あなたは、あん摩という言葉を知っていますか?
ご年配の方なら聞いたことがあるかもしれませんが、若い方にはなじみのない言葉かもしれません。
あん摩というのは、体をもみほぐして具合の悪いところを元気にしていく手技療法のことです。
「それマッサージじゃないの?違うの?」となる方もいらっしゃるかもしれませんね。
最近はあん摩のことをマッサージと呼ぶことがほとんどになりました。
あん摩もマッサージも体をもみほぐす手技で、言い方が違うだけです。マッサージは多くの人が知っている言葉で、あん摩は少しずつ忘れられていっている言葉ですよね。
これはとても残念なことだと思います。
そんなあん摩ですが、本当の意味であん摩について知っている人はとても少ないと思います。
「マッサージのお店は町中にいっぱいあるし、やってもらったこともあるよ」と聞こえてきそうですが、実はそこには大きな誤解があります。
そこで、視覚障害者のあん摩屋さんの一人として、あん摩のことをもっと多くの方に知っていただくために、あん摩の魅力、素晴らしさ、そして現状をご紹介したいと思います。
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あん摩とは
多くの人が思い浮かべるマッサージというと、例えば足裏マッサージとか、ヘッドマッサージとかいうふうに、種類がたくさんあるイメージかなと思います。
具体的にどんなマッサー ジがあるかは置いておいて、もみほぐすことをマッサージと言っているのではないでしょうか。
でも、もともといわゆるマッサージというのはヨーロッパ発祥の手技のことで、手足の先から心臓に向かって血流を戻すために行われる施術のことなんです。
つまり、世間で何々マッサージと言ってもみほぐしているのは、体のどこどこをマッサージしますよということで、それも厳密に言うなら、手技としてはマッサージではなく、あん摩になります。
あん摩とマッサージと指圧の違い
あん摩は、いまふうに言えばマッサージのことです。そしてあん摩には、
- あん摩
- マッサージ
- 指圧
の3つの手技が含まれます。
あん摩の定義
一般的にマッサージと呼ばれている、服の上からもんだり、押さえたり、さすったりして、こりをほぐしたり、緊張を和らげたりする手技は、正しくはあん摩になります。手足の関節を動かして柔らかくするのもあん摩です。
マッサージの定義
マッサージは、直接肌に触れて手足の先から心臓に向かって主義を行い、血流を改善していきます。
もむと言うよりは、まさに血液やリンパを体の中心に送るという感じなので、さするとか、絞り上げるような主義が中心です。むくみや冷えなどの血流に関する症状に適しています。
指圧の定義
指圧は、つぼやこりを指や手のひらで押さえる手技です。神経痛や疲れ目といった具体的な症状があるとき、指圧を用いて施術をします。
あん摩はどこで受けられるの?
あん摩は、あん摩マッサージ指圧師の国家資格を持つ施術者がいる治療院で受けられます。
病院や整骨院にもあん摩マッサージ指圧師の国家資格を持つ施術者がいる場合があります。
あん摩の効果って?
あん摩はとてもたくさんの効果をもたらしてくれます。
分かりやすいのは、肩がこったり腰が痛いとき、もみほぐして痛みを和らげることができます。
固くなった関節を和らげたり、動かしやすくします。
足のむくみ、冷えによる血行不良、便秘にもあん摩はよく効きます。
不眠症でやってきた方が、あん摩を受けながらぐうぐう寝ていたなんていうこともあります。
東洋医学の考えでは、体の中には経絡(けいらく)という目に見えない道と、ツボがあるとされ、経絡の流れのバランスをよくすることで症状を改善していきます。経絡は神経と密接に関係していると言われています。
全身にあん摩を行うと自律神経のバランスを整えることができるので、免疫力を高めたり、体力の回復につながります。なんとなく調子が出ないときは、ぜひあん摩屋さんを訪ねていただけたらと思います。
あん摩屋の見せ所
例えばあん摩屋さんのところに体のどこかが痛い人が来たとき、あん摩屋さんは言われた通りに痛いところをもんでいるわけではなく、なぜ痛みがあるのかを考えて施術をします。
- 疲労がたまって痛いのか
- 冷えて痛いのか
- 心理的な痛みなのか
- どこかに挫傷や炎症があるのか
などなど。
例えば、腰が痛いとあん摩屋さんを訪れても、実は肩の周りの筋肉の張りが原因で腰に痛みを感じていたということがあります。
そんなときは、腰をもみほぐしても施術効果は出ません。
また心理的な理由から体に痛みを感じている人の場合、痛みのある場所の筋肉をもみほぐすと、かえって痛みが悪化してしまう可能性もあります。
患者さんの訴えはとても重要なヒントになります。
そして体に触れて確かめることで、いろんな情報を感じることができます。
ころ加減はプロの技!
