう。
介護から始まったマップラは、今後、障害者支援や学童保育など、様々な分野への展開も視野に入れています。技術と現場の声が交わり続けることで、もっと多くの「困った」が解決されていきます。そんな未来が、すぐそこまで来ています。
マップラ問い合わせ・詳細情報
mappla詳細 問い合わせ先
株式会社NTC
住所:
〒170-6028
東京都豊島区東池袋3-1-1 サンシャイン60 28階
株式会社結う縁
住所:
〒215-0021
神奈川県川崎市麻生区上麻生6-29-15
電話番号:
044-328-5696
久田 淳吾
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