肩がこっているとき、「あ、そこそこ、もっともんで」とよく言われます。
気持ちがよければいくらでも揉んでほしいですよね。
でも、やり過ぎたら後でその場所が痛くなってしまったり、かえって具合が悪くなることもあります。
施術にご満足いただきながらも、施術が終わったとき一番効果が出る適量と、施術を終えるタイミングを絶妙に見極めています。
ここがプロの技、高性能マッサージチェアには絶対にまねのできない、人の手による技なのです。
医療保険が使えることも
医療保険の取り扱いの届け出がされている治療院では、医療保険を使って施術を受けることができます。
少し前まで、あん摩の医療保険は地方自治体ごとに取り扱い方法に違いがあり、あまり知られていませんでした。
平成31年1月からは制度が統一され、全国どこでも同じ条件で、あん摩の医療保険取り扱いができるようになりました。
特定の症状を持つ方は、医療保険が適応されるかもしれませんので、治療院に相談してみるのもいいですね。
あん摩の場合、適当な治療法がない慢性疾患で、筋肉の萎縮、麻痺、関節の拘縮(固まって動かない状態)があると医療保険の対象になります。
これらの判断はお医者さんがします。あん摩で医療保険を使うには、医師の同意書が必要です。
また、医師に往療を同意していただければ、在宅療養中の方にも、あん摩をご利用いただくことができます。
在宅で療養をされている方は、思うように体を動かせなかったり、ベッドで過ごす時間が長い方もおられますよね。
そうなると、全身の血行が悪くなったり、関節が固まったり、筋肉が萎縮したり、これらが原因で痛みが出てきたりします。
体に苦痛を感じながら生活をするのは本当につらいことですので、これらの症状をあん摩でケアしていくことができます。
あん摩マッサージ指圧師という国家資格
先にも少し触れましたが、あん摩屋さんになるにはあん摩マッサージ指圧師という国家資格が必要です。
あん摩は、健康だけどリフレッシュしたい方から、ちょっと体調に不安がある方、どこか痛めてしまった方、ご自宅で療養中の方まで、幅広くご利用いただける手技です。そして医療保険が使えます。
この資格を取得するには3年間、専門の学校に通う必要があります。
そこであん摩、マッサージ、指圧の専門知識をはじめ、体の仕組みや働き、けがや病気のことなど、医学に関する基本的な知識を学びます。
最後に国家試験を受けて合格し、はじめてあん摩マッサージ指圧師の国家資格が得られます。
あん摩屋さんは、国家資格を持つ医療従事者なのです。
あん摩屋さんの悩みごと!
ここまで、あん摩屋さんができることをいろいろと書いてきました。
決して自画自賛ではなく、皆さまの元気を支える一助になり得る手技だと自負しています。
ところが残念なことに、あん摩屋さんの存在はあまり知られていません。
簡単に言えば、「○○に効く」とか、「△△が治ります」と宣伝することは違反行為で、罰則があります。
また、店舗の外から見えるところに料金を書いてはいけないことになっています。
書いていいのは屋号や住所、電話番号、施術時間や予約の有無などで、施術の特長や効果のアピールは書いてはいけません。
だから看板は地味なものになりがちですし、チラシをつくっても場所と屋号の案内がメインになってしまいます。
要は目立たないのです。
そうなんです。そういうお店は存在します。
宣伝をしているお店は、あん摩マッサージ指圧師の資格を持っていない人が施術を提供している場合がほとんどなんです。
残念ながら世間でマッサージと言えば、この無資格社が提供している施術を差すのが一般的になってしまっています。
あん摩屋さんの現状
手塚治虫さんの漫画で、『ブラック・ジャック』という作品があります。
主人公の闇医者ブラック・ジャックが、高い治療費は取るけれど、誰にもまねのできない医療技術で人の命を救っていく展開がとても面白いです。
でも彼は無免許医師なので、犯罪者として刑事さんに追われるシーンがあります。
これと同じで、あん摩やマッサージも無資格社が提供してお金をもらったら罰せられます。
それなのに無資格社が施術を提供するお店は営業を続けています。
罰せられていないんですよ。それは何故か?
厚生労働省は、あん摩マッサージ指圧師の国家資格を制定しているにもかかわらず、「医学的観点から人体に危害を及ぼすおそれがあれば禁止処罰の対象にすること」と定めた上で、無資格者による施術の営業を認めているんです。
ややこしい言い方をしていますが、要するに無資格者があからさまに、あん摩、マッサージ、指圧と名乗って施術をしたら罰せられるけど、人の体に触れる施術を安全に提供できるのならやってもいいよということです。
この厚生労働省の対応は、無資格社が施術を提供するお店を爆発的に増やしてしまいました。
社会で共有したいあん摩屋さんの立場
施術を受けたい方にとっては、自身の満足できる結果が得られれば資格の有無は気にしないという方も少なくないと思います。
逆に事実を知って国家資格を持つあん摩屋さんのところに行きたい方もいるはずです。
無資格者と知っていても魅力的な施術だと思えばそちらに行きたい方もいるかもしれません。
もちろんどんな施術を受けるかを選択するのは自由です。
ただ、こういった事実を知らなかったため、自分で行き先を選択することができなかったのなら、それは残念なことです。
いまの社会はあらゆる場面で多様化が求められ、あん摩屋さんのお仕事も、どんどん分業されていっています。
例えばスポーツマッサージ、母乳マッサージ、リンパマッサージなどといった分野も昔はあん摩屋さんが担っていましたが、最近はそれぞれ医療従事者たちによって独自に進化をし、新たな形態をつくっています。
また、あん摩屋さんでも医療保険を使った訪問マッサージを専門に提供する業者が増えています。
こちらは、在宅療養中の方への施術や介護保険サービスと併用した施術を行いますので、他業種間連携が求められる業務になってきています。
あん摩屋さんは視覚障害者のお仕事
皆様は、江戸時代には、あん摩屋さんは視覚障害者のお仕事として広く社会で認識されていたことをご存知ですか?
時代劇や小説、落語なんかにそういう視覚障害者のあん摩屋さんが出てきたりしますね。
そんな歴史的背景もあって、現代では、視覚障害者があん摩マッサージ指圧師免許を取得することが法律で守られています。
少し前までは、視覚障害者のあん摩屋さんは当たり前の存在でした。
でも、最近は無資格者の施術に取って代わられ、視覚障害者のあん摩屋さんの存在を知らない人が増えているようです。
法律で守ってもらっているはずの視覚障害者のあん摩屋さんが、法律の裏をかいた商売によって忘れられていくのは本末転倒な気がします。
あん摩さんは300年続く職業です
突然ですがSDGsという言葉をご存知ですか?
最近よく耳にするので、皆さんご存知だとは思いますが、SDGsは国連が発信している2030年までに達成すべき17の持続可能な開発目標のことです。
詳しくは触れませんが、その8番目の目標の中に、「2030年までに、若者や障害者を含むすべての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、ならびに同一価値の労働についての同一賃金を達成する」というのがあります。
大きな目標ですよね。
この目標の達成をめざして、世界中の企業が障害者雇用を進めていこうとしています。
この8番目の目標を知ったときに思ったのは、日本には江戸時代から続く持続可能なあん摩屋さんという視覚障害者のお仕事があるじゃないかということでした。
これは良くも悪くも、あん摩屋さんは目が不自由なのが当たり前という社会的構図がいつの間にかできていたから、需要と供給が成り立つ自立した職業になり、現在も続く持続可能なお仕事になっていったのではないかと思うのです。
もしかしたら、もともとは差別的な意味合いもあった職業かもしれません。
それでも300年以上も社会に受け入れられてきたスタイルです。
視覚障害者が守り、社会に守られてきたあん摩のお仕事を、この先ももっともっと視覚障害者が続けたい、続けてほしいと思います。
あん摩業は視覚障害者のステータスの一つであることを、たくさんの方々に知っていただきたい、そして視覚障害者のあん摩屋さんをご利用いただきたいと願います。
視覚障害者のあんま屋として
最初にあん摩もマッサージも同じ意味だと言いました。
でも現代社会では、資格の有無にかかわらず人の体に触れて施術をする手技全般をマッサージと呼んでいる傾向にあります。
もちろん法律上は、マッサージと名乗って施術をしていいのは、医師とあん摩マッサージ指圧師の国家資格を持つ人だけなんですが、そんな理屈を並べたところでもうどうしようもないぐらいマッサージという言葉があちこちで使われています。
そんな時代になった今、あん摩マッサージ指圧師の国家資格を持つ施術者が、体にお悩みを感じる方の前進を見極めて施術をする手技を、あえて昔のように「あん摩」と呼んではどうかと思うのです。
社会から忘れられかけているあん摩という言葉ですが、昔からあるものだけど新しいブランドとして皆さんに知ってほしい、あん摩屋さんはそう思っています。
長いお話にお付き合いいただきありがとうございました。
少しでもあん摩屋さんのことが伝わっていたらうれしいです。
もしあん摩について何か感じるものがありましたら、ぜひ他の誰かにも伝えていただければ幸いです。
榊原尚子
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- 視覚障害者のあん摩屋さんが教える!あん摩とマッサージと指圧の違い - 2022年4月16